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9話-5
璃乃は困惑しているように見えた
俺はそんな事はお構いなしと言わんばかりに
ずっと、璃乃を見つめ続けていた
「じゃあ…あたしを…好きになってくれるの?」
『君が望むなら』
「…この前の事…覚えている?」
『いつの事だ?』
「好きなら…キスをしてって…いうの」
『覚えている』
「…琥烏は…出来るの?」
『君が望むのなら、な』
いつの間にか、俺は二人称に"君"を使っていた
いつもなら、お前か名前で呼ぶはずなのに
(そうか…俺は"自分"を喪失したのだな
だから、"自分"を彼女に決めてもらいたいのか…)
「……だったら…目を閉じて」
俺は言われた通りにした
暗闇の中で自らの肩に璃乃の手が置かれる感触を感じた
小刻みに震えていた
やがて、璃乃の吐息が鼻の頭に当たるのを感じた
しばらく、そのまま制止した
そして、すぐ口元にまで来ていた
しかし、直前で吐息は口元から離れ
変わりに額に柔らかい唇の感触を感じた
「…やっぱり…こういうのは駄目…なんだね」




