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  作者: 知美
アイ色の糸
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4.吉崇くん

 4月になり、ひとみの勤め先であるITOSAKI事業へ初出勤日を迎えた。そして、今、ひとみはスマホのマップを見ながら歩いているのだが、ひとみのいる位置とスマホに表示されている現在地があっているのか分からない。そして、スマホのマップは北が上に表示されているが、ひとみが向いている方向が北なのかもわからない。


(初日から迷って遅刻とか、サイアク……)


 ひとみがスマホを見ながら、困っていると、なんだか聞き覚えのある声に声をかけられた。


「どうかしましたか?」


 ひとみが素直に迷った事を伝えると、その人はひとみのスマホを少しいじり、ルートを表示させてくれた。


「ありがとうございます。助かります」

「あいかわらずだな」


 その言葉に顔を上げると「ひとみ」とにこやかに言われた。ひとみの事を名前で呼ぶのは孤児院──SAKURAのヤドリギで少しの間一緒に過ごし、そして、辛いときにひとみの事を心の中で支えてくれた吉崇だけだ。


「吉、崇……くん?」


 あの幼い頃と同じものなんて、きっとそんなにない。それなのに、吉崇の雰囲気は変わっていなかった。


「ひとみも相変わらずだな。なんか、安心した……」


 そう言って、頭をポンポンとしてくれた。


「あんまりゆっくりしてると、遅刻するぞ」


 その言葉に、ひとみは意識を取り戻す。そして、少しだけ、足早に歩き出す。だが、吉崇もひとみと同じ道をついてくる。


「吉崇くん、会社……」

「同じなんだよ、ひとみと」


 ニッコリと笑顔でそう言って、吉崇は歩くスピードを上げる。そのスピードになんとかついて行こうとするひとみ。そして、歩行者用の信号が赤になり、先に立ち止まっている吉崇の隣に止る。すると、吉崇はまっすぐ前を向いたままこう言った。


「オレ、ひとみにもう1回逢えたら、言おうって決めてた事があるんだ」


 そこで、言葉を切った吉崇。すると、タイミングがいいのか悪いのかそこで信号が青に変わった。


「青かぁ……、また、後で言うな。それじゃあ、行こうぜ」


 そう言って、今度は手を繋がれ歩き出す。少しだけ吉崇が歩くスピードが速い為に、ひとみは手を少しだけ引っ張られている感じになっている。吉崇の背中を見て、里親の元へ行ってしまう前日の夜、そして、新幹線の中で思い出していた事を思い出していた。


(確か、あの時の吉崇くんの言葉って……)


 その言葉を思い出して、少しだけ頬が熱くなったのを自覚した。だって、あの時は幼くて、吉崇が言ってる意味がよく分からなかった。でも、大きくなった今なら、その意味は分かる。


(あの時の、吉崇くんの言葉、わたしに、プロポーズ、……してたんだ……)


 そこまで考えて吉崇の背中を見ながら1人赤面する。今、吉崇は前を向いているから、絶対に赤面した顔を見られることはない。でも、いつ後ろを向いてひとみを見るかわからない。だから、ひとみは吉崇に手を引かれたまま、下を向く。


(わたしは──)


 これから、ITOSAKI事業で入社式があるのに、ひとみの頭の中は吉崇の事でいっぱいだった。

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