ちくわを履いた猫
表紙 秋の桜子さん
とある貧しい粉挽き屋の両親が、不慮の事故で亡くなりました。
3人の子ども達は少ない遺産を引き継ぎ、長男は粉挽き小屋を、次男はロバを、そして三男は老いた猫を貰いました。
三男は猫一匹しか貰えぬ不平等に喘ぎ、路頭に迷いそうになります。
しかし、猫は「袋と長靴を用意してくれれば、きっと貴方を幸せにしてみせます」と三男に話しました。
「ちくわしか持ってないよ…………」
三男は懐からなけなしのちくわを二本取り出しました。猫は暫し考え「……ま、いいか。多分大丈夫♪」と笑顔で語ります。
猫は王様の所へやってきました。そしてちくわを一本王様に献上しました。
「小林侯爵から王様へ贈り物です」
「こ、これは……?」
王様は初めて目にするちくわに興味津々。毎日豪華な料理を食べている王様がちくわなんか食べる筈がありません。ちくわを手に取り穴から遠くを覗き、一口齧り満足げな面持ちです。
「君の主人である小林侯爵に宜しく頼む」
七味&マヨネーズにちくわをちょんちょんしながら、王様は笑顔で猫を見送りました。
ある日、いつも通り川で体を洗っていると、王様とその娘が馬車に乗って通りかかりました。すると猫は残りの一本のちくわを半分に割り、足にはめて履きました。そして馬車の前へ飛び出し王様にこう伝えます。
「大変です! 小林侯爵の服が盗られてしまいました!」
王様は川で水浴びをしている少年が小林侯爵だと知ると、ちくわ柄の衣服を少年に差し出しました。そして少年を馬車に乗せ、道を進み始めました。
猫は馬車よりも先に前を進み、畑を耕していた農民に「この畑は小林侯爵のちくわ畑と言え! さもないと八つ裂きにするぞ!?」と脅しました。
農民は八つ裂きにされたくないので、口々に小林侯爵のちくわ畑だと嘘をつきました。王様はいたく感心し、ちくわが食べたくなりました。
馬車が向かう先には悪い魔女の住む城がありました。猫は城へ先回りし魔女を大声で呼び出します。
「なんだい、このちくわを履いた妙な猫は!?」
魔女は虎に変身して猫を脅かしました。猫は耳を塞ぎ何とか耐え、恐る恐るも魔女に話し掛けました。
「魔女さんはこのちくわの穴に入る事が出来るかい?」
猫は足にはめたちくわを外し穴から魔女を覗きました。魔女はハハンと鼻息一つ鳴らし、煙と共に体を小さくするとスッポリとちくわの穴へと入り込みました。
──ぽーい
猫はその魔女が入ったちくわを煮えたぎっていた油の中へと放り込みました。
「王様、ちくわの天ぷらになります」
久し振りのちくわに涎が止まらない王様は、魔女入りのちくわの天ぷらを一口で食べてしまいます。そして魔女のお城を乗っ取った少年は、そのまま王様の娘と結婚する事になりました。
翌年、王様は謎の腹痛を訴えそのまま帰らぬ人に……。
少年は亡き王様の後を継ぎ、国を治める国王となりました。
猫は残りの半分のちくわを咥え、少年の膝の上でゴロゴロと喉を鳴らしましたとさ…………。
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