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花房家と大弥彦家

 昼休みは図書館で待ち合わせた大弥彦篤子に連れられて、理科準備室という食事するにはとても残念な場所に納まることになった。


「誰もここには来ないから。」


「俺も来たくはありませんでした。寄生虫とか変な臓器が標本になっている場所なんかでご飯なんか俺は食べられません。」


「いいよ、食べられなかったら私がそれを食べる。それってあの虹河さんのお弁当だっけ?」


 虹河は崇継が二十歳になると、毎晩のようにして崇継と晩酌をしたがり、そして飲酒運転だからと泊まるを繰り返し、今や完全に崇継の部屋に棲みついている。

 もはや崇継も彼に帰れも言わないし、俺は向かいの客室に虹河が寝ているのはとても安心できるので実は嬉しいぐらいだ。

 しかし、大弥彦の勘違いは質さねばならないだろう。


「僕ちゃんの手作りです。」


「うそ!虹河さんが手作りお弁当だよって、うちの警護の羽深はねづかに自慢していたって聞いたから、てっきり。」


 虹河が自慢していたと聞いて、俺はちょっとだけ顔がにやけた。

 俺が弁当の日は、虹河が昼飯を取れそうもない日であり、俺はそんな日には彼の為に捨てられる紙容器で弁当を作ってやっているのだ。

 あの時々ウザくもなる、あの強面の男が、俺の弁当を喜色満面の顔で嬉しそうに抱きかかえるんだよ?

 作ってあげたくなるってものだ。


「ああ!じゃあ、私の手作りよって差し入れ可能って事ね。」


「いや、ちょっと待って。あんたの話は虹河ラブな恋バナか?」


 確かに虹河はいい男だ。

 一緒に街を歩けば背の高い彼は人目を惹き、そんな彼にエスコートされる俺は少しだけ有頂天にもなっている。

 あれ、俺ってやばくないか?


「え、えと。虹河は独身だけど、女子高生には、い、いい歳だよ?」


 俺って何を言っているの!


「そうね、まだ若いものね。」


「いや、その、女子高生にはオッケーな歳という意味じゃなくて、女子高生には年よりなんだな、な、いい歳って意味でぇ!」


 俺達は睨み合った。

 男子高生が三十代親父の取り合いで女子高生と睨みあうって、と、睨み合いながら俺は冷静になってしまった。


「何やってんだろ、俺は。それで、大弥彦さん、君が俺に教えたかった花房家の秘密って何?」


 彼女はにやっと笑うと、制服のポケットから折り紙を取り出した。


「やっこさん?」


「人型であれば何でもいい。まずはそれを開けて見て。」


 俺はやっこさん型におられた折り紙、それは黄色いものだったけれど、彼女が言う通りにゆっくりと開いた。


「何が書いてあるの?」


「ふうん。見えはするのね。」


「え?」


 大弥彦はメガネを外していた。

 うわ、やっぱりすごい美人だ。

 二重の大きな目は人形のように切れ長に線を引いたように美しい流線型で、なぜかメガネを外して目が目立つようになったからか、ぼてっと大きく見えただけの唇が、元からそれに見合ったサイズだったと美しく映えている。

 そんな美女だった変人と名高い人がメガネを外し、俺の顔をじっとひたすら見つめてきたのだ。


 俺は身じろぎも出来なくなるほどに、びくびくと緊張してしまった。

 そして居心地の悪い数十秒後、そうなのかと、ぼそっと彼女が呟いた。


「何が?」


「いいえ。崇継さんが骨髄移植を受けてから少し変わった気がしたからね。それはあなたの作用なのか確かめたくなったの。だって、怖いでしょう。これから当主交代の儀式があるのだもの。私の失敗で禍つ神を世に放つことになったらと思うと、ねえ、あなただって怖いでしょう?」


「まがつ、かみ?」


「ええ、わざわいの神。イザナミがヒノカグツチを産んで死んでしまうのは有名な話。そして、愛するイザナミに会いに行き、愛する女が腐敗しきった醜い姿であることに恐れおののきイザナギが黄泉から逃げ出したのも有名な話。そして、黄泉の汚れをイザナギが落としたそこで、禍の神が生まれてしまった。ここはあまり知らない人が多い。知っている人は知っている、禍の神様。」


「神話、だよね。」


「そう、神話。でも世界には人知を超えた禍は沢山沢山あるでしょう。大弥彦家はその禍を封印する事が出来るのよ。そして花房家は。」


 そこで、俺のスマートフォンと彼女のスマートフォンが同時に鳴った。

 俺は彼女に出ていいかと尋ねる前に、画面を見たそのまま耳に当てていた。

 だってこれは崇継からのものだ!


「兄さん!もしもし。」


「俺だ。スマートフォンを交換してのお話し中だ。崇継はお前の目の前の大弥彦様とお話し中だ。物凄い怒り顔でね。」


「え?」


「いいか、お前は何も心配するな。崇継はお前といつまでもこのままでいたいって気持ちなんだとさ。うーん、俺も聞きかじっただけだけどね、花房家、あんまりいい家じゃないんだわ。崇継はお前にはお前でいて欲しいから、花房の事は何も知らせたくないんだってさ。それで、お前はどう思う?」


 俺がこのままでいたいと神様にお祈りしたのは、白血病なのに俺を一番にと考えてくれた崇継と、そんな崇継を必死に看病していた虹河の姿を見て、だ。

 だから、俺は、何だって望みどおりにする、と考えるまでもなく答えていた。

 だけど、なぜか虹河にこの馬鹿と大声で怒鳴られた。


「納得できないよ。」


「何かムカつくんだよ。その奴隷根性に聞こえる言い方がさ。」

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