2.出発の日
そして、土曜日の朝。
「ひとみ、時間は大丈夫かい?」
朝の支度を終え、少しばかり緊張しているひとみに隆史が声をかけてきた。
「うん……。そろそろ、行く」
玄関へ向かうと、隆史と春子から1通の手紙を渡された。その手紙の色は日焼けでもしたかの様に少しだけ黄色くなっていた。
「これは?」
「これは、ひとみの実の両親からの手紙よ」
その手紙をひとみが開封し、中を見ると、1枚の便箋が入っていて、こう書かれていた。
“ひとみの親になる覚悟がなくて、ごめんなさい。そして、ひとみを育ててくれる人、愛してくれる人達を大切にしてください”
その短い文章を何度も読み返す。実の両親からの短い手紙。
(遅いよ……、もう充分にキズつけた……。それに、わたしは……あなた達に愛されたかった……)
ひとみは、手紙を持ったまま動けなかった。すると、ひとみの頭に隆史の大きな手が置かれ、まるで自分達がいるよと言うかのように優しくポンポンとされた。そして、春子に抱きしめられた。
「辛かったら、いつでも帰って来ていいのよ。この家はひとみの家でもあるんだから」
こんなにも優しい隆史と春子。それなのに、その優しさを素直に受け取れないひとみがいる。そして、10時を告げるアラームが鳴った。
「もうそんな時間か……」
隆史の言葉に頷き、ひとみは顔を上げる。そして、春子が抱擁を止め、ひとみの肩に両手を置く。
「気をつけるのよ」
その言葉に、ひとみは頷き、静かに玄関を開ける。そして、ボストンバックとスーツケースを手に持ち、顔だけ振り向き「本当にありがとうございます。それでは行って来ます……!」と言い、前を向いて歩き出す。
そして、スーツケースのキャスターのコロコロという音を聞きながら歩き、最初の曲がり角を曲がり、足を止めた。
「なんで──」
その後は言葉にならなかった。その代わりに聞こえたのはひとみ自身の嗚咽の音だった。
(なんで、あんなに優しくできるのよ……。わたし、あんなにひどい事言ったのに……)
そして、ひとみの頬を自然と涙が伝う。そして、それは顎から離れ、ポタッとアスファルトに染みを何個か作った。こうして立ち止まってしゃがみ込んでいては新幹線の時間に遅れてしまう。だけど、ひとみは少しだけそうしていた。
暫くそうしていたひとみだが、本当に新幹線に乗り遅れてはヤバイので、ひとみは足早に歩きながら、駅へ向かい新幹線に乗り込み、空いている席に座る。そして、ひとみは幼い頃を過ごしていた孤児院──SAKURAのヤドリギに居たころの事を思い出していた。




