13.一日目・夜 晩御飯(1)
食堂に行くと、予想したとおり先客の姿がぽつりぽつりと見受けられた。
奥のソファ席には、宇佐美とあーちゃんが同席し、楽しそうに会話をしながらお茶を飲んでいる。このふたりは女性同士(アバター上の話だが)、気が合ったみたいだな。
そして、ふたりから離れた位置のテーブル席には、夢人がひとりで座って食事をとっている。
(どちらに声をかけようか……)
夢人のほうが、こちらからは近い位置にいるが――。
「僕は変わったんだ……大丈夫……いざとなれば僕の呪われた右手の竜が……ふふっ、ふふふふ」
近づいていくと、ぶつぶつと呟かれるそんな独り言が耳に入ってきて、声をかけそびれてしまった。取り込み中のようだ。
瞑想の邪魔をしては申し訳ない。そっとしておくことにしよう――。
視線をずらし食堂の奥のほうへ目をやると、こちらに気づいたあーちゃんが手を振ってくれたので、引き寄せられるようにソファ席へと足を向けた。
「ライさ~ん! ……だったよね? これからご飯するんだったら、あたしらと一緒に食べようよ」
「いいんですか?」
「いいよ~! ライさん、ちょっとかっこいいし。ねっ、うさみん。……あ、堅苦しいのは苦手だから。ため口でいいよ」
おぉ、あーちゃんにかっこいいと褒められたぞ。
だけど、若く見えても本当は、少しくたびれたオジサンなんだが……騙しているようで、少しだけ良心が傷む。
……が、それもお互い様かな?
「ライさん、良かったら、こちらにどうぞ」
宇佐美のほうも柔和な態度だ。少し照れた面持ちで、自分の隣の席を勧めてくる。
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
実物どおりの外見でも、こんな風に誘ってもらえたかなぁ……。そんなことを考えながら、勧められた席へと腰を下ろした。
すると、宇佐美はふっと真剣な表情をして、ぺこりと頭を下げてきた。
「ライさん。先ほどは、助け舟を出していただき、ありがとうございました」
「ああ、いえいえ。思いついたことを言い散らかしただけで……」
「そうだよ、かなりイケてたよ、ライちゃん!」
(ら、ライ……ちゃん……?)
あーちゃんからの呼称が、一瞬でちゃん付けに変わってるし……。異世界転生もびっくり、急展開の大躍進だ。
どうやら、さっきの話し合いで、このふたりからの好感度は爆上がりしたらしい。やるじゃないか、俺。
「でもさぁ、失礼しちゃうよね。あいつ――ヒカルとかいう男! 見た目はイケメンなのに、か弱い女の子を相手に犯人だと疑ってかかるなんて……」
あーちゃんは息巻いているが、宇佐美のほうは落ち着いている様子だ。
「うん、まぁ……。でも冷静になってみれば、そうやって疑い合うゲームだし……。私もひとりで先走らずに、あーちゃんを呼んで、一緒に行動すればよかったなって思う」
「そうだよ、今度から一緒に行動しようよ! 女の子同士、力を合わせよう!」
女子の会話は早口で、耳でついていくのがやっとだ。
だがこのふたりは、今後は協力体勢をとるみたいだな……。相手が信用できるなら、一緒に行動する仲間を作るのもいいかもしれない。そうすることでアリバイを確保できるかもしれないし、犯人に狙われる危険も減る。
「なんかさ、抽選に当たったからって参加してみたけど~。あーちゃんはこのゲーム、あんまり好きくないな。相手人間なのに、疑ったり、騙したり? 喧嘩になるし、嫌な気持ちにならない? 死体も気持ち悪いしさ……」
あーちゃんがこちらに顔を向けてきたので、苦笑しながら応じた。いい話題を振ってくれたものだが、わが社の商品を貶められると、ちと辛いものがある……。
「推理自体は楽しいものだと思うよ。残酷描写に好みが分かれるかもしれないけど、調整していけば良いものになる気がする。
良かったら聞かせてほしいんだけど――ふたりはどうして、このゲームに参加したの?」
まず、宇佐美が答えた。
「私は、もともとミステリーの本やゲームが好きなの。自分の体みたいに自由に動いて推理できるなんて、夢みたい。誰よりも早く遊んでみたくて、抽選が当たったときには天にも昇る気持ちだったわ」
笑顔は喜々として輝いている。どうやら本当に推理ゲームが好きらしい。
次にあーちゃんが、参加理由を語りだす。
「あたしは、Qtubeで番組持ってるからさ、話題にしようと思って。このゲーム注目されてたし、視聴率上がるっしょ?」
さっきも言ったとおり、推理ゲームはあんまり得意じゃないんだけどね……と続ける声はハキハキとしていて、よく表情が動く。現実世界でもアイドルのようなキャラなんだなと察せられた。
「へぇ、キューチューバーなんだ。すごいな」
「へへへ。現実に戻ったら『あーちゃんのミラクル☆スマイル』で検索してみてよ。コメントも待ってるから。絶対ね!
……で、ライちゃんはどうなの? このゲームに参加した理由」
「うん? 俺は……」
さすがに自分だけ答えないわけには、いかないか。
当たり障りのない、用意しておいた理由を口にする。
「知り合いが抽選に当たったんだけど、参加できなくなって、代わりに頼まれたんだよ――わっ!」
――がしっ!
突然後ろから何者かにがっしりと肩を組まれて、ぎょっとする。
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