うつうつおばけ4.3~五月~
彼女と親しかった人物といえば、やはり美術部員だろうか? それとも、仲の良い友達とか? 両方が重なっている場合もあるか。
さて、どちらを重視するか――まずは、美術部の子から当たってみよう。
「エート、✕✕っちのこと? ウニャー、悪いけど、ボクはそんなに親しくなかったから知らない。でもでも、何か動物を描くのにメチャクチャはまってたのは、よく覚えているニャーよ。確か、猫や狸や狐……あと、鹿・猪・熊・洗熊・鳩・烏・蝙蝠、まぁいっぱいラフを描いていたニャー」
早速、近場から当たってみた。
彼女は美術部に入部しているクラスメイト。猫と金髪碧眼とタバスコを愛している。
「✕✕っちとよく喋ってたのは、多分、先生と部長かな? 作品の相談するなら、その二人だと思う。ニャニャ、ボク的に相談するなら鉄板だニャー」
なるほど、美術部の顧問か。
私は選択教科は音楽をとっているから、関わったことがないんだよね。職員室に行けば居るかな?
「✕✕のことを知りたい? 見たことない顔だけどねぇ……あんたさぁ、そんなに彼女と仲が良かったっけ?」
美術部の顧問は、眼鏡をかけた無精髭のおっさんだった。
とりあえず、適当にでっち上げた事情を話す。
「嘘くさい、もう少し真実味が欲しいものだねぇ? 彼女ねぇ、当時、不眠症気味だったのは覚えているよ。眠れないのに、なんでか嬉しそうで、あれは相当ハイになってたねぇ。君もスマホを弄ってないで、ちゃんと睡眠はとらないと駄目だよ」
最後は説教じみた言葉を供えてたが、✕✕さんの情報を教えて貰えた。次は部長を狙おう。
それを言い終えると、先生は子ブタ柄の可愛いマグカップに入っているコーヒーを、ずーずーと音を立てて啜る。
これはモテない男がやる行動だ。私にはわかる。
「今年はそうでもないけど、去年は何故か寝不足の生徒が多かったねぇ。保健室のベッドが埋まった日もあったようだし、不安な生徒が多かったのかねぇ」
ゆっくりと、飲みかけのコーヒーを机に置く。
用は済んだ。お礼を言って、退室しよう。
部長さんは美術室にいるかな?
「あら貴女、✕✕ちゃんのことを訊き回っている子かしら。何が目的なの?」
美術部の部長は、たらば蟹が蛸壺に何故か張り付いている不思議な絵を描いていた。
「うふふ、私の傑作に邪悪で邪魔な人間なんて必要ないの。私にとって、人間なんて所詮モブ以下の存在よ。登場させるなんて勿体ないことはしないわ。✕✕ちゃんと私は、そこがくっきりと違うのよね……って、あら? 絵のことを訊きに来たんじゃないの?」
先輩に説明をさせて申し訳ないですが、私はこの部活に入部する予定はないです。
「✕✕ちゃんとは芸術について語ることはあるけど、プライベートを話す仲ではないから、その質問は少し困るわ。そうね……あの頃は気に入ったテーマが見付かったからって、構想を一生懸命練っていたはずよ。えーと、テーマは烏合之衆……いえ、有象無象だったかしら? 訊きたいことって、こんなことでいいの?」
部長さんとは、そこまで親しくはなかったのか。
今度は彼女の友達を当たってみるか。
「そういえば、✕✕ちゃんはクラスの友達よりもSNSの繋がりの方を意識していたんじゃないかしら。リアルよりもネットを重視するのも、場合によっては有りだわ。だって、現実なんて幻想に比べたら、美しさと煌びやかさが足りないもの……」
なるほど。
ネット友達の方も洗った方がよさそうだ。
インターネットで使っている名前は、部長さんが知っているといいんだけど……
「………………あった、これだっ!」
美術部の部長さんから教えて貰ったハンドルネームを打って、SNSの海に沈んでいる彼女を探す。
✕✕さんがネットで使用している名前は、他のユーザーも多くて見付けるのが大変だった。
「うーん、あまり書き込みはしていない……けど、よく絡んでいるのは一人だけいる。この人をマークするか」
言動から女子っぽい。けれど、もしかしたら、ネカマって奴かもしれない。性別を見極めるのは難しい。
更に、スクロールして、二人の会話をじっくりと読み込む。
「一緒に遊んでいるし、地元の同い年っぽい。誰なんだろう、この人?」
ハンドルネーム『✕✕'』と会話している『●●'』って、うちの学校の子とか? まさかね。
「✕✕さんって、つるんでるクラスメイトはいるけど、親友レベルってわけじゃないんだよね。詰まったなぁ、どうしよ……」
仕方がない。詰まったなら、後回しにしよう。
気になる呟きをスクショして保存。後でノートに、日にちを記録して写そう。
この作業中に良い案が浮かぶといいけど……