後ろの殺人者
俺は自分がしがみ付いてしまった男の力に脅え切っていた。
雷鳴を伴う雨雲を呼び、手を叩いただけでぶよぶよゾンビを倒し、その上、魔法みたいにしてゾンビの上に岩を落として潰してしまったのだ。
本当は彼に全部任せるのが正しいのだろうが、凡夫な自分は日常が壊れそうな恐怖が先に立ち、気持を落ち着けるまで待ってと国枝を止めてしまった。
国枝は呆れた視線を俺に向けた後、簡単に顎をしゃくり、俺に振り向かせて忍び寄っていた現実を気付かせた。
柴田?らしき痩せぎすの長身の男が、古室井と桃井の後ろに近づいていた。
「言っただろ、俺の予定の十時が台無しにされたって。寄ってたかってこの時に全部をぶち込みやがったんだよ。あん畜生どもが!」
そのあん畜生どもは、国枝の部下のアンブの方々だろうと俺は考え、上司にそんなことを出来る人達は本当にアンブなのだなあ、とぼんやりと思った。
一瞬だけ。
柴田は他者によってこの場に担ぎ上げられたのだとしても、彼自身が俺達を殺す決意でここにいるのだと彼が右手を持ち上げた事で理解したのだ。
掲げられたバールのようなものは、暗く陰った洞窟内でも鈍く光った。
「滅、滅、滅、めっつ!」
「ぎゃあ、ああ、うわ、あああ!」
俺が危ないと皆に声を上げる前に、圭が素早く動いていた。
相手は殺人者だけどこんなにも無情に撃ち込んでいいの?と俺が自問するしかない目の前で、柴田は圭の弾丸によってあちこちを削り取られていく。
柴田のこめかみは切れ、眉間と鼻の頭を打たれた事で鼻血が吹き出した。
柴田は攻撃から顔を庇って身を屈め、攻撃を防ぐために右手を前に出した。
いや、前に出しただけじゃない。
奴は思いっ切りバールのようなものを振り回したのだ。
「けい!」
圭はひらりと後ろに飛び退り、しかし、飛び退りながらも銃を撃った。
柴田の指先には真っ赤な花が咲き、バールのようなものは地面に落ちて重たい音を響かせた。
「圭!この馬鹿が!何してやがる!」
「くにえださん?」
圭に危ないことはするなと怒ってくれた?
国枝も圭を大事に思ってくれていたと知り、俺は一瞬で国枝への見方を変えた。
「火力が弱すぎるから無駄玉になるんだ。もっと一撃必殺で行け!」
「あんたはうちの子をどうする気だ!ちょっとでも尊敬した俺を返せ!」
国枝を突き飛ばそうと両手を突き出したが、国枝は俺からすいっと身をかわし、圭の手からエアガンを奪うと、そのまま柴田に向かって引き金を引いた。
「ぎゃああ!」
柴田の右足は爆発した様に肉が散った。
俺は込み上げた吐き気を飲み込んだ。
「どうして!どうしてエアガンで骨が見える程に肉が弾けるの!」
俺の気持ちそのままを桃井が口に出して騒いでくれた。
柴田の脛は、爆発したかのようにして肉がベロンと剥がれている。
柴田はその凄い有様の傷の痛みに泣き叫んでおり、俺はそんな柴田を茫然と見守ることしかできなかった。
だから、国枝から銃を返してもらう時に、国枝を尊敬する目で見ている圭など、俺は絶対に見てなどいないに違いない。
「臆病者。俺の子供を影響するなって怒りなさいよ。」
「まだ、俺の子供は手遅れじゃない?」
「はは。どうだろ。これから仕上げをするからさ、君達は帰っていいよ。」
「わかりました。桃井、帰ろう。」
「仕上げって言っただろ。桃井君はここだ。帰っていいのは君とちび。」
「いや。桃井を置いていけない。」
「今から桃井君が主役なんだよ。君は桃井君の主役の座を奪う気かい?」
国枝の両の目元に黒い靄が掛かり、なぜか獣のような目つきに見えた。
俺は桃井を無理にでも引っ張っていくべきなのに、足に根っこが生えた様にして動かなくなった。
国枝は再び桃井に向き直した。
「さあ、邪魔者は黙った。俺と話そうか、桃井君。」




