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もう一度会いたい?

朝になり、私はすぐさま城へと向かう。

家にいると、またシンシアに絡まれるかもしれないから。

城では面白くないお茶会へ参加し、何を話しあうのかよくわからない会議に同席したり、くだらない噂話や不平不満を聞かされたり、日中は城の書類整理や作成を手伝っていく。


そうして夜になると、キャサリンお姉様の元を訪れて天文学の研究。

本当はもっと研究に専念したい。

けれど私は公爵家の長女、やらなければいけない役割があるの。


そんないつもと変わらない日常、だけどふとした瞬間、夜会で出会ったケルヴィンの姿が頭に浮かぶ。

そして無意識に、騎士たちの姿を目で追っている自分いた。

あの時の無礼は夜会が終わってすぐに文で伝えたわ。

ならどうして探してしまうのかしら……自分のことなのに理由がわからない。

もし彼を見つけたら、私はどうしたいのかしら。


しかしその心配は杞憂に終わり、城内で彼の姿を見かけることも、出会う事もなかった。

きっともう騎士団へ入団しているはずなのだけれど……。

騎士の訓練場の前を通ってみても、そこに彼の姿は見当たらなかった。

一体どこへ配属されたのか……いえ、別にどこへだって構わないわ。

私はよくわからない感情に首を傾げる中、頭に浮かぶ彼の姿を振り払うと、手に持っていた資料へと目を移し仕事に集中した。


そんなある日、何の前触れもなく、突然私の元へ婚約話が舞い込んできた。

婚約相手はなんと第一王子である、マーティン様。

あの時母の意味深な質問は……まさか婚約するためだったの?

信じられない話に目を見開く中、王族と懇意の中である私の家が、ここで断ることは難しい。

ましては私はマーティン様を素敵な王子だと母に話してしまっている。

だけど先日挨拶をした彼は……私に対して良い印象を持っていなかったでしょう……。


夜会での彼は視線を合わすことなく、不貞腐れたような姿。

それなのにどうして婚約なんて――――嫌っている相手と婚約何て、普通無理でしょう?

しかし私の想いとは裏腹に、とんとん拍子に話が進んで行くと、顔合わせをすることになった。

今日の為に作らせたのだろう、晴れた空のように澄んだ薄い青色のドレス。

長い髪に櫛を通し軽く唇へ紅を塗ると、私は言われるままに馬車へと乗せられ城へ向かった。


メイドに連れられ王宮へやってくると、そのまま庭へと案内される。

そこには先日夜会で見た王子が、白いガーデニング椅子に腰かけていた。

前髪はあの時とは違い短くなり、端正な顔立ちがはっきり見える。

琥珀色の瞳は力強く輝き、王族特有の威厳を感じられた。


物語などで読んだ焦がれるほどの恋愛結婚、そういったものに少し憧れていたけれど……。

まぁそれは置いといて……こんなの政略結婚と変わらないじゃない。

だって彼は私を好いていないでしょう、なのに今時政略結婚なんて、一体どうしてなのかしら。

もう十分に王族との仲は深いはずなのだけれど……。


そんな事を考えながら王子へ挨拶すると、彼は勢いよく立ち上がり、椅子がガシャンッと倒れる音が響いた。


「俺はこのまま、結婚なんてしないからな!」


あらまぁ……。

開口一番予想だにしていない言葉に、呆気にとられる。

琥珀色の瞳と視線が絡むと、私は慌てて姿勢を正し、令嬢の仮面を貼り付けた。

無理矢理に頬を持ち上げ笑みを浮かべるが、返す言葉が思いつかない。

こうも真っ向から拒絶されると、どう対応していいのかわからないわね。

ってそれよりも嫌なら嫌と、私ではなく王妃や王に言えばいいじゃない。

あぁもう、わからないわ、とりあえずここは笑って乗り切りましょう。


私は戸惑いながらも笑みを深めてみせる。

すると彼は呆気にとられた表情をみせたかと思うと、頬を赤く染め視線を逸らせた。

何だかよくわからない反応に動揺してしまう。

複雑ないえ、険悪なムードに気が付いたのだろうか……暫くすると、メイドが慌てた様子で私を席から立たせ出口へと案内し、その日の顔合わせは終わってしまった。


一体何だったのかしら……あぁ、何だか疲れたわ。

でもこれで王子からちゃんと話がいけば、この婚約話はなくなるでしょう。

王妃は王子の事を溺愛しているし、王も話がわからない人ではない。

だって二人は確か恋愛結婚だったはずだしね。


しかし私の予想とは裏腹に、数日後なぜか婚約が成立したとの文が届いた。

目を疑うような知らせに困惑する中、一ヶ月に一度彼へ会うように示唆される。

会う日付は王子が指定してくるらしい。

書かれたその内容に、文を折りたたむと、ズキズキする頭痛に頭を押さえた。


いえいえ、ちょっと待って、どうして婚約が成立してしまったのかしら?

あの態度に言葉……どう考えても納得していないのではないの?

彼なら断る権限もあるし、はっきりと政略結婚は嫌だと言えばいいだけじゃない。

あれだけはっきりと拒絶したのに、それを話していないの……?


うんうんと頭を悩ませてみるが、考えても考えても答えは出ない。

最近こういう事が多いわね、もう考えることが面倒だわ。

そう心の中で深いため息をつくと、母が嬉しそうに私の傍へとやってきた。

婚約を祝うそんな母の姿に、私は笑みを作ると、本音を悟られぬよう相槌を返していった。

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