10.アリバイ検証(2)
ヒカルが話を先に進めた。
「情報の整理を続けるぞ。
犯行現場はコントロールルームと見てほぼ間違いない。部屋から出るのに権限はいらないが、入るには権限がいる。コントロールルームに入れるのは船長のみだった。ならば犯人はどうやって部屋に入ったのか?」
その問いに、俺が答える。
「船長が招き入れたんじゃないか? 犯人と顔見知りだったとか」
侵入の難しい場所をわざわざ狙って愉快犯という線は薄いから、怨恨(というシナリオ上の設定)があったのだろうと考えるのが自然だ。
「でも、コントロールルームなんて大事な場所に、人を招き入れるでしょうか……?」とエレノア。
ヒカルも考えを巡らせながら推理しているのか、しばらく黙って――「……そうか。それなら……」と小声でなにやら呟いている。そしてすぐに自信のありそうな顔を上げ、口を開いた。
「まぁ、船長が生きている状態でなら、部屋に入れる可能性はある……としか今は言えないですね。それはそれで、ひとまず置いておきましょう。
――次に、実際の犯行時について。犯行は十中八九、アラームが鳴ったときに行われた。アラームが鳴ってから僕らがコントロールルームに駆け付けるまで、タイムラグはあるが、割と早くたどり着いたほうだと思う。犯人が悠長に逃げられるだけの時間は、そんなになかったはずだ。
……そういえば宇佐美さんは、僕らより先に、コントロールルームの前にいましたよね?」
「え、ええ……」
宇佐美が戸惑った声で答えた。
「現場に到着するまでの道中、誰かに会いませんでしたか?」
「誰にも会わなかったわ。ロビーにいたから、すぐにエレベーターを呼んで、誰よりも先に三階へ向かったから……」
「そうですか……犯人もそのとき、三階にいたはずですよね。
三階の廊下はエレベーターから一本道。途中にある船長室は開かないし、隠れる場所はない。
犯行を終えた犯人が急いで現場から離れたくとも、宇佐美さんがそんなに早く駆け付けてしまい――犯人に逃げる暇なんて、あったのでしょうか」
「……それがわからないから、考えているんでしょう」
責められていると感じたのか、宇佐美の目が細くなった。
「そこで思ったのですがね――。
船長を殺害した犯人は、コントロールルームから急いで逃げなければならない。だが、三階から下りる方法はエレベーターしかないし、たとえ速やかに乗り込み階下に下りれたとしても、ロビーで誰と顔を合わせるかわからない。走って部屋に戻ろうとしたり、エレベーターで三階から二階に降りてきたところを誰かに見られたら、一発でアウトだ。急いで逃げる、その行為自体にかなりのリスクがあったということです。そう突き詰めていくと……最も怪しい人物が浮かび上がってきませんか」
ヒカルの視線の先にいた、宇佐美の目が吊り上がる。
「何が言いたいの?」
ヒカルは、その視線を真っ向から受け止め、言った。
「ですから、最も怪しいのは、真っ先にコントロールルーム前にいた、宇佐美さんということに――」
「違うわよ! 私はたまたまロビーにいたから、エレベーターに一番先に乗ることができて、現場に早くたどり着いただけ! そもそも皆が来るのが遅すぎただけでしょう!?」
「僕はひとつの可能性を示しただけですが、むきになるところが怪しいですね」
「なっ……失礼な人ね!」
元は落ち着いた雰囲気を持っていたはずの宇佐美も、さすがに血相を変えて論戦している。犯人だと疑われたら、いい気はしないだろう……。それに、ヒカル以外の人々からの視線も、疑念が混じったものに変わり、焦っているのかもしれない。
だが、本当に宇佐美が犯人なのか――?
「ちょっと待ってください」
一方的な意見を押し付けられた宇佐美が気の毒だったのと、別にも思うところがあり、口を挟んだ。
お読みくださり大変ありがとうございました!
もし気に入って下さったら、
下の☆☆☆☆☆からの評価や、ブックマークをしてくださると、励みになります。
続きのほうも何卒よろしくお願いいたします(*ᴗˬᴗ))ペコリ