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祝いの席

ギクシャクした関係が続き、妹との関係が冷え切る中、私は12歳となり社交界デビューを果たした。

王族からも祝いにと贈り物が届き、親族たちや繋がりの深い貴族に祝福されるが、もちろん妹からは何の言葉もない。

私から妹に声を掛けることもなく、妹から話しかけられるのは、何かを欲しいとねだられるときだけ。

ねだられれば何でも妹にあげたわ。

その度に妹は何とも言えない表情を見せる。

そんなよくわからない妹の様子に、私は次第に妹を避けるようになっていた。


社交界へ出るようになると、私は家に戻ることなく、城の中で大人たちと共に過ごしていく。

城で書類仕事を手伝うことと引き換えに、一室を借りて住む許可も頂いた。

仕事のために政治の分野を学ぶことになったのだ。

でも城で過ごす中で、一番興味ももったのは天文学だった。


澄んだ夜空に浮かぶ煌めく光、時期によって姿や位置が変わる。

どうして光っているのか、どうして移り変わっていくのか、どうして存在しているのか、光の先になにがあるのか。

解明されていないことばかりで、興味が尽きないの。


仕事の合間に天文学を研究していると、ある令嬢と知り合った。

彼女は私よりも6歳年上のキャサリン様。

ケイトお姉様呼ばせてもらっているの。

美人で恰好よくて、さっぱりとした性格で、頭の回転も速く、他の大人たちはどこか違う。

天文学が本当に好きなのだと、そう感じすぐに仲良くなった。


研究に没頭したいが、私は家の為、そして長女として貴族令嬢が催すお茶会へ参加し、お城で開かれる学会へ出席と忙しい毎日を送っていた。

すると周囲から様々な声が耳にとどく。

(シャーロット様さすがですわね、令嬢の鑑ですわ)

(幼いのにこれだけの教養と礼儀が出来る子供はそうおりませんわ)

(将来が楽しみだ。その年で落ち着きがあって、全くうちの娘も見習ってほしいよ)

(こんな難しい問題まで解けるのかい!?天才だな)

家から離れ、周りからの期待、理想、そんな貴族社会は、私という人間を形成していった。


家の為に優秀な令嬢を演じ、大人たちの自尊心を傷つけないように立ち回る。

仮面をかぶり笑みを絶やさず、冷静で余裕のある令嬢。

本当の自分は誰にも見せてはいけない、理想であるべきなの。

皆が皆私に理想の令嬢を重ねている、その期待を裏切れば、私の居場所がなくなってしまうから。


順調に令嬢としての道を進む中、私の元へ城が主催する、ある夜会の招待状が届いた。

私とはあまり面識のない家の長男が、どうやら大きな功績をあげたらしい。

それは世紀の大発見ともよべるもので、侯爵家から公爵家にと上位の爵位が与えられるのだとか。

その昇任式がこの夜会で行われる。


早速発表された論文に目を通してみると、奇異な発想でとても私には思いつかない大発見。

何度も熟読し、彼の他の著作を読んでいると、ふとある違和感に気が付いた。

内容はそれぞれ問題ない。

だけど他の書籍と比べると、一番新しい論文の言い回しが若干異なっている。

筆跡も同じ……だけどなんと言えばいいのか文章を作る構成に微細な違いが窺える。

変だわ、こういった書き方は癖みたいなもので、そうそう変わることはないはずなのに。

う~ん、とても気になるわね。

彼の論文をいくつも並べ見比べる中、私は何度も首を傾げていた。


そうして答えはでないままに夜会当日。

やはりどう検証しても、今回表彰される著作だけ違う。

モヤモヤとした気持ちのまま参加する祝いの席、会場は華やかな雰囲気に包まれていた。


煌びやかで豪華な装飾の会場内で、音楽家たちが祝いの曲を演奏している。

妹も参加するが、私と時間をずらし別行動になるよう両親が配慮してくれた。

ゆったりと流れるその音楽に耳を傾ける中、両親に連れられ入場すると、まずは王と王妃の元に挨拶へ向かった。


貴族たちの列に並ぶこと数分、王と王妃の前へやってくると、私はにこやかな笑みを浮かべ、そっとドレスの裾を持ち上げた。


「この度はお招きいただきまして、ありがとうございます」


両親は王族とのつながりが深く、よくお茶会に呼ばれていた。

だけどこうやって公の場で挨拶を交わすのは久方ぶりだわ。


「あら~、素敵なドレスですわね。でもいつものラフなドレス姿も可愛らしいですわよ」


王妃は妖麗な笑みを浮かべると、おもむろに視線をあわせる。


「ところでこの論文に目を通されたのでしょう?シャーロットはどう感じましたの?」


彼女の問いかけに私はゆっくりと顔を上げると、ニッコリと令嬢の仮面を貼り付ける。


「これからの未来を明るく照らす素晴らしい発見だと思いますわ。特に……こことここは……」


簡潔に論文の所感を王妃に話すと、彼女は満足げな笑みを浮かべてみせた。


「素晴らしいご意見ですわね。さすがシャーロット、ふふふふっ、これなら心配は無用ですわ」


何の心配なのかしら……。

彼女の言葉に首を傾げる中、王妃は口元を扇子で隠すと、執事を呼びよせる。

すると向こう側から一人の少年やってくると、私の前で立ち止まった。

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