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コウジマチサトルのダンジョン生活  作者: 森野熊三
第四話「コウジマチサトル衝撃の出会いをする」
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7.5・ルーとアンジェリカ

読み飛ばし可。

 話を聞こうと、そう言ってボスはサトルたちを執務室に呼んだはずなのに、何故かルーとアンジェリカの二人を残し、ボスはサトルだけを連れて別部屋の会議室へと行ってしまった。


 残された二人は手持ち無沙汰に待つばかり。

 結構時間が経ったなとルーが言えば、そこまで経ってはいないとアンジェリカが返す。


「私には……時間が経ったような気がします」


 そう言ってルーは部屋の外へ。会議室前の廊下の壁に背を預け、サトルが出てくるのを待った。


「サトルのことが心配なのね」


「はい」


 ルーは壁に背を付け、そのままずるずると座り込む。

 立てた膝に額を押し付け、ぐすんと鼻を鳴らす。


 出会ったばかりの人。他人。相手はヒュムス。なのに、命を懸けて二度も三度もルーを助けようとした。

 下心があるようにも見えない。自称紳士を名乗るだけあって無理やり女に手を出す様子もない。きっと興味がないだけと思った。けれどそれも違った。


 サトルのことがよくわからない。

 ルーは膝に大きなため息を吐きかける。


「あの人……自分を大事にしない人なんですよう」


「ああ……貴方と一緒ね」


 ふふふと笑って、アンジェリカはしゃがみ込んだルーの頭を撫でた。

 先ほど外でサトルにだけは言われたくないと怒ったルーの心情は、その言葉に現れている通りだろう。

 自分も人の事を言えないくせに、心配もさせてくれないくせにと、ルーはサトルに対して拗ねた感情を持っていた。


「そういえば、さっきの……下でのことなんだけど」


「はい?」


 ルーは顔を上げアンジェリカの言葉を聞く。


「貴方が男性にあんなことを聞くなんて、すごく珍しい」


 ルーは瞳孔を大きく開き、パクリと口を空回りさせた後、視線を逸らして誤魔化すように返す。


「そうですか? そんなこと」


「ルーが今まで男性に、好みなんて聞いたことあったかしら?」


 そう聞かれると、異性の好みなんてパトロンを繋ぎ止めるために服装を変える以外気にした事の無かったルーとしては、反論しようもない。

 ルーは自分の容姿が良い自覚があった。それ故の多少のうぬぼれもあった。だから他人が自分の何を評価しようが、気にしていなかった。


 気にしていなかったはずなのだ。


「彼の事、そんなに気に入ってるの?」


 アンジェリカの問いに、分からないとルーは首を振る。

 サトルを篭絡したい理由は、実はかなりの下心を含んでいるはずなのだ。

 なのに、先ほどルーがサトルに尋ねた言葉は、無意識の嫉妬から出た物だった。


「じつはあ……昨日なんですよ、サトルさん拾ったの」


「そうなの? でもそれでその態度は」


 出会ったばかりにしてはサトルに執着をしているようだとアンジェリカが指摘すれば、だってとルーは返す。


「好きとかじゃないと思うんですけど、なんだか悔しいんですよ。だってですね、サトルさん、私に興味がないみたいで……ロックハウンドに追いかけられ時くらいしか触らないっていうか、すごく避けられてて」


 こぼれてくる感情のまま愚痴を吐き散らかしていたのだが、アンジェリカがそれに待ったをかける。


「ちょっと待ちなさいな、ロックハウンド? 正気なの?」


 くわっと目を剥いてルーを睨みつけるアンジェリカ。ルーが逃げ出さないように、頭を両手でつかみ押さえつける。

 もしサトルがこの場にいたならば、アンジェリカの後ろで少し困ったように助けを探すお兄ちゃん(仮)の姿が見えていただろう。


「あいえ、あの……グラスドッグだったかなあ」


 ルーはあわてて誤魔化すも、その目は激しく泳ぎ定まらない。


「全然違う。平野に出るような奴じゃないし、ルーが一人でどうにかなるような相手でもない。まして、彼は素手よね? それどころか靴すら履いていないわ」


 ルーがどうにかできる相手でもなければ、サトルがどうこうできるようにも見えないと、アンジェリカは厳しくルーを追求する。


 しかし、ロックハウンドを倒した話をするならば、キンちゃんたち謎の妖精の話も一緒にしなくてはいけない。ルーにはまだそれをアンジェリカに話すつもりはなく、必死でごまかす方法を探す。


「何があったのか、後できっちりと話して頂戴」


 けれどアンジェリカの方がそれを許すつもりはないようで、どうしても教えなさいと迫るアンジェリカに、ルーは誤魔化すのを諦める。


「だ、駄目です、それは駄目! アンには言っちゃいけない事なんです! 私とサトルさんだけの秘密なんです!」


 あまりに激しく迫られて、ついにルーは泣き出してしまう。

 ひんひんとしゃくりあげながら泣き出してしまったルーを見て、アンジェリカはルーの頭から手を離した。


 泣かせるつもりはなかったのだ。けれど、何度忠告しようと叱ろうと、自分の身を顧みず危険に飛び込んで行ってしまうルーが、アンジェリカはどうしても許せなかった。


「分かった、ごめんなさい……今は聞かない。でも、ねえ、ルー……私貴方の事本当の妹のように思ってるのよ」


 小さな体でルーを抱きしめ、アンジェリカはルーに謝罪する。それでも責めるような言葉が出てしまうのは、アンジェリカ自身が感じている、自分への不甲斐なさ、その苛立ちの表れだった。


 自分を抱きしめるアンジェリカの手が震えていることに気が付き、ルーはしゃくりあげながらも、アンジェリカの腕を握り返す。


「私だってアンが大好きです。お姉ちゃんだと思ってます」


 どんな失敗をしようと、わがままを貫き通そうと、アンジェリカは何時だってルーの事を叱り、諭して、見放さない。

 それがどんなにありがたい事か、師を亡くし、離れていく人たちがいることを知って分かった。

 だからルーはアンジェリカを無下にできない。


「だったら、たまには頼って頂戴な。私にも、貴方の秘密を共有させて頂戴、私の可愛いルー」


「……努力します」


「ああもう、本当に馬鹿な子」


 どうしても折り合いの付かない二人の感情は、結局今日も決着がつかないまま、冷たい夜の空気とともに廊下の隅にわだかまる。

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