表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/6

Ex. 水面下の妹の戦い

どうもこんにちは、隅原 咲です。

お兄が女の子になっちゃって約一週間が経ちました。

最初の頃はほんとに酷いもので、男としての感覚が抜けてないっていうか……

まぁ正直今も抜けてないんだけど、少しずつましにはなってきたかな。


そんなお兄だけど、学校生活はどうなんだろう。

華憐ちゃんがついているとはいえ、

変な男に絡まれたりしないだろうか……。

って、何言ってんだ私は。

これじゃ自分の顔可愛いって褒めてるようなもんじゃない!

ふと自分の顔を見て、何個かポーズを決めてみる。


「……まぁまぁ可愛いほう…だよね?」


その私と同じ顔になっちゃったお兄。

夏歌ねえが髪型まで一緒にしてしまったせいで、余計見分けがつかない。

外出するたびに双子に間違われるし……。


「でもお兄、少しかわいそうかなあ」


華憐ちゃんへの恋心。

それは、この3年間で嫌と言うほど見てきた。

女心を知らないお兄が、必死になって勉強して、アピールして。

最初は面白半分で見ていたけど、だんだん応援するようになってきて。

ついに告白…ってなった時にあんなことが起きるなんて……。

初めて会った時の華憐ちゃんは、とても物静かで。

女の私でも、綺麗と思えるほどに魅入ってしまったのを覚えている。



『なあ、咲。女って何だと思う?』


「……哲学の話してる?」


学校でのお昼休み、お兄から突然電話がかかってきた。

急に女についての定義を問われても、何と答えればよいか……。

話を聞く限りだと、ここ数日の華憐ちゃんの距離感が近いとの事。

感がよい私は、もう既に華憐ちゃんの気持ちを知っていた。


――おそらく華憐ちゃんも兄の事を好きなのだろう。


つまりはお互い気持ちを知らない両想い。

私はそれを知っていてなお、お兄には伝えなかった。

ただ、華憐ちゃんも昔はあれほど会話ができていたわけではない。

お兄への態度が冷たいのは照れ隠しなのかは知らないが、

少しずつ柔らかくなっている。

お兄自体は全然気づいていないみたいだけど……。


『お兄が変な行動取らないか心配してるだけでしょ。

 同中なんだし、変な噂とかされるの気にしてるんじゃない?』


――私は嘘を吐いた。

当たり障りのなく、馬鹿なお兄が納得できるような返事だ。

恋愛も大事ではあるが、今は周りのサポートが大事。

昔から知ってる華憐ちゃんなら任せられる。


そうこうしているうちに電話が切れてしまったが、

私は少しばかり頭を悩ませる。

妹として、兄の恋心を応援したい気持ちはある。

そう、この気持ちは嘘ではない。


ただ、私の中で気になっている点が一つ、そして割り切れない点が一つあった。

この余計な感情のせいで、私は今日も悩みが尽きないのだ。



◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆


始業式。

珍しく部活も休みであり、授業も午前中で終わり。

阿澄は午後からも授業がある為、私は家で一人だった。

いつも通り自堕落にテレビを付け、そしてソファに足を投げ出す。

携帯を扱いつつ、横目でテレビを見てると、丁度目を引く話題が出てきた。


『柊財閥の新事業の展開についてですが……』


柊財閥。

聞き覚えのある名前でお察しの通り、華憐ちゃんの家の話だ。

様々な事業を展開しつつ、その全てが大成功。

超が4つは付くぐらいのお金持ち……。

二人が通っている阿澄も、柊グループの所有物の一つ。


対してうちは平凡。

お父さんが死んじゃってからは、お母さんは仕事ばかり。

家計的にはそんなに楽なものではない。

まぁ確かに逆玉の輿っていう言葉もあるけど……。

お兄を過小評価しているつもりもない。

しかし、やはり家柄同士の格差にどうしても悩んでしまう。

なんかキッチリしてそうでめんどくさそうだし。


「んー……」


とはいえ、兄の恋愛は全力で応援したい。

ただ、手出しをしない程度には。


その時、ふと家のチャイムが鳴り響く。

時刻は午後2時。

まだお兄は帰ってこないはず。


「はーい」


少しラフな格好に着替え、私は玄関の扉を開けた。


「やぁ」


「夏歌ねえ」


夏歌ねえだった。

幼い頃からよく家に遊びに来る為、私の中ではお姉ちゃん的な存在。


「いやぁ、春だけど暑くなってきたねぇ」


「学校は? もう終わったんだ」


「うん、枇々高は午後からは授業ないからねー。お邪魔します」


枇々木女学園。

夏歌ねえが進学した高校だ。

家からも近いし、通いやすいとの事で選んだらしい。

リビングに上がり、ソファに座り込んで二人ともまったりする。

夏歌ねえは近所なので、特に用事がない時もしょっちゅう家にやってくる。

それは、高校生になってからもどうやら変わらないらしい。


「いおりんの調子は?」


「なんとかやっていけてるみたいだよ。華憐ちゃんのおかげかな」


「あはは。柊さんが一緒なら心強いね」


私は知っている。

この数年間、兄をずっとみてきた私は知っている。

そして、これこそがもう一つの悩みの種である。


「ほんと……羨ましいな」


――夏歌ねえは、お兄が好きだ。


夏歌ねえの性格は、今までの経験からして色々知っている。

面倒見がよく、優しい。

そして誰に対しても肯定的で、否定の意見もしない。

ただ、それに対して、自分の気持ちに臆病なのだ。

個人的には、昔から知っている夏歌ねえを応援したい気持ちはある。

それでこそ、兄が好いている人を見極めようと同じ部活に入った。


しかし、兄の恋心に対して、納得がいく部分が多少あった。

確かに少し人を遠ざけている印象もあるし、当初は冷たくも感じた。

華憐ちゃんは優しいのだ。

ただ単にお兄の妹だから優しくしている、という理由でもなく。

仲良くすればその人柄がよくわかる。


だけど、夏歌ねえはずっとその気持ちを仕舞い込んでいた。

華憐ちゃんと会うより前に、お兄の事をずっと好きでいてくれたはずなのに。

そんな寂しさに、私は胸を締め付けられた。


華憐ちゃんへの告白が上手くいかなかったとき、内心ほっとしていた。

それは、この夏歌ねえの気持ちを昔から知っていたからである。

ただ、私はお兄の恋愛も尊重したい。


――だからこそ、私は平等に応援したいのだ。


「華憐ちゃん、結構お兄の世話を妬いてくれてるみたいだよ」


「そ、そうなんだね」


「夏歌ねえは……いいの?」


私の問いかけに、夏歌ねえは顔を赤くする。

気持ちはとっくに気付いてる。

そして夏歌ねえも、私に気付かれている事を察している。


「あっはは、だって、学校も別だし、私が出る幕ないかなーって」


「いつも理由つけて遠慮するよね……」


夏歌ねえは自分の気持ちをうまく出さない。

他人が満足すれば自分も満足できる性格なのだ。

だけど、このままだと華憐ちゃんの一本勝ちになってしまう。


「いい? 女の子同士でしかできない事で、お兄に意識させるのがポイントなの」


「意識……?」


「そう。同性だからこそ距離感を近くする事が可能なの」


異性に対し、ドキっとする事はいくらでもある。

だが、その内容は同性の場合難しい。

ただ、性別が違った場合、恋人ではない二人はどうしても何かしらで壁ができる。

性別が同じだった場合、その壁は取っ払う事ができる。

異性を意識させる事は難しい。

しかし、裏を返せば壁がない事を行えるため、仲良くなる手段が増えるのだ。


「といっても…何があるのかな」


「――それは私にもわからないけど」


ここまで言っておいて、私には何も思いつかなかった。

くそっ!馬鹿な私を許してください!


「華憐ちゃんは確かにお兄ちゃんの初恋かもしれない」


「っ……」


「でも、夏歌ねえには、『幼馴染』という関係性がある」


幼馴染。

恋愛において、絶対的有利に立てる立場にある。

まぁ、仲良くなりすぎてそういう感情にならない事もあるかもしれない。

だが、夏歌ねえはお兄の事が好き。

この感情があった場合、その定義は崩れ去るのだ。


「そこを活かしつつ、頑張っていこうよ?」


「……うん」


平等に行きたい私。

だが、少しばかり今回は夏歌ねえに肩入れしてしまった。

大丈夫。

まだ焦る時間ではない。

何よりお兄の性別は今、女性なのだ。

よっぽどのことがない限り、事は進まないはず。


「お腹すいちゃったね。素麺でも食べようか」


「……あはは、まだ夏じゃないよ」


気づけば昼ご飯を食べていない。

どうやら夏歌ねえも一緒だったようで、私の提案に朗らかに笑った。


二人の恋愛はどっちが勝っても恨みっこなし。

華憐ちゃんが一歩リードを踏んでいる事は間違いはない。

しかし、それを夏歌ねえにはそれを覆すポテンシャルがあると私は信じている。


まぁ、華憐ちゃんの気持ちがほんとにそうなのか、今度確認する必要があるかな?


―――あくまでも、平等で。


そんな悩みを張り巡らせつつ、私はご飯の準備に取り掛かった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ