5.赤い糸
当日、学校に着くと、やはり、机の上がチョコでいっぱいだった。それを見て、佳宮、愛美と愛美の友達──矢上知乃とで夏伊の事を話していた。だからと言う訳じゃないが、知乃に聞かれた問いに、素直に簡潔に、だけど、周りに聞こえない声で、答えていた。
答え終わった後、ハッとした。
(オレは何をしているんだ! これじゃあ、チョコケーキ貰えない……!)
ソーッと視線だけで愛美を見ると、固まっていた。
(あんなこと言えば、そうだよな……)
夏伊も一緒になって、固まっていると、佳宮に肩を強く掴まれた。そして、視線だけで「お前……、何してくれてんだよ……!」と言われた。
「本当に……、ゴメン……」
「オレじゃなくて、神板さんに謝れ! と言っても、時間切れでムリだけどな」
そう小声で言って、佳宮は自分の席に戻っていった。
それからというもの、夏伊は気まずくて、授業に集中できていなかったが、そのわりには、時間が早く過ぎ去り、あっという間に、お昼になっていた。
チャイムがなり、佳宮が購買に行こうと誘ってくる。それに頷き、夏伊は席を立つ。その時、チラッと愛美を見ると、浮かない表情をしていた。
(オレのせいだ……)
自己嫌悪に陥りながらも、購買でお目当てのモノを見つけ、どうにか手に入れ、ゆっくりと教室に戻る。すると、知乃が“夏伊の為に、一生懸命愛美が作ってくれた”チョコケーキを食べていた。それを廊下から見かけた夏伊は、足早に、教室に入り、愛美の所へ向かっていた。そして、それを後ろから見ていたであろう、佳宮が愛美と知乃にこう声をかけていた。
「それ、友チョコ?」
「……うん」
その返事を聞き、夏伊は“友チョコ”の部分を強調して「欲しい」と言っていた。すると、「チョコケーキで良いなら」と、愛美はチョコケーキをくれた。お礼をいい、席に座る。
「良かったな」
「ありがとうな、ミヤ」
そう言って、夏伊は、購買で買ったご飯より、先に、チョコケーキを口にする。すると、夏伊の左の小指に繋がっている赤い糸が淡い光を発し、少しだけ太くなった。そして、不思議と、他の赤い糸が見えなくなっていた。それが嬉しくて、夏伊は初めて、赤い糸を外さなかった。
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