【異世界恋愛】不細工姫とタラし騎士
2014年 06月02日
3,714文字
不細工な姫と、戦争で成り上がったモテ騎士の話。
その闇には、何かが蠢いていた。逃れようともがき暴れても次々と纏わりついてくる。
自分にはこの世界しかないのだと、息を潜めてじっと諦めていた。諦めている事に気づかない程、その闇は果てしなかった。
いつか、自分の体が少しずつ大きくなっていっても、劇的に変わるものはなかった。無気力なまま時が経っていった。そのうち、いつもの闇の中に、自分と同じようにもがく誰かが、じっと息を潜める誰かが、あちこちに見えるようになった。 そして、何人も沈んでいった。
「孤児の救済です」
小さな、ごく小さい鈴の音のような光が見えた。周りにいる誰か達は気づかなかったのか、光を見ない。「まだ具体策はおおまかな物ですが、最終目標は、この国全ての戦災孤児達の社会進出です」
光が大きくなった。
人型になったそれは、柔らかく輝いて、俺を優しく照らした。
このひとが、俺たちを助けてくれる。あの、正体のわからない闇から助けてくれる。沈んでしまったアイツらも、これからのまれるヤツらにも、このひとはきっと、こうやって照らしてくれる。
俺は、生まれて初めて涙を我慢した。
今日は、この国の末姫の誕生日。10歳を迎え、社交界デビューを兼ねた盛大なパーティーが催されている。産まれた時から、世界一の美女といわれる王妃にそっくりで、年を追うごとに、姫に見合うだけの宝石がなくなるといわれていた。そんな美姫と婚約したいと思う独身貴族が、なにがしかのコネを作りたい姫と同年代の子を持つ貴族が、一斉に集まった。
時が来て、国王、王妃、王子、姉姫が上座に現れると、割れんばかりの拍手が、末姫が現れると歓声が沸き上がった。
国王の言葉がおわると、楽隊の演奏が流れ、ダンスが始まり、食事を始めたり、招待客達は思い思いの時間を開始した。
末姫や王子にダンスを申し込んだり、王や王妃にお伺いをたてたり、貴族同士の駆け引きをはじめたりと騒がしくなったホールを、そっと姉姫が抜け出していった。
「暇だ・・・」
「お前、今ダンス戻ってきたとこだろ。羨ましいこと言うな」
ホールの出入り口には警備兵が4人一組でそれぞれに立っている。国王参加の行事には、近衛が警備に当たるのが常だが、今回は客が多く、騎士団からも臨時で借り出されていた。
何の見栄なのか、顔のいい者ばかりが選出された。騎士団には一般人もいれば、貴族の次男三男もいるため、それを見越した客からダンスを誘われたりしている。一般兵はダンス特訓を受けさせられたので、それなりに踊れているようだ。
「え~、お前等と順番にしてるじゃん」
「それでも、お前は俺らの三倍は誘われてるだろうが」
「お前の外面はいつ崩れるんだ?」
「ベッドで?」
「「・・・・・・」」
「・・・言ってみてぇ・・・」
「なんで刺されないんだ、コイツ」
「俺、女の子には紳士だもん。最初に遊びだよって言うよ」
「「紳士がそんな事言うか!」」
騎士団一のモテ男、銀髪のジャックがしれっと言うのを、仲間達は歯ぎしりしながら返した。
顔か?!スタイルか?!テクニックか?!戦功か?!いや、戦功も勝てねえ・・・強過ぎる・・・。上司先輩に敬語も使えない阿呆なのに!世の女達は何を求めてる?!
「一夜限りのお付き合い?」
「お前、今日恋人作れ!今すぐ作れ!それが世の男達の為だ!踊った中に可愛いのいっぱいいたろ!」
「え~?う~ん・・・」
「選びきれないってか?」
「踊った娘たちみんな、娼館のおねーちゃん達と同じ匂いだから、遊びの気分にしかならない」
「・・・・・今の流行りだろ?その匂いって・・・」
「高価そうなのに・・・例えが娼館て・・・」
「娼婦も流行りに乗るんだよ。しかし貴族さんの方が匂いが強いな~。たくさん買えて羨ましいね~。あ、トイレ行きたくなってきた。悪い、行ってくるわ」
「おお、行け行け」
「一人で大丈夫か?すぐそこだぞ?」
「わかった~」
ジャックを見送った3人は顔を見合わせた。
「なんでジャックは恋人を作らないんだ?」
性格だって悪くない。むしろ、飄々としてる割に付き合いはいい。女性関係も修羅場を聞いたことがない。
対人関係は問題がないのに、特定の恋人はいないのだ。もはや、騎士団七不思議の一つになっている。
「俺は、あいつの方向音痴ぶりも七不思議に入れていいと思ってる」
「あ~、確かに。・・・ジャックが城内で迷うに次の飲み会の酒代を賭けるね」
「一方的すぎて、賭けにならねぇよ」
「まあ、パーティーがお開きになっても帰って来なかったら、探しに行こうぜ」
賛成~。と言いながら、何食わぬ顔で警備をする3人であった。
やばい、漏れそう・・・
仲間の予想通り、ジャックは会場ホールそばのトイレに辿り着けず、どこをどう歩いたのか、人気もない薄暗い城内を迷っていた。
こっちにあると思ったのにな~
全く根拠のない理由で歩き回って、そろそろ我慢の限界に達しそうである。いよいよの時は廊下の壺にしようとろくでもない事を思いついた時に、前方の角に明かりが見えた。
「すみませ~ん、ここから一番近いトイレに連れて行ってくださ~い」
角を曲がると、こぢんまりとしたサロンの様な部屋があり、ソファーに女性がひとり座って、本を読んでいた。ジャックの言葉を聞いたその女性は、慌ててこちらに駆け寄ってきて、
「こちらですわ。ご案内しますね」
心配そうな表情でジャックをのぞき込むと、さっとトイレ前まで連れて行ってくれた。
「ありがとう」
やっと辿り着いて安堵したジャックに、
「どういたしまして。何かありましたら先程の部屋に居ますから、呼んで下さい」
と告げると、女性はさっと戻っていった。
「あの~、案内ありがと~」
廊下からサロンを覗き込みながら、またもや本を読んでいた女性に声をかける。
「大事にならなくて良かったですわ。時間がおありなら、お茶でもいかがですか?」
「わ~い、いただきま~す!」
大人男子として、だいぶ情けない状況だったのだが、女性は気にした様子もなく、ポットのお茶をカップに注いで、何食わぬ顔で正面に座ったジャックに差し出す。
「冷めてしまって申し訳ないのですが、それでも美味しいですよ」
「姫様のお気に入り?」
「あら、何もおっしゃらないから、気付いてないと思いましたわ」
「王様にそっくりな女の子なんて、エリザベート姫しか知らないよ」
「・・・ふふ。そうですわね」
とても王族に対する態度でないにもかかわらず、エリザベート姫は微笑んだ。
第一王女エリザベート。国中に知れ渡った通称は、『不細工姫』。
太眉、小さい目、低い団子っ鼻、そばかす少々、金髪は癖毛で毎日編み込まないと無様らしい。
美人王妃に何一つ似ないのだが、瓜二つという程、国王に似ているのだ。兄のレイリック王子もおおまかに父親似だが、母親のおかげか、そこそこに見れる容姿だ。妹のナターシャ姫は言うに及ばずの美少女。三兄妹の中の貧乏くじ、それがエリザベート姫である。
ちなみに、国王は不細工さをカモフラージュ出来るほどの威厳と実力があるので、見た目を言われることはない。年齢的にも今更だ。
「わ、美味しいね、このお茶。冷えたヤツが訓練所にもあればいいのにな~。このお茶高価いの?ところで、姫様が侍女も付けずに一人で何してるの?」
一人でつらつらと喋りだしたジャックに目を丸くしながら、律儀に答える姫。
「お茶を気に入ってもらえてよかったわ。価格はごめんない、知らないの。一人でいたのは、どうしても小説の続きが読みたくて。さすがに会場で読書は無理でしょう?」
「だからって、一人は危ないよ。俺がどこかの刺客だったらどうするの?」
「その場合の訓練もしてますから、なんとかなるかな、と」
「?姫が一人でいる時を前提とした訓練?」
「そうですよ。王族ですもの。やって損はありません。そして今日は実施も兼ねているのです」
ジャックが腑に落ちない顔をしていると、空になったカップにお茶を注いでくれた。
「っていう事にしておいて下さいな」
「わかった。逢い引きだ」
「まさか!ありえない」
「え?なんで?」
謎が解けたと口にしたとたんに否定される。不細工といえ、王女である。婚約者ぐらいいるはず。・・・なのだが。
「・・・え~、自ら恥を晒すのもなんですが、私、この18年間、恋人がいたためしがありませんの」
少し俯き、気持ちトーンの下がった声で理由を話す。
「原因の第一としては、顔なんですけども。こればかりは直しようがなくて・・・。一時期、お化粧も特訓してみたのですが、改善の余地なしと侍女に太鼓判をおされる程でして・・・」
かなり自虐的な話だが、何故かジメジメしない。開き直りではなく、事実としてただ受け止めているのだろう。
「侍女さん、スゴイ人だね・・・」
「歯に衣着せぬ人なので、重宝してます」
本気でそう思っている笑顔だ。
「・・・興味深い人だね」
「あら、会ってみますか?美人ですよ~」
ちょっと楽しそうになった姫に、お見合いオバサンか、と心のなかで突っ込んでおく。
「侍女さんも気になるけど、興味深いのは姫だよ」
「え?」
「そんな暴虐無人な侍女を側に置いているうえに、初対面の俺の態度にも嫌な顔すらしないんだもん。王族として、心広過ぎじゃない?」
呆気にとられたような顔をして見つめてくる。
なろうで初めて書きだした話。
中途半端なところどころか、ほぼプロローグで止まってしまった…
にしても色々ひどいなあ(;´∀`)