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問いかけの意味は?

あんな別れかた……気を悪くしてしまったわよね。

どうにか謝りたいけれど、今この場を離れることは出来ない。

話はまだまだ続きそうだし、後で文でも送っておこうかしら。

だけど……出来ればもう一度お話したい。

そう思うと、肩にかかったサーコートの温もりが蘇った。


研究の話をしているときは目の輝きが美しくて、ずっと見ていたいそんな気持ちになった。

だけど騎士になると決めた彼の寂しい笑み。

今まで出会った大人たちとは違う、そう思わせる何かを感じた……。


だけど……彼のような優秀な人にはきっとそばで支えてくれる誰かがいる。

確か彼は18歳だし、恋人の一人や二人……。

そう思うと、心の奥からモヤモヤとした感情が込み上げてくる。

私はそっとその気持ちを胸に押し込み蓋をすると、悟られないようしっかりと笑みを貼り付け続けた。


息子がどれほど素晴らしいのか、そんな親ばかな話に付き合っていると、あっという間に時間が流れていく。

シンシアはいつの間にか私の傍から離れ、会場の片隅で令嬢たちと話をしていた。

その姿は昔よく見た自然な笑顔で……胸がチクリと痛む。

なぜ妹に嫌われてしまったのか、もう諦めていたはずの感情が蘇り、寂しさを感じた。


王の挨拶と共に夜会が閉会すると、貴族たちがぞろぞろと会場の外へ出て行く中、私は無意識に黒髪の男性を探していた。

けれど人の多さに見つけられない。

私は小さく息を吐き出すと、蒼い瞳に映った月明かりが瞼の裏によぎった。


屋敷へ戻り着替えを済ませ部屋でくつろいでいると、ノックの音が響く。

返事を返し扉を開けると、そこにはなぜかソワソワした様子で母が佇んでいた。


「チャーリー、夜会はどうだった?」


「えぇ……まぁ、とても有意義な時間でしたわ」


質問の意図を謀りかねる中、母は徐に顔を寄せると声を潜める。


「ふふっ、それはよかったわ。ところで気になる令息はいたかしら?王子様ともお会いしたでしょう。マーティン様よ、恰好よかったでしょう~?少し恥ずかしがりやさんみたいだけど、ふふふ」


王子……どうしてそんな質問を……?

彼と挨拶を交わしたけれど、とても迷惑そうだったじゃない。

あれは恥ずかしいとかそんな次元じゃないわ。

一体何が言いたいのかしら?


こういった大人の質問には常に何かしら別の意図が隠されている。

読み間違え失敗した人たちを何人も見てきた。

格好いい……まさか婚約者に……?

いえいえ、婚約何てまだ早いし時代錯誤だわ。


この国では16歳になると、階級男女関係なく2年間学園で学ぶ義務がある。

結婚や婚約は18歳で卒業した後が一般的。

昔はいざ知らず、今時成人しすぐに結婚する者も少ない。

大抵は仕事や新生活が落ち着いた20歳を過ぎてから。

今の時代、女性の社会進出も多く、昔のように結婚し子をなす事だけが女の仕事ではなくなってきている。


それに婚約者を作る貴族も少ない。

昔は幼いころに家の為にと政略結婚が主流だったみたいだけれど……。

今では階級制度も整い、ここ数十年は時世が落ち着き、恋愛結婚が当たり前。

王族は国を治める者として、多少昔の風習を意識してはいるけれど……さすがに本人が嫌がれば婚約何て話自体出てこない。


初対面でのあの反応、私が好かれているとは到底考えられないわ。

なら他に何があるかしら……うーん、いい令息ね……。

ニコニコと曖昧な笑み浮かべ、真意を探りながら相槌を返していると、ふとケルヴィンの姿が頭を過る。


吸い込まれそうな夜空の瞳。

息がかかるほどの距離に彼がいた。

その姿にまた胸が小さく高鳴り始めると、私はその姿を振り払うように瞳を閉じる。

この不可解な動悸は何なのかしら……それに経験した事のない感覚、いえ感情……?


「チャーリー聞いている?どうしたの?黙り込むなんて珍しいわね」


「いえ、その……そうですわね、マーティン様はとても素敵な王子様でしたわ。えぇ……まぁ……、今日は疲れたのでもう休みます」


「あらあら~そう?でも王子様を気に入ったようでよかったわ。これでいいお返事が……ふふふ。チャーリーゆっくり休みなさい」


満足げに笑う母を横目に、私は急ぎ足で部屋へ戻ると、明かりもつけずにベッドへと横たわる。

どうして彼の姿が頭に浮かぶのかしら。

気になっていた論文の件は無事に解決したし、もう何もないはずよ。

今日初めて会った方……こんな事今までなかったわ。

私は何度も浮かぶ彼の姿に狼狽する中、私はいつの間にか深い夢の中へと落ちていった。

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