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その事情は卑怯だ

 俺は招いてしまった俺を旅行に誘いたい男を、どうやって家から追い出すべきかと考えあぐねていた。

 クラスメイトを傷つけるわけにはいかないが、俺はママチャリで静岡まで行きたいなんて一生かかっても思わないのは必至なのだ。


「で、夏休に入ってから、俺にメールをしてくれたみたいにして、クラスのみんなと仲良くしようとしていたんだ。」


「いいや。皆じゃなくて、カーストの高い人だけ。君と繋ぎが取りたくてさ。」


「え?」


「でも驚いたよ。花房君は他の誰にもアドレスを教えていなかったんだね。僕は最初からメールすれば良かったんだ。でもさ、この家の住所を教えてもらえもしたから、うん、無駄じゃ無かったね。」


「ええ!こ、個人情報、は?」


「僕のノートは欲しい人が一杯だよ?わからない所は教えてあげられるしね?僕は英語も得意だし?文系特進を抑えての英語はトップじゃない?僕と友人付き合いするのは花房君にとっても損じゃ無いと思うんだ。」


 この人は黒髪の色を抜いた時に、謙虚という人間の美徳までも抜いてしまったのだろうか?


「花房君は五十番にも入らなかったじゃないか!このままじゃ君はカーストどころか特進クラスを落ちる。ここは、挽回のチャンスなんだよ!」


 急に伝道者みたいに大声を上げた桃井の台詞だったが、俺の胸にしっかりと響いて深く抉った。

 グフっという感じに。

 期末試験で学年五十番を落ちた結果となったのは、俺としても本気で落ち込む出来事だったのである。

 流石、難関をクリアして入学してきた高入生はレベル高いぜ、という感想だ。


 つまり、中等部では聞いた事も見た事もない名前の奴らに、俺はリスト外に追いやられてしまったという結果なのである。

 うわああ、中間はなんとか五十番以内の四十九位だったのに!


「僕は花房君と友達になることでカースト上位の高校生になれる!君は僕のお陰で学年二十番だって夢じゃない。僕達はサイコーじゃないか!」


 俺は思ったよりも純粋ではなく打算ばかりの桃井に言葉を失い、なんて答えたら良いのかと圭を見返した。

 圭は俺達に背中を向けてテレビゲームをしている振りをしていたが、彼が手に持って弄んでいるのはゲームのコントロールではなく桃井の携帯だった。


 ええ!どうやって初対面の人のスマホの暗証を突破したの?


「ああ。インスタバエだからバグなのか……。で、この妙なテンションはそのバグの仕業って事で、賢いな。」


 何を見つけなさったんですか!あなたは!

 俺は圭の所作を桃井に気付かれる前にと、桃井に向き直した。


「俺はカーストの下だと思うけど、俺と友達になりたいって思ってくれて嬉しいよ?で、でさ、友達になった俺達は夏休みの宿題でもしようか?二十番になれるのは嬉しいから、夏は勉強会にしよう!ママチャリは無し!いいかな!」


 桃井は黒髪時代は一重だったと記憶するが、今は二重の目となっている。

 その両目が眉間でくっつくぐらいに、桃井はぎゅうっと眉根に皺を寄せた。


「だめだ。友達は夏休みに冒険するものだ。だから、行こう!静岡に!竜宮公園の竜宮窟にママチャリで行こう!」


「友人だから夏休みに旅行に行こう!まではわかるけど、どうしてママチャリで静岡まで行って、竜宮?公園?が絶対目的地なんだよ!」


「好きな子が自転車でそこに向かうからじゃない?」


 俺は圭を見下ろして、それから桃井を見返した。

 桃井は顔を真っ赤にしており、当り前だが圭に大声を上げた。


「僕のスマートフォン!」


 圭は全く動じることなく、桃井のスマートフォンを俺達に翳して見せた。

 意地悪く彼が見せつけているのは、桃井の好きな女の子?らしきSNS画面だ。

 桃井の顔はさらに赤味を増したが、圭からスマートフォンを取り返すどころか、その画面の女の人に憧れの眼差しを向けるだけだった。


「イスズさん。死んじゃったんだ。だから、彼女は静岡に行けない。」


 俺は聞きたくも無いのに、桃井はさらに俺を追い詰める内情を吐露し始めたではないか!


「僕はイスズさんのフォロワーでしかなかったんだけどさ、SNSに花房君と映っている写真を使ったら声を掛けてくれてさ。今度一緒に走ろうかって。きっと君が僕だって勘違いしたんだよね。僕も映ってたけど僕は地味で存在感ないもん。で、僕も君みたいにしようって茶髪にしてアイプチで二重にしても全然でさ。会えないって、悶々としている間に彼女は交通事故で死んじゃった。静岡の竜宮公園の洞窟に行こうって言ってくれた彼女が。」


 俺は両手で自分の顔を覆った。

 断れないじゃない、と。

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