5.プロポーズ
隣を歩いている吉崇は、まっすぐ前を向いて、一切、ひとみを見ていない。だけど、手だけはしっかりと繋がれていた。
恋人繋ぎで。
(大きな手……)
今日は、日曜日。仕事に慣れてきた頃、吉崇に誘われた遊園地。ひとみは小さな頃に既に吉崇からプロポーズされていたんだと気が付いた日から、吉崇の事を意識しすぎて、かなり避けていた。でも、そんなひとみに、吉崇は普通に接してくれ、こうして遊園地に誘ってくれた。その時、「遊園地に行こう」と言っていた吉崇の言葉はひとみの中で勝手に「デート」に変換されていて、今も緊張しっぱなしだ。でも、吉崇はひとみに緊張させない様に色々と気遣ってくれている。そんな、吉崇に「はぐれない様に」と言われて繋がれた手。それを見つめながらひとみはこう思っていた。
(勘違いしそう……)
実際に告白されたわけではない。でも、こうして恋人繋ぎで繋がれた手を見ていると、胸の奥がムズムズしてくる。そして、吉崇に声をかけられて顔を上げる。
「今度はあれに乗ろう」
恋人繋ぎで繋がれたまま、吉崇が人差し指で観覧車を指差していた。そして、吉崇に見つめられひとみは静かに頷く。そして、観覧車に乗るために並んでいる列に並ぶ。1組が降り、1組が乗る。それを無言で待つひとみと吉崇。そして、自分達の番がやって来た。
「どうぞ、足元にお気をつけ下さい」
係員に言われ、観覧車に乗り込む。でも、恋人繋ぎで繋がれた手は離れる事はなく、ひとみの隣に座る吉崇。そして、頂上が近くなって来た時に、吉崇がポツリポツリと喋りだした。
「あのさ、ひとみ」
観覧車の外を見つめていたひとみがガラス越しに吉崇を見ると、視線が合った。
「こっちむいて……、ひとみ」
その言葉に、素直に従うひとみ。そして、吉崇を見つめる。すると、吉崇は真剣な表情でこう言った。
「あの時、言った言葉……、覚えてる?」
「うん……」
「オレさ、あの時から、ひとみの事……、好きなんだ。それは大きくなった今でも変わらない。だから、オレ、飯熊、いや、朔之吉崇と付き合ってください」
それは、ちょうど、観覧車が真上に来た時に言われた言葉。その瞬間だけは、そこにいるのはひとみと吉崇だけ。だから、恥ずかしがる事もなく、ひとみは頷く。
「よろしくお願いします」
「ありがとう、ひとみ。大好き」
そう言って、初めて、重なる唇。そして、抱きしめられる。
「ひとみ、オレと家族になって……」
その声は少しだけ震えているように聞こえた。ひとみは、吉崇の背中にぎこちなく腕をまわす。
「うん……」
孤児院で育ったから、ひとみは家族というものがどんなものなのかよくわからない。でも、吉崇とならその家族というものを創っていける気がした。
ちなみに吉崇は里親に引き取られ、苗字が飯熊から朔之に変わっていた。
そして、ひとみは吉崇と結婚前提に付き合い始め、3年後には結婚し、ひとみの苗字は藍川から朔之に変わっていた。




