【ハイファンタジー】山猿娘、後宮へ
2018年 04月18日
2,107文字
山深い辺境領地から後宮入りした令嬢の話。
中華風
この日、皇帝への貢ぎ物として、田舎領地から献上された娘が一人、妃候補として後宮に入る事になっていた。
いつもきれいに整備されている庭をことさらきれいに整えた庭師たちは満足気に頷く。片付けを始めた頃に女官長が現れ、庭師たちは慌てて礼をとった。
厳格で知られる女官長の無音早歩きの後ろから、ぱたぱたと小さな足音がした。
「ふわあ!変な庭!」
国一番の庭師の元で修行をした後宮専属庭師がコケた。気持ちだけ。
「まったく、お付きもない田舎小娘は言葉使いもなっていませんね!」
「だって「だっては無し!」
後宮で鉄面皮と恐れられている女官長が傍目にもわかる程にイライラと歩いている。
その後ろには旅装束のちんまい娘が、自分の荷物であろう頭陀袋を両手で抱えながら小走りしていた。
「森ばかりの山暮らしでしたので皇都は木が無さすぎて変な気がします」
「では慣れるようになさいませ!」
「かしこまり~「シュン、リン、様!」まあまあそんなに怒らないでください。言葉使いもこちらで習えと言われて来ましたのでこれから頑張りますから。あ!ここですか私の部屋は? うっキャーッ!一人部屋~っ!!わあ!色付きの家具だ!可愛い~!!」
注意をすべく振り返った女官長の隙をついて、開けられていた扉から部屋に入ったシュンリンと呼ばれたちんまい娘は大騒ぎ。
部屋の準備をし終え、扉のわきに控えていた二人の下女は、こんなに賑やかな反応をした妃候補を初めて見た。いや、許可を得ていないので頭は下げたままで直接は見ていないが。
きゃーきゃーとはしゃぐ声、あちこちへぱたぱたとした足音をたてる女性は後宮には存在しない。下女たちはブルブルと震える上司、女官長をなるべく視界に入れないようにした。
「シュン!リン!さまーーっ!!」
初日から、鉄面皮の女官長を怒らせた問題児妃候補としてシュンリンは注目される事になる。
鉄面皮女官長が怒鳴った事は瞬時に王城まで届いた。
先代の王の時代から仕えている彼女が大声を上げるところなど、王城、後宮に仕える者では誰一人として見たことはない。いつでも淡々と職務をこなす彼女は王への報告も部下への教育も口調はほぼ変わらない。
その女官長を怒鳴らせた新しい妃候補はどんな娘かと注目を集めた。
「つまらない…………」
シュンリンは部屋のすぐ外、中庭に続く三段しかない階段に座り、空を眺めていた。
女官長を怒らせて一週間。他の妃候補たちには挨拶すら門前払いにあい、下女もつかず、習わせられるはずだった勉強すら何も指示がなく、食事を運んでくれる下女とも話すらできず、完璧なボッチ生活を送っていた。
「本だけじゃ勉強した気にならない…………」
兄からの餞別として本を一冊だけ持ち込んではいたが、旅をする間も真面目に読んでいたので暗記しそうなところまできている。
「つまらない…………」
後宮入り口に配置された門番は困っていた。
新参者の、そして田舎も田舎な領地からやって来た問題妃候補が、自分のすぐそばで「つまらない」とぼやいている事に。
後宮とはいえ、現在の皇帝は成人したばかりの18歳とまだ若く、正妃は選定中である。
ここでは連日、正妃をめぐるお嬢様たちのいさかいがあちらこちらで起きていたのだが、シュンリンが後宮に入ってからは実に静かなものであった。一週間も。
その問題妃が「つまらない」と呟く。
門番がこんなに近くにいるのは、新参者のシュンリンの部屋が門番の立つ見張り場所からわりと近いからである。後宮の奥の部屋の方が家格の高位なお嬢様や金持ち商人のお嬢様なのだ。
自分の勤務中には大人しくしていてくれよと、門番は祈っていた。
「門番さん」
祈り損に終わった。
「仕事中に申し訳ないのですが、独り言ではあまりに寂しいので会話をしてる風を装ってもらっていいでしょうか?」
階段に座ったまま、こちらを向かずに言うシュンリン。会話をしてる風ならよいかと、門番は小さく頷いた。基本、門番は妃候補と口をきいてはならない。妃候補であるからには皇帝の物であるからだ。だから、命令にも背けない。国母になられる方かもしれないから。
しかし。
シュンリンは無いだろう。門番の仲間予想でも一番に弾かれた。
関わっても益のない妃候補。宦官も怖れる鉄の女官長を怒らせたのでなるたけ関わり合いにはなりたくない妃候補。
それが現在の後宮使用人のシュンリンへの評価である。
だが、聞くところによればこのシュンリンは12歳だという。
後宮に集められた妃候補で最年少である。
この国では18歳で成人なので、候補なのは問題はない。
ただ、平民ならば下働きとして働きだしてもおかしくはないが、貴族の娘が家を出るには早い年齢だ。
後宮では総スカンの小娘が家が恋しくなった事を誤魔化すために宦官である門番にすら口をききたくなる気持ちも分からなくはない。門番はそう思った。子供であるならば同情もわく。
「私、兄上から、あ、家の者から、後宮に入る事になったからとほぼ着の身着のままで馬車に放り込まれたのですが……」
門番は、シュンリンが兄を家の者と言い直した事に微笑ましく感じた。
「後宮にいるはずの間諜を見つけろと言われてもどうしたらいいやらで……」
門番は気を失いかけた。
間諜∶スパイ
恋愛が絡まない話を書いてみたかったのに、驚くほど進まなかった…(;´∀`)
推理とか頭使うやつは書き出しもできないと痛感…
ちなみに主人公の兄は十人で一人頭脳担当で他はマッチョ(笑)