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コウジマチサトルのダンジョン生活  作者: 森野熊三
第四話「コウジマチサトル衝撃の出会いをする」
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4・夜が来て

 オリーブはサトルを「うちのボス」に合わせた方がいいと言った。

 冒険者の互助会のボスという意味であるなら、サトルはルーはそれを拒否するだろうと思っていたのだが、意外なことにルーははっきりとうなずいた。


「そうですね。私もそれを考えていました」


 ルーの言葉に、それだったらとアンジェリカが手を上げる。


「私がアポを取ってあげる。この子を見てくれたお礼」


「お願いします! アンが一緒に行ってくれるなら安心です」


 先ほどまでの押されに押されていたのが嘘だったかのように、ルーは笑顔でアンジェリカのあげた掌に自分の手を合わせ握りしめる。


「今からでもいいかしら? ボスだったらまだ会所に残ってると思から、すぐにでも会わせたいわ」


「そうですね、その方がいいのかも」

 あれよあれよと予定が決まっているようだが、辺りはもう薄暗いどころではなく、明かりが無くては足元がおぼつかないのではという暗さ。

 電気の無い場所でこの状態で仕事をするなど、ワーカホリックくらいではないだろうか。


 海外旅行あるあるだが、大衆向けレストランの閉まる時間が早すぎる。二十四時間営業などレア店舗滅多に見る物ではない。ましてやこんな時間まで接客業でもない仕事をする意味など、と言った態度の人間も多い。

 サトルはここもそうだと思っていたのだが、案外そういうわけでもないのかもしれない。


 電気があってさえそうなのに、電気以上に燃料費が嵩むだろう火の明かりを使っていそうなこの世界で、夜間の明かりはどうしているのか。


 ほの明るいベストの内側を見ると、もしかしたら火や電機以外の明かりがある可能性もと思えてくる。


「なら私たちは銀の馬蹄で待っているとしよう。ルー、食事は奢ってあげるから、私たちにも話を」


「できる範囲でよければ」


「ああ構わないよ」


 サトルが明かりの不思議について考えているうちに、オリーブたちとは一度別れて、別の場所での待ち合わせと決まり、それでは行こうかと促される。


 城門には簡易の関所があったが、オリーブたちは顔パス、サトルに付いても、簡単な説明ですぐに通してもらえた。

 もう門を閉めるところだったから良かったよと、馴染みらしい門兵がルーへと声をかける。


「もしかして待っててくれたんですか。すみません。いつもお世話になってます」


「いいよ、ほら、今年の頭に薬を用立ててくれたろ? おかげでニッケも具合が良くてね。ルーたちにはこっちの方が世話になってるんだ」


 サトルにはわからない会話だったが、どうやらルーは人に好かれるだけの普段の行いがあるらしい。

 よくよく見れば、門兵の階級章なのか、ちょっと凝った金属のバッジが付いている。もしかして役職のある類の兵なのだろうか。


「職権乱用……けどまあ俺には関係ないか」


 城壁内に入ると、そこはよく見る旅行のパンフレットの写真とはまるで違った。

 暗い。

 建物という建物は陰になり、人のいる場所だけが命の所在を主張するように赤く燃えて見えた。


 建物は多くが二階か三階建て、規格は統一されていないようで、建物の窓の位置がバラバラで、平衡感覚に奇妙な歪みを感じた。


「ああ……ここは、俺の知らない町だ」


 当たり前なのだけど、それが無性に物悲しくて、サトルは視界を閉ざす。

 冷たくなってきた空気の匂いも、風の強さも音も違う。

 遠ざかっていくオリーブたちの足音も、ガチャリガチャリと金属の擦れる音が混じり、まるで知らない音だった。


 サトルは目を開き、すっかり夜の中に消えたオリーブたちの姿を探す。

 見つからない。

 暗い。

 電気の無い夜がこんなに暗いなんて……。


 思い出されるのは、自然の暴威が住み慣れた街を蹂躙した日の夜。

 あの頃は周りを見る余裕なんてまるでなくて、こんなにも暗かったのかどうかも思い出せない。


「サトルさん?」


 闇に怯えて立ち尽くすサトルを不審に思ってか、ルーが不安そうな声で名前を呼ぶ。


 サトルは感情を隠して誤魔化す言葉を探す。


「いい人たちだな」


 ルーが嬉しそうに「はい」と返事を返す。


「私はいい人に恵まれます。恵まれすぎてます」


「その分ルーは自分を大切にしないわ。恵まれていても、それでは台無しよ」


 しかしすぐにアンジェリカが釘をさす。

 その言葉に、サトルはそうだなとうなずく。


「う……そんなつもりはないのですが」


「つもりはなくてもそうだろ。付き合いの短い俺でも思うよ」


 何気なく言った言葉だったが、それだけは許せないとばかりに、ルーが声を張り上げた。


「それ! サトルさんにだけは絶対に言われたくないんですけど!」


 もうこれ以上はこの話題は止めようと、ルーは逃げるように歩き出す。

 まさかそこまで激しく怒られるとは思わず、サトルは驚き固まってしまう。


 いったい自分はどんな地雷を踏んで、ルーを爆発させてしまったのか。サトルは「何でだよ」と呻いて額を押さえた。


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