うつうつおばけ4~五月~
うつうつおばけ うつおばけ
ぼくとわたしときみだけが
ひみつのかいじょうでおどる
まいにちこえでおくるしょうたいじょう
おそろいのふくにかわってさんかする
てがそまった からだがない
なきたい うれしい
うつうつおばけ? まだ、噂は流行っているのね~
ちょっと! いい加減、しつこいなぁ。
私、何回も何回もその噂を耳にしたけど、一回も見たことないんだけど。本当にいるか分からないものに踊らされているって自覚ある?
意味不明。私にもう話し掛けないでくれます~?
――村尾愛繋石
先輩が亡くなった日から毎夜、うつうつおばけの夢を見るようになった。
毎日、自宅で眠る度、やつらは私の夢に侵入するのだ。それは今まで貯めこんだ回数券を消費するかのように。
今日、明日、明後日、明明後日、少しずつ少しずつ私を蝕んでいく……
雨がぽつりぽつりと降っている。
前回の時と夢が変わった。
先輩を亡くした日を思い出すかのように、天井から雨が降るようになった。
降り注ぐ透明な雨滴は、床に落ちると忽ち闇色に変わって足下に溜まっていく。
ぴちゃぴちゃと靴を濡らす水溜まり程の量であったのが、瞬く間に、椅子に座っている私の膝にまで迫る程の水量になるのだ。
墨汁と似た黒色へ化けた雨水は、ゆらゆらと水面に揺れている。
うつうつおばけも同じように、ゆらゆらと愉しそうに揺れている。
うつうつおばけもまた変化した。
前回と同じように詰りながらも、光に照らされながら立っている私の方を気にしている。
まるで、立っている私へ、椅子に座る私が移り変わるのを待っているようだ。
だが、私の意識はそちらに行かない。
立っている私に為った瞬間、うつうつおばけに為った二人が、現れるのを私は恐れているからである。
こわいこわいこわい
赤の他人に言われるよりも、知人や親しき人に言われる方が心は何倍も傷付く。
それならば、蠢いているうつうつおばけに、痛め付けられる方がましだ。
私は傷付きたくない。私は傷付けられるのは嫌だ。どうせ、傷付けられるのならば、最小で済ませたい。
だから、私は立っている私にならない。それなら、椅子に座りながら耳を塞いで、蹲る方が良いに決まっている。
――起きた。
いや、うつうつおばけの夢から醒めたのか。
確認のため、頬を触ると湿っていた。また、泣いたのか、私は……
ちらりと学習机の上に置いてあるファイルを、ベットで寝ながら見つめる。
先輩が大切にしていた美術部の勧誘のポスター。先輩が枕に敷いた折り畳まれた紙。私が返却することが出来なかったもの。
思い出して、溜め息をつく。
今まで気にも留めなかったが、あれを描いたのは、✕✕さんだろう。
先輩と一体どんな関係だったのか、それは私は分からない。
ただ、彼女も先輩と一緒で、うつうつおばけの夢を見ていた可能性は高い。
気になる。彼女について、少し探ってみるか。