1.見えた
赤い糸‐夏伊sideから三年後のお話です。
夏伊と付き合いはじめて分かったこと。
一つ目、スキンシップが多く、よく抱き締められる。
二つ目、夏伊が作ったお菓子を食べると、愛美にも他人の赤い糸が見えるということ。
“赤い糸は在った”
本当に祖母──神板百合が言っていた通りだ。でも、百合にはそれを言えていない。
夏伊に口止めされたから。
“それ言っちゃダメだよ。消えちゃうから”
そう言った夏伊は、ウインクをしながらこう付け足した。
“オレと愛美の秘密”
そう言って、愛美の唇に優しく、夏伊の人差し指が触れた。元々、スキンシップが多い夏伊だが、唇に触れられたことはなかった。だから、愛美はドキドキし過ぎて、頬を赤くしながらも、頷くことしかできなかった。
そして、お互い高校生になると、進学した高校が別々だった為に、中々会えない日々があった。だが、お互いにLINEで連絡を取り、休日にはよく二人で出掛けるなどしていた。そして、毎年、バレンタインデーには実際に会い、愛美から夏伊にチョコを渡し、ホワイトデーには夏伊から手作りのお菓子を貰っていた。
今年はお互い、大学の受験を控えている。だから、中々会えなかったが、バレンタインデーとホワイトデーだけはちゃんと会おうと決め、こうして、愛美は今、公園で夏伊を待っている。
公園にある時計は17時になるところだ。辺りを見回しながら、夏伊を待っていると、夏伊が走りながら、愛美に近づいてきた。
「遅く、なって、ごめん……」
夏伊の息が切れている。愛美は飲み物を渡そうと、公園の中にある自販機へ行こうとすると、夏伊に「大丈夫、だから……」と止められた。
「でも……」
「飲み物は持ってる……。とりあえず、ベンチに座ろう」
公園に設置されているベンチに二人で腰掛けると、夏伊は自身のバックの中から水の入ったペットボトルを取り出し、ゴクゴクと飲んだ。そして、一息つくと、夏伊は公園をキョロキョロと見回す。
「もう、この時間だからあんまり人はいないよ、斗神君」
「それなら……、いいんだ」
「何か人に見られたら──」
「そう、じゃな、く、て……」
否定しながら夏伊は再び、バックの中から紙袋を取り出し、愛美に差し出した。
「今年のホワイトデーは、コレ……」
紙袋の中を開けて中を見ると、そこには飴が入っていた。それは一つ一つ可愛くラッピングされている。
それを見た愛美は、思わず夏伊を見ていた。
「それがオレの答え。ずいぶん待たせてごめんね」
愛美は首を横にふる。全然まってない。ずっと夏伊は愛美に行動で“好き”という気持ちを伝えてくれていた。
「泣かなくても……」
「だって、嬉しくて……」
そう言って、愛美がうつ向くと、おもむろに夏伊が愛美に渡した飴を一つ取り出した。
「愛美は……、オレと付き合う覚悟、ある?」
「覚悟……?」
その愛美の言葉に夏伊が頷く。
「何が見えても、誰にも言わない覚悟」
その言葉を聞き“赤い糸”の事を言われてるんだと瞬時に分かった。愛美自身、まだちゃんと見えるわけじゃない。夏伊からもらったお菓子を食べたときだけ見える。その時だって、夏伊に「誰にも言わないで、消えちゃうから」と言われ、首を縦に何度もふったのを覚えてる。愛美は夏伊の瞳を見つめ、言葉を発した。
「言わないよ、誰にも」
すると、夏伊は「わかった」といい、手に持っている飴を愛美の前にさしだし「食べて」と言われた。そして、愛美が口を開けると、夏伊がその飴を愛美の口の中に入れてくれた。そして、夏伊が愛美の左手を持ち、愛美の目の前に持ってくる。
「あっ……」
愛美の左の小指には赤い糸が在り、その糸はしっかりと夏伊の左の小指に繋がっていた。
中学生最後のバレンタインデー前に思っていたことが、実際にこうして目の前に在る。それが嬉しくて、そして、本当に赤い糸が在ったことが驚きで、愛美は目を見開いていた。
「オレと愛美のコレは中学生最後のバレンタインデーの前からこうだった。これを愛美が見えるようになるのは簡単なこと、オレが“好き”という気持ちを込めて作った飴をなめれば良いだけ。だけど、それをするには、オレの覚悟が必要だったんだ」
「そっか……」
「その覚悟が中学生の時はなかった。だから、クッキーだったんだ」
それから夏伊は愛美に赤い糸が見える理由を教えてくれた。
“赤い糸が繋がった状態で夏伊が作ったお菓子を食べると他人の赤い糸が見える”
“夏伊の好きと言う気持ちがこもった飴を食べると自身の赤い糸が見える”
それを聞いた愛美は中学生の夏伊の反応を納得していた。そして、今、ふと思ったことを夏伊に聞きたくなった。
「私が、自分のと他人のソレをずっと見ている事はできないの?」
赤い糸が見えるなら、自分の糸も見たいと思っていたが、父親──神板巧と母親──神板美子乃の赤い糸を見たい。
すると、夏伊は頬を赤くして、愛美から顔を反らした。
「知りたいの?」
「知りたい」
愛美の返答を聞いた、夏伊は愛美の耳元で囁いた。
「愛美とオレの関係性が深くなればなるほど、よく見える……」
「関係性……」
その呟きを聞いた夏伊が自身の唇に人差し指で触れた後、愛美の唇にそれが優しく触れた。
「今はまだ、そういうことしない方がいいんだ。コレに関わるから」
そう言って、夏伊は小指を立てて愛美に見せる。
「……わかった」
「ごめんね」
「きっと、私の為、なんでしょう?」
その言葉に、夏伊が愛美を見つめ頷く。
「ありがとう、斗神君。大好き」
そう言って、愛美は初めて自ら夏伊に抱きついていた。
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