7.腕
そして、朝になると、あきらが「ママ、ごめんなさい」と謝ってきた。それをきいたひとみは優しくあきらを抱きしめる。
「ママもごめんね」
「ママは悪くないもん……。ボクが──」
そこまで涙を溜めながら言うあきら。でも、涙をガマン出来ずに、ひとみの背中にシッカリと腕を回して抱きつきながら、泣き始めてしまった。ひとみはあきらの背中を優しくポンポンと触れながら「大丈夫よ」と声をかける。しばらくして、落ち着いてきたあきらは、ひとみを見つめこう言ってきた。
「ママ、大好き……!」
「ママも大好きよ」
すると、安心したようであきらは眠ってしまった。
「寝ちゃった……」
「それじゃあ、このまま連れて行こうか」
それに同意し、ひとみと吉崇は静かに出かける準備を始めた。そして、ひとみの養父母の家である藍川家につく頃に、あきらは目を覚まし「どこに行ってるの?」と眠たそうに聞いてきた。
「ジジとババの家に向かってるのよ」
あきらはひとみの言葉を聞き、嬉しそうに喜ぶ。あきらはよく隆史と春子に懐いている。そして、藍川家の玄関を開けると、あきらは一目散に春子に抱きつく。
「ババー、きたー」
「あきら、いらっしゃい」
それを見た隆史は、少しだけしょんぼりとしながら、ひとみと吉崇に「よく来たね」と言い、リビングに案内してくれた。そして、家でも車の中でもぐっすり眠っていたあきらだが、今度は遊びつかれて、吉崇に抱きしめられながらぐっすりと眠っている。
ひとみは一呼吸置いてから、ソファーから立ち上がり、隆史と春子の前に行き、正座をした。
「どうしたの? かしこまって」
「あのね、あの時の事を、キチンと謝りたくて……」
「あの時、謝ってくれ──」
すると、隆史が手を軽く上げ、それをみた春子は口を閉じた。
「あの時は本当にごめんなさい。そして、どんな時も、わたしの事を愛してくれてありがとう……」
そして、ひとみが頭を下げる。すると、春子はひとみの頭を優しくなで、隆史に「頭を上げなさい」と言われた。
「良いんだよ。誰だって、思わず言ってしまう事もある。それに、その言葉を言われる事はひとみの里親になると決めたときから覚悟はしていた」
「そうよ。だから、そんなに謝らなくて大丈夫よ」
その言葉を聞いて、ひとみは涙を流しながら、初めて自ら春子に抱きついていた。
「やっと、背中に腕を回してくれたわね。ひとみ」
「えっ、気づいてたの?」
「えぇ。何年、ひとみの親をしてきたと思うの?」
春子の言葉に隆史がこう付け加えた。
「ひとみに出会ったのは小学生に上がる前。ひとみの親になると決めたのは小学校に上がる直前。だから、ひとみの親になって14年間、君は一度も私達の背中に腕を回してくれなかった。それはそれで寂しかったんだよ。そして結局、社会人になる前には腕を回して欲しかったんだけど……。でも、今こうして腕を回してくれているから良いんだよ」
すると、いつの間にか目が覚めていたあきらがこんな言葉を言ってきた。
「キラキラ、キレイ」
(えっ?)
あきらの言葉に、ひとみが自身の親指に繋がっている藍色の糸の内、隆史と春子と繋がっている藍色の糸がキラキラと光輝いていた。
例えそれが、実の親と繋がっているものではなくても、ひとみは嬉しく感じた。
「キラキラ?」
春子の問いかけに、あきらが頷き、ひとみと隆史、春子を繋ぐ藍色の糸を持ち上げながら言う。
「コレ」
「そう、キレイね」
きっと、春子には見えていない。あきらに話を合わせているんだろう。でも、その優しさが嬉しかった。
(あきらにも見えているのか……)
ひとみがあきらぐらいの歳の時には既に孤児院のSAKURAのヤドリギにいた。だから、実の親の顔も知らない、でも、このくすんでいる藍色の糸の先に誰がいるのかは気になっていた。でも、その人達の事は既に大キライだった。
だから、きっと、大きくなってからもこのくすんだ藍色の糸の先にいる人達に感謝をする事なんて絶対にないと思っていた。でも、今、ひとみはこのくすんだ藍色の糸の先にいるであろう実の両親に感謝を伝えたくなっていた。
(ありがとう、こんなにもステキな人達に出会えて、こんなにもわたしは愛されてるよ。本当にありがとう)
ひとみが実の両親の事で知っている事は筆跡だけ。それだけだけど、それで充分だと思えた。だって、わたしにはこんなにも愛してくれる人達がいる。例え、実の両親の顔を愛を知らなくても、わたしの周りにはこんなにもアイで溢れてる。
(藍色の糸が6本あるのもいいかも)
ひとみは初めて、自分の親指に繋がる藍色の糸を見て笑顔になれた。




