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式日
電車が揺れる。窓から見える景色が流れていって、俺が育った町はすぐに見えなくなった。
俺は呆然とドアの前に立ち尽くして、先程の光景を思い出していた。
……笑っていた。見たことのない顔で。
幼い頃の無邪気な笑顔でも、すべてを諦めたような寂しげな微笑みでもない。
俺の知らない涼平が、そこにいた。
「……………」
震える手で口を覆う。床に座り込んでしまいそうになるのを、必死に耐えた。
あんなに優しい告白を、俺は知らない。
またいつか誰かを好きになって、誰かに愛されても。
きっとあの瞬間以上に想われることはないと、わかってしまった。
そう、思わされた。
涙がこぼれる。綾を亡くして、涙なんてとうに枯れ果てたはずなのに。
どうしても、あふれてとまらない。
「……っ」
覚悟がなかったのは、手放せなかったのは、あのときも俺だった。
小学校の卒業式。垂れ桜の下で、あの日も涼平は、俺を祝福してくれていたのに。
それに気づかない振りをして、俺はずっと。
「……涼、平…」
……さよなら、俺の少年。
電車に揺られながら、俺はいつまでも泣き続けた。
完結です。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。
本編はこれで終わりますが、そのうち後日談を何話か投稿します。
気になる方は、もう少しだけお付き合いいただけたら幸いです。




