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コウジマチサトルのダンジョン生活  作者: 森野熊三
第七話「コウジマチサトルは精霊と仲良くしたい」
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8・みんなも仲良くして欲しい

 蜜酒作りが滞りなく終わり、ルーは時間もあるのだしと、ここ数日の出来事をまとめることにするという。


「それでは、私は少し部屋にこもります」


「ああ、分かった。夕食の時間になったら呼ぶよ」


「はい! 楽しみにしていますね」


 今日の夕食については、サトルに一任されている。

 サトルがどんな料理をするかはわからないが、ルーはとても楽しみにしているようだった。


「あまり期待はしないでくれ、ここにはまだ来たばかりだから、君の口に合う物が作れる自信もない」


 これは謙遜ではなく、サトルは本気でそう思っていた。


 何せここの料理は何を食べても日本の物よりも癖が強い。


 覚えがある料理と重ねると、アメリカの一部の都市で口にした物全部が強い香辛料味だった時や、トルコでの食べ物がどれも美味しくはあったが、濃い甘味とたっぷりのナッツで食べた後に胃にダメージがあったことなどが似ていた。

 

 日本ではなかなかにあり得ない強い油と砂糖と慣れないハーブや調味料、それが原因であることは間違いなく、サトルは長期旅行をするなら、日本食がある程度浸透している場所にするしかないと、何度か後悔をしたものだった。


 うどんの汎用性と優しが心に浸みた旅行は何度もあった。


 あの時ほどではないが、この世界の食べ物はサトルにとってはじわじわとダメージの蓄積するボディーブローのようだった。

 身体のダメージを治療されても、精神的な疲れは取れない。

 その精神的なダメージを取るためにも、サトルは今日こそは自分で料理をしようと思っていた。


 サトルの知る所の現代のインフラ、電気ガス水道に相当する物は、テカちゃんや契約した精霊たちの力で賄うことが出来る。

 水の分量調整も、火力の調整も、精霊たちのおかげで苦もない。


「魔法って便利だよな……こんなものが有ったら……化学の技術なんて発展しそうにないよな」


 サトルは一人、あてがわれた自室で考える。

 今この部屋にはキンちゃんやギンちゃんすらいない、本当に一人きりだ。


 元はルーの兄弟弟子が使っていた部屋だというそこは、客間に負けず劣らず広々としていたが、飾り気がなく家具もベッドと机と椅子とソファ、それと鏡の付いたドレッサーのみで、妙に寒々しかった。

 大きな家具以外、ほぼすべての物を持ち出し出て行ってしまったという兄弟弟子は、どんな気持ちでここを去ったのだろうか。


 そして取り残されたルーは、どんな気持ちで一人きり、この屋敷にいたのだろうか。


 たった一人で部屋にこもっているだけで、心に隙間風が吹き込むような寂しさを感じる。

 まだ一時間も経っていなくてもこれなのだから、半年、それ以上の時間はとても長かったことだろう。


「ルーは本当一人でよく頑張ったよな」


 そんなルーが楽しみにしてくれてるというのだから、せめて夕食はできる限りの力を尽くそうとサトルは気合を入れる。


「よし、メニューは決まっているし、後は味について誰かに聞きながら作るか……誰がいいだろうか?」


 少し考えてからサトルはリビングへ向かう。

 人がいればいいが、いなかったらヒースに頼むつもりだった。


 リビングにはまだアンジェリカとカレンデュラがいた。

 にらみ合いこそしていないものの、お互いを意識しあっているのは張り詰めた空気からわかった。


 リビングは食卓として使う大テーブルのあるスペースと、暖炉があり床に直接座れるようにカーペットの敷いてあるスペースに分かれているが、それぞれがそのスペースに陣取って、リビングに入ってくる者を威圧しているかのようだ。


 しかし、苛立ちがあっても自分から場所を譲るわけでもなく、しかしやかましく物を言い合うでもないこの距離感に、サトルは思うところがあった。


「どうするべきか」


 サトルの呟きを拾い、アンジェリカがサトルへと顔を向ける。


「あら? 何をするつもりなのかしら?」


「夕食を作る準備をしたいんだが、どうしたらいいのかと思ってさ」


「手伝いがいるというの?」


 アンジェリカの耳が好奇心を持ってサトルに向けられる。機嫌が悪いという感じではなさそうだ。

 やはりそうかとサトルは確信する。


 二人の喧嘩はとっくに鎮火し、今は熾きがくすぶっているような状態なのだ。

 きっかけがあれば再燃する可能性もあるが、その熾きを綺麗に取り除いてやりさえすれば、すぐに良好な仲にもどることは可能な状態。

 大人の喧嘩はこじれると尾を引くことが多いが、ここが正念場。今サトルが上手く立ち回ることが出来れば、二人の仲は十分に修復できるだろう。


 が、それをする必要があるだろうかと、サトルは少しだけ考える。

 考えつつアンジェリカとカレンデュラそれぞれを見やる。


「いや、味見役をお願いしたい。まあ、作る量が量なんで、手伝ってもらえたら助かるけど」


「フフフ、だったら私が手伝って差し上げるわね」


 カレンデュラが、だったら自分がと立候補する。

 少し出遅れたアンジェリカが、しまったと、慌てて自分がやると手をあげる。


「大丈夫よカレンデュラ、サトルの仕事は私が手伝うわ」


 その言い方ではだめだと、アンジェリカの後ろでお兄ちゃん(仮)が顔をしかめる。この妖精、どうやらモンスターの精神を操ることが出来るだけあって、比較的人の心情にはさといようだ。

 サトルは大丈夫だとお兄ちゃん(仮)にアイコンタクトを送る。


「よかったら、二人にお願いしたいです。駄目かな? 本当に量が多いんだ。俺、ルー、オリーブ、アロエ、モリーユ、ヒース、ワームウッド、クレソン、バレリアン、マレイン、ルイボスさん、セイボリーさんと、あとモーさんもご飯食べたいみたいだから。二人の分も合わせて全部で十五人前、たぶん少し多めに食べるだろうことも考えて、二十人前よりも多く作った方が良さそうだし」


 二十人前と聞いて、二人も確かにそれなら人手がいるなと納得したようで、分かったと頷く。


「駄目ではないわ」


「ええ、問題ないわね」


「有難う。頼りにしているよ」


 頼りにしている、その一言で、二人はそれぞれに笑みを浮かべる。


「任せておいてくださるかしら、私これでも手先は器用なの」


「私もよ」


 カレンデュラが自信たっぷりに言えば、アンジェリカも負けていられないと頷く。


「よし、じゃあ二人には野菜のみじん切りをお願いしたいけど、出来る?」


 それくらい簡単だとカレンデュラ。アンジェリカは少し言葉を詰まらせる。


「できなくはないわ」


「みじん切りね……大丈夫よ!」


「それと、ひき肉を捏ねたりするんだけど」


 カレンデュラの頬がちょっとだけ引きつる。対してアンジェリカは自信満々だ。


「ん……それは少し苦手かも」


「私は大丈夫よ」


 苦手なことと得意なことに差があるようなので、張り合うより協力に持って行きやすいだろうと、それはよかったとサトルは次の質問をする。


「だったら、二人はベシャメルソースの作り方分かる?」


 サトルはもちろん作れるが、材料が十分にあるかがわからない。塩、バター、小麦粉、牛乳といった基本の材料は買ってきたのであると分かっている。

 胡椒の代わりになる香辛料のような物があるとは聞いているが、それがどれかがわからない。乾燥デイルの粉末でも十分対応できそうだが、他に良い物があるならと思って聞いてみた。


「知らないわね」


「ベシャメルソースって、小麦粉と牛乳のソースかしら? 作り方までは分からないわ」


 しかしカレンデュラもアンジェリカも作り方は知らないとのこと。そもそも台所に類する食事を作るための設備の無い場所に寝泊まりしている彼女たちが、料理を作るという事の方が珍しいだろう。


「じゃあどれが何に使う材料かはわかる?」


「……ヒースやワームウッドが詳しいわよ」


「マレインもね」


 二人はとても良い笑顔で丸投げ発言をする。


「分かった、じゃあ……ヒースとワームウッドにも助力を頼もう」


「そうね、それがいいと思うわ。餅は餅屋というのだし」


「私もカレンの意見に賛成よ」


 すっかり二人の意見が一致したところで、サトルはあきれとも安堵も付かないため息を吐く。

 とりあえず、この世界にも餅屋はあるんだな、という不思議な気持ちを胸に抱き、サトルはヒースたちを呼びにサロンへ向かった。


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