第一話
第一話
「あなたの自死、手伝います」
暗い自室で枕元の液晶に灯りがついている。SNSがメッセージを受信したようだ。内容を確認して布団を頭から被り直す。フォローもフォロワーもゼロ、アイコンも設定されていない捨てアカウントからのいたずらだ。趣味の悪い暇人が世の中にはいるらしい。誰からもフォローされていない私の独り言をわざわざ読んで、連絡をしてくるなんて。
ピコン、と音が鳴る。布団から目だけ覗かせると、やはり液晶が光っている。好奇心は人を殺す、と思いながら、スマートフォンを布団の中へ引っ張りこんだ。殺せるものなら、いっそ殺してほしい。
「死ぬ勇気がでないなら、お力添えします」
…変な宗教だろうか。いたずらの方がマシだなと思いながら、相手がまともでないならこちらも何を言っても問題ないような気がしてきた。夏休みに入ってから、誰とも、一度もコミュニケーションを取っていない。
「どうやって。私を殺してくれるんですか」
「いいえ」
即答されて、たった一言でもくだらないやりとりをしてしまったことを後悔した瞬間、続けて送られてきた内容に、目を見張った。
「わたしたちが、あなたの代わりに死にます」
平日で昼時は過ぎていても、最寄りのファミリーレストランにはそれなりに人が入っている。夏休みのせいだろうか。笑っている家族連れや中高生を視界に入れたくなくて、顔を思いきりうつむかせる。ドリンクバーで入れた珈琲はすっかり冷めてしまった。イヤホンを家に忘れて来たことに歯噛みして、嫌な思考を切り替えるべく昨夜のやりとりを思い返す。
「あなたの代わりに死ぬ、そのために条件があります」
「死ぬ場所はこちらで指定します。佐鷺町内です」
佐鷺町は私が住んでいる町だ。個人情報が特定されているのかと恐怖を感じたが、死ねるものなら死にたい身で、今更何が怖いというのか。
「わたしたち、ということは、あなた一人ではないんですか」
「わたしたちは二人です」
返ってきた返事にほんの僅か胸が高鳴った。私の代わりに死んでくれるなどと宣うこの人たちは一体何者なのか。アカウント名にはアンダーバーが置かれているだけで、何と呼んだらいいのかわからない。
「あなたは誰ですか」
僅かに間があいてから、答えが返ってきた。
「自死代行人」
どうせ死ぬなら最期に冒険したって構わないだろう。危ない目に遭ったところで、何せ死ぬことが目的なのだから。
そんな突発的な衝動で、翌日の今日、直接会う約束をとりつけた。待ち合わせ場所はこちらが指定した。仮に住所が割れているなら無理に遠出して暑い思いをしたくない。自死代行人とやらは二つ返事で了承した。
約束の午後四時が近づく。周りの客が入れ替わるのを気配で感じながら、ただの出会い系かもしれないな、と考えていたその時、二つの人影が自分の横で立ち止まった。
「あかりさん、ですか」
うつむいていた顔をあげると、学生服に身を包んだ少年と少女が佇んでいる。見覚えのある制服に驚くより、二人の纏う雰囲気に飲まれそうになる。特に少女の方は、すらりとした長身に長い手足、背中まで届く真っ白な長髪が着崩していない黒いセーラー服と強烈なコントラストとなって、それは目立つ容姿をしている。外国人かと思わず顔を凝視してしまうが、顔立ちはいたって日本人だ。
「あかりさんですか。自死代行人です」
もう一度声をかけられてはっとする。この時はじめて声をかけてきたのは少年の方なのだと気づいた。高くもなく低くもない声をしている。きっちり着込んだ学ランに今が夏だということを忘れそうになってようやく、無遠慮にじろじろと眺めてしまっていることに気づいた。
「す、すみません。あかりです。昨日はどうも…」
恥ずかしくなってうつむくと、ボックス席の向かいに二人が座った。
「代行人の遠野です。こっちは南」
何か頼もうかとメニューを取ろうとした私を遮って、少年が自己紹介をする。メニューを取るのを諦めて、改めて二人を見る。南と紹介された少女は一言も発さなかった。
外は暑いのに二人とも汗をかいた様子もなく、むしろ涼やかな空気さえ醸している。全く表情の動かない二人が並んでいる光景は、死んだ祖母が持っていた、ガラス棚に飾られた西洋人形たちを思い出させた。顔の造りが特別似ているわけではないのに、もしかして双子なのかと思ってしまうぐらい二人は対になっているように見える。映画の登場人物のようで、現実味がない。
「SNSを拝見しました。自死に踏み切れないですか」
少年の直球な物言いに面を食らってまたうつむく。自傷行為ばかり綴ったそれを正面から読んだと言われ、羞恥に赤くなる。今すぐ逃げ出したい衝動を何とか堪えて、必死に口を動かす。
「…はい。カーテンレールで首を吊ろうかとロープを買って。でも家で死ぬのは嫌だなと思って、自殺の名所を調べたり。それはそれで外出するのが億劫になって。ずるずると…」
久しぶりに喋るのでうまく舌が回らず、やたらと口が乾く。話している内容もあいまって、なんて惨めなんだろうと急激に現実に引き戻された。死にたい感情が高ぶってくる。学校の教室にいる感覚がよみがえってきて、身体が震えだす。
「ほ、ほんとうに、死ねるんですか。代わりに死ぬってどういうことですか。どうしてこの町なんですか。あなたたちの目的は何ですか!」
震えて掠れた声が大きくなる。顔をあげて二人を見るが、表情は変わらない。
遠野と名乗った少年がじっと私を見つめている。長めの前髪の隙間から覗いている瞳は真っ黒で、何か野生の生き物と目が合ったときのように心臓が跳ねた。
「本当に、死ねますよ」
真っ黒な瞳で、変わらない表情で、少年が告げる。音叉を鳴らしたかのように声が響いて聞こえる。
「行きましょう。黄昏時が過ぎてしまう」
気がつくと知らない景色の中に立っていた。どうやってここに来たのか覚えていない。自分が今日何をしていたのか思い出そうとすると、背後から声が聞こえた。
「誰そ彼…たそがれ時の間だけ、あかりさんと南の身体を交換します」
振り返って、そこにいる少年と少女を見て思い出す。
…自死代行人。
「そんなことが、出来るんですか…?」
「あなたの身体に入った南が、ここから飛び降ります」
私たちは橋の上にいて、頭がはっきりしてきた私はこの場所がどこなのかを唐突に理解した。
芦川院の麓。佐鷺川にかかる、町で一番高い橋。見下ろせば、この夏の異常な雨量で増水した濁った水が荒い岩肌の中を勢いよく流れている。十メートル以上高さがある。落ちれば、きっと助からない。
「自分の身体が死ぬところを見る必要はありません。あなたは南の身体の中で、黄昏時が終わるのを待っていてください」
「……催眠術か何かで、私を殺そうとしているの?」
少年の顔を見ようとするが、西日が眩しくてよく見えない。少女の長く白い髪が真っ赤に染まっている。
「…催眠術でも構わないでしょう。楽に死ねるのなら。違いますか?」
少し訝しげな声音にふと、この二人が着ている制服の高校はこの近所だったかな、と今更なことを思い出した。
「願いを、叶えます」
少年の手が私に差し出される。反対の手は南という少女の手を既に握っている。
「…………………」
死への恐怖や渇望より、この非日常を終わらせたくない衝動が、得体の知れないものへの好奇心が、私の手を動かした。
少年の手を取った瞬間、足元がなくなるような感覚と共に視界が歪む。歪んだ視界が元に戻ると、世界の見え方が違っていた。
手を繋いだ少年が先程とは違う場所にいて、そしてその少年の隣にいる少女を見て、ひゅ、と喉が閉まった。
私だ。今朝、久しぶりに部屋着を脱いで引っ張り出した、花柄のワンピース。体型を隠したくて選んだ大きいサイズのせいでひどく野暮ったく見える。ずっと美容院に行けていない伸ばしっぱなしの髪も、荒れた肌も、さっきまで整った顔を二つも眺めていたせいで見るに耐えない。こんな風に見えているのかと改めて死にたくなるが、十八年、嫌というほどに見飽きた私の姿だった。
恐る恐る自分の姿を確認する。着たことのないセーラー服から白く長い手足が伸びている。肩にかかる髪を摘まんでみると、それはやはり真っ白だった。
これは南の身体だ。私は南という少女の身体の中にいる。
「私の身体には、南さんがいるの…?」
自分から聞いたことのない音がした。鈴を鳴らすとはきっとこのような音なのだと思う、美しい声だ。
私の身体が無表情のまま頷いた。南かどうかはわからないが、中身がからっぽということはないようだ。少年が私たちの手を離す。
「あかりさんは好きに過ごしてください。俺はあなたの身体の死を見届けます」
そう言うと少年と「私」は橋の中央まで歩いて行ってしまう。私は慌てて追いかけて、少年の腕を掴む。
「ま、待って。そんな、急に。心の準備が」
「その準備が要らないようにするための手段です」
「だって、こんなことが本当に起こるなんて思わないじゃない!」
橋の上で叫んでしまう。裏返りそうな声まで美しくて、しかしここは何でこんなに人気がないのだろう、そこまで交通量が少ない場所ではないはずだと、急に夢から覚めるような感覚に襲われる。
「そ、そもそも、こんなことをして、あなたたちに何の得があるの?私が生きても死んでも、あなたたちに何の関係もないじゃない!」
夕日に照らされた「私」が今にも身を投げ出してしまいそうで半狂乱になる。自分で自殺を試みたときの何倍も死を肌に感じて総毛立つ。
「たしかに、あかりさんの生死は俺たちに何の関係もないですが…」
遠野という少年の目が伏して、睫毛が影を作る。夕日に照らされても全身が真っ黒なままの彼の表情が、はじめて動いた。
「俺には、たくさんの「死」が必要なんです」
その表情はひどく哀しげで、しかし強い意思が滲んでいた。
その横で、「私」の身体がゆっくりと橋の外へ傾ぐ。
「やめて!!」
私は駆け寄った勢いのまま「私」の身体に飛びついて、橋の内側へと引き戻す。信じられないほどの力がわいて、南の身体より重いであろう「私」の身体を軽々と扱ってしまった。心臓が張り裂けそうに早鐘を打つ。
「お願い!何でもするから、元に戻して!」
「何でもと言うなら、何もしないで見ていて欲しいんですが」
少年は特に動じた様子もない。私は必死に「私」の身体を押さえつけながら懇願する。
「ごめんなさい!やっぱり、し、死ぬのは怖いです。無理です。ごめんなさい…」
泣きじゃくりたいほど怖いのに、涙が出ない。ごめんなさい、とひたすら同じ言葉を繰り返す。「私」の身体は果たして生きているのか心配になるほどぴくりとも動かず、されるがままになっている。
私がパニックになっている様を凪いだ目で見ていた少年が、静かに息を吐く。
「……黄昏時が終われば、自然に戻ります」
「あっ…」
ありがとう、と言いかけて、「だけど」と遮られる。
「…だけど気をつけて。黄昏時は、逢魔時、大禍時…。誰も彼もが何者であるか曖昧になり、人でないものと出逢う時間です。南は、とても耳が良いから…」
少年の口元は動き続けているが、何を言っているのか聞き取れない。どこが耳が良いんだろうと思いながら、もう沈みきりそうな夕日を見つめた。後ほんの少しの辛抱だ。「私」の身体をぎゅっと抱きしめる。
車のクラクションの音にはっとする。驚くより安心が勝った。全く人通りがないことに怯えていたのだ。これで非日常は終わる。しかし辺りを見渡しても車の気配はない。空に微かに赤の名残があるものの、もう日は沈んでいる。黄昏時はまだ終わらないのか。「私」の身体はいまだ私の腕の中にある。
カン、カン、カンと踏切の音がする。クラクションが忙しなく鳴り続ける。近くに踏切はないし、やはり車は通らない。音だけが増え、迫ってきている。不安になって遠野少年を見上げると、それは彼ではなかった。
青いワンピースを着た少女が、「私」を抱えて座り込む私を見下ろしている。ベリーショートな黒髪に、さらけ出された耳には青いピアスが存在感を放っている。十代前半だろうか随分と小柄で、ワンピースから覗く足は何も履いていない。
驚きのあまり声も出せず少女を見つめていると、少女のワンピースの裾が変色し始める。グラデーションのようにみるみる青が赤く染まっていく。
…血の、匂い。
気づけば少女の足元は血だまりになっていて、ワンピースだけでなく少女自身も全身血濡れになっていた。短い髪からポタポタと赤が滴る。
少女は困ったような顔で私に手を伸ばそうとして、ぐしゃりと膝から崩折れた。足があらぬ方向に曲がっている。それでもまだ手を伸ばそうとして、その手は腐り落ちるかのようにぼとりと「私」の身体の上に転がった。
「いやあああああああ!!」
自分のものではない悲鳴が響き渡る。血に濡れた「私」は虚ろな目で私を見つめて、何か呟く。「はやくしなないと」?
「私」は私を押し退けて起き上がると、ゆらりと橋の端に立った。
「待って…」
腰が抜けて手足に力が入らない。ガタガタと歯が鳴って、声を出すのもままならない。
「まっ」
制止の言葉を紡ぐより先に、「私」の身体はぐらりと倒れるように橋の上から消えた。長い髪とスカートが空を切って、まるで大きな蝶のように見えた。
目の前で起きた出来事を受け入れられず呆然とする。どのくらい時間が経ったのか、いつの間にか辺りは真っ暗で、誰もいない。
…帰らなければ。家に帰ろう。
冷えた身体を擦りながら立ち上がり、この身体は誰のものだったかとそんな思考が頭をよぎって、何を馬鹿なことを考えているのだろうと思った。早く家に帰りたい。
必死に足を動かしながら、ふと帰り道がわからないことに気づく。「パパーッ」と車のクラクションが聞こえる。住宅街の明かりが近づいてきたことに安心する。人に会ったら道を聞こう。家に着いたら久しぶりに父さんと母さんと食事をしよう。足がもつれる。
目の前が真っ白になって、あり得ないほど近くでクラクションが鳴った気がした。
街頭もない橋の上に学生服の少年が立っている。ぱっと足元を懐中電灯で照らす。
「帰蝶。もういいぞ」
橋の下から白髪の少女が姿を現す。蜘蛛が這い出てくるかのようなその様は、さながらホラー映画のようだ。
「……たまには死ぬ役を代わってくれてもいいんじゃない?」
埃っぽくなったセーラー服を叩きながら少女がこぼす。
「無理だ。文字通り「死ぬほど痛い」なんて耐えられないし、橋から飛び降りる振りをこなす規格外の身体能力もない」
「慣れだと思うけど」
「慣れたくない。死ぬのなんて一回で十分だ」
「何度も死んでる私を前に、よく言う…」
少女は不満そうに口を尖らしたが、少年の思い詰めたような表情に、すっと真顔に戻る。
「涼平。今回は人選ミスだよ。あの人、最初から死ぬつもりなんてなかった。わかってたでしょ。涼平のせいじゃない」
「……強引にすすめることだって出来た」
強く懐中電灯を握り締める少年の肩を、少女が軽く叩く。
「私たちの目的は、殺人じゃない」
「似たようなもんだろ。……報告に行く」
大きく息を吐いた少年が歩き出すと、少女もそれに並んだ。
「それにしても、綺麗な人だったね。あんな美人、初めて見た。何で死にたいなんて思ったんだろう」
「さあ。死ぬより辛いことなんて、世の中ありふれてるだろ」
坂道を上りながら、ぽつりぽつりと話す。坂を上りきったところで、道が別れる。
「お前はもう帰れ」
少女は頷くと、街明かりの方へと歩き出す。しかしすぐに歩みを止めて、少し躊躇ってから少年の方へと振り返った。
「黄昏時が終わって身体が元に戻ったあと、ずいぶん様子がおかしかった。何かしたの?」
少女の問いに、さらに丘の方へと歩き始めていた少年が立ち止まる。背を向けたままで答える。
「俺は何もしてない。逢魔時に呑まれて戻れなかったんだ。普通の人間はあんなもんだろ」
「そうじゃない。様子がおかしかったのは、依頼人じゃなくて、涼平」
少年が振り返る。全身が暗闇に溶けてしまっていて、表情は見えない。
「何も。……うまくやれなくて、少し落ち込んでた」
声音は穏やかだ。努めてそう振る舞っているのを察して、少女はそれ以上追及するのをやめる。
「さっきも言ったけど、今回は春樹のミスだよ。春樹にへりくだるのは、やめて」
「そんなことしない」
「いつもしてる」
少年は苦笑したようだが、少女の顔は真剣なままだ。
「おやすみ、帰蝶。また明日」
「……おやすみ」
少女は今度こそ街明かりの方へと消えて行った。
「あら、今日は遅いのね。わかってると思うけど、面会時間はあと三十分よ」
「お世話になってます。いつもすみません」
「いいのよ。若い子が来てくれると張りが出るわ」
見知った顔を相手に慣れた手続きを済ます。白い廊下を歩く足取りに迷いはない。
「芦川」と書かれたプレートが下がっている部屋の前で、涼平が立ち止まる。ひとつ呼吸をしてから、スライド式の扉を開ける。
中は個室で、一人の少年がベッドの背もたれに角度をつけて身体を起こしている。手元には紙の本。備え付けのテーブルにはノートパソコンが置かれている。本から視線を上げた顔に、色素の薄い小麦色の髪がふわりと流れた。
「お疲れさま」
発された声は柔らかい。涼平はうつむいて、少し躊躇ってから声をかける。
「駄目だった。……ごめん」
「はは。言われなくても、顔に書いてある」
ベッドの少年が微笑む。
「そんなに落ち込まなくていい。どんな怪談も都市伝説も、大事なのは生き証人だ。実際の被害はさほど重要じゃない。結果オーライだよ」
「……でも」
「それに」
小麦色の髪の少年が目を細める。その瞳の色彩は緑がかっていて、明らかな異国の血を思わせる。
「あのかまってさんが無事に家に辿り着けたかなんて、俺たちにはわからない」
微笑んだままの少年の首に細い腕が絡む。青いワンピースが少年の横でゆらゆらと揺れる。
涼平は空を漂う短髪の少女に視線はやらないまま、入院着の上からでも痩せているのがわかってしまう少年の身体に、唇を引き結ぶ。
「………起きてて大丈夫なのか」
「本もキリが良いし、そろそろ休むよ」
「来週、また来る」
扉に手をかけるその背中に、涼平、と声がかかる。振り向くと、ベッドの中の少年が笑いかけた。
「週刊誌、買ってくるの忘れないで。月曜だからさ」
「……うん。おやすみ、春樹」
今度こそ帰ろうと背を向ける瞬間、ちらと空を漂う少女を見る。猫のように大きな瞳が三日月のように弧をえがいて、涼平を見つめていた。
自分しかいない病室で、春樹はノートパソコンを開く。地元のニュースを調べると、速報で交通事故の情報が入っている。
「あまり意地悪してやるなよ。可哀想だろ」
誰かに話しかけるような独り言は、白い壁に当たって消えるだけだった。
細々続きます。