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キラキラした世界?

(表紙)

挿絵(By みてみん)



真っ白で新しい世界、何もかもが新鮮で輝いていた。


幼いころから興味を持ったものは何でも知りたがった。


新しい知識を身に着けることが楽しくて、出来ると褒めてもらえる事が嬉しかった。


でもいつの頃からだろう……そう思えなくなっていく自分がいたの。


私は公爵家の長女としてこの世界へ生を受け、シャーロットと名付けられた。

とても活発の子供だったみたいでね、3歳で読み書きを覚えると、4歳でマナーを習得し、5歳で一般教養のレッスンを終わらせた。

教えに来てくれていた先生方が、私の成長速度に驚いていたわ。

あの頃は学ぶことが面白くて、夢中になっていたの。


そして6歳になった頃、私は大人たちと交ざり、興味のある分野、音楽、建築、数学、天文学、気象学、物理学、光学、哲学……それこそ何でも学ぶようになった。

そうして初めて訪れたお城。

どこまでも続く長い廊下に、私の部屋の何倍も広いお部屋。

そこには視界いっぱいに広がる本の数々と、様々な人々の姿。

窓の外には美しい庭園広がり、その先には堅固な城壁が見えた。


貴族に騎士、学者に研究者、大きな荷物を提げた商人や庭師、メイドに執事が齷齪と動き回り、見ているだけで楽しかった。

屋敷の狭い空間と違って、外の世界はキラキラと輝いていたの。

こんな場所で新しい何かを学ぶことに、胸を膨らませていたわ。


だけどそれは最初だけだった。

外の世界を知れば知るほどに複雑で、景色など気にする余裕もなくなった。

人と人がつながる場所、それは即ち一つ間違えばそこから弾きだされる、そんな恐ろしいところだった。


子供だからと許されることも沢山あったわ。

だけど許してくれない大人、私の事をよく思わない大人もいる。

十人十色と言えばいいのかしら、人はそれぞれに考え方が違っていて、本音と建前、表と裏。

そんな世界に飲み込まれていくと、疑心暗鬼になっていった。

どうすれば正解なのか、それは誰にもわからない。

ただ新しい事を学びたいそれだけなのに……大人たちの反応、そして彼らの瞳が邪魔をする。


そんな中で私は人と人との付き合い方を必死に覚えたわ。

学ばなければここで生きていくことは出来ない、そう悟ったから。

うまく付き合っていく人、そうでない人、我関せずの人、主導権を握る人、握られる人。

結論から言うと、あまり感情を表に出さず、いつもニコニコと笑み作っていれば、上手くいと気が付いたわ。


熱くならず、第三者の視点で客観的に観察する。

付き合いは広く浅くを心掛け、面倒なことには極力近寄らない。

怒りや悲しみは不要な感情、希望は持たずと人を信頼はしない。

我慢を覚え、主張をしすぎることはせず、謙虚に害のない、そんな自分を作り出した。


敵対する者からは距離を置き、家柄にすり寄ってくる者とは一線を引き、深く入り込ませず、こちらも踏み出さない。

穏便に事を進めるためには、笑顔がとても役にたつの。

だから私はどんな時でも笑うように心がけたわ。

そうしてそんな荒波にのまれる中、気が付けば私は貴族たちの間で一目置かれる、そんな存在になっていた。


そんな私には一つ下の妹がいるの。

名前はシンシア、純粋無垢で愛らしくて、天使のように可愛い妹。

幼いころ勉強の合間に、良く一緒に遊んだわ。

私が城で勉強している事柄は、シンシアには難しすぎるから話せない。

だけどシンシアは今日あったこと、楽しかったこと、嫌だったこと、天真爛漫に話してくれる。

その話を聞くのがとても幸せだった。

だってお城の中ではそんな綺麗な感情を感じることも触れることも出来ないから。


私の後ろをついてくる妹が微笑ましくて大好きだった。

楽しいときは笑って、悲しいときは泣いて、欲しいものがあれば甘えてくる。

嫌なことがあれば怒って、不貞腐れて……そんな自然と喜怒哀楽を表現する彼女を羨ましいと思っていた。


だけど成長していくにつれて、可愛かった妹が突然変わってしまった。

外の世界を知ってしまったからだろうか……あれは確か、私が8歳になった頃。

部屋で書物を読んでいると、突然にバンッと扉が開いて妹がすごい勢いで乗り込んできたの。


「お姉様の大好きなお菓子、全部食べちゃった。とっても美味しかったわ」


「ふふっ、シンディが喜んでくれるならいくらでも食べていいのよ」


そう優しく返してみると、妹は不機嫌そうに顔を歪めた。


「お姉様……怒らないの?あのお菓子食べるのを楽しみにしてたじゃない。それを全部食べちゃったんだよ!」


怒る……?どういうことかしら……。

まぁ残念という気持ちはないわけではない、けれど怒るほどのことでも……。

妹の突拍子もない言葉に、私はいつも通り笑みを浮かべると、おもむろに顔を上げた。


「怒ったりしないわ。どうしたのシンディ?」


「お姉様……ッッ、なんで怒らないの?」


シンシアはズンズンと部屋の中へ入ってくると、手を腰に当てじっと私を見上げていた。

妹に怒りなんて感じていない、いえ感じたことなんてない。

意味がわからないわ……私を怒らせたいの?


理解不能な妹の行動に、頭の中は疑問符でいっぱいだった。

自分のキャパシティーを超えた質問に、どう返すのが正解なのかわからない。

誤魔化す様困った様子で笑みを浮かべてみると、妹は不機嫌な様子で口をヘの字に曲げた。


「何で、なんでなの!!!早く怒ってよ!」


叫ぶような声に内心狼狽する中、返す言葉が思いつかない。

そのまま笑みを浮かべ続けていると、シンシアはキッと鋭くこちらを睨みつけ、無言のままに去って行く。

そんな妹の姿に唖然とする中、私は追う事も出来ずに、閉じた扉をじっと見つめていた。

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