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コウジマチサトルのダンジョン生活  作者: 森野熊三
第三話「コウジマチサトルは竜とは戦えない」
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4・必死と決死の死闘と葛藤

動物に対する残酷な描写があります。

苦手な方はお気を付けください。

 飛び掛かってくるディンゴモドキ。幸いだったのはサトルの右手側に来たこと。利き手であればとっさの反応は早かった。


 いざという時考えると止まる。だからサトルはいざという時こそ考えなくても動けるように色々想像をしてきた。

 右から瓦礫が降ってきたら、とっさに持っている物を振り回せばいい。

 ヒーローに憧れる少年の妄想に近いようなそれが、まさか本当に役立つときが来るとは思っていなかった。


 熊ほどもあるディンゴモドキの体重に、サトルはあっという間に押されて転ぶが、右手側に棒を振り上げていたおかげで、牙や鉤爪までは届かない。半ばからへし折れる即席の棍棒。それでも腕よりはリーチが長いそれを杖のように使い体勢を立て直すと、すぐにディンゴモドキに向かって構えなおす。


 時間を稼いでどうなるかはわからない、しかし、もしこのモンスターが餌を求めて襲い掛かってきているというのなら、サトル一人で勘弁してもらえないかと思った。


「諦めたくはないけど……」


 守れないで生き残るのも辛い。


 ルーが逃げる時間を作るには、やはり一旦このディンゴモドキを、ルーのいる木から引き離す必要があるだろう。

 サトルは意を決して、木から距離を取るべく走り出す。


「行かないでサトルさん!」


 ディンゴモドキはすぐにそんなサトルの背に飛び掛かる。


「やっぱそうだよな」

 モンスターをハントする系アクションゲームや、ファンタシーでスターなオンラインゲームでもでもよくある、イヌ科のモンスターや飛び掛かってくる系モンスター特有の動きだ。


「まさか役に立つとは思わないよな、こんなの」


 何となく予想ができて、サトルはしゃがんでやり過ごす。

 どうやらまだ視力が完全ではないらしいディンゴモドキは、空振りの飛び掛かりに態勢崩す。地面が柔らかかったのも悪かったのか、滑るように前足を折っていた。


 ジャングルの猛獣と言ったら虎や豹のイメージがサトルにはあった。もしかしたら、この。ディンゴモドキはジャングルの生態系に則していないモンスターなのかもしれない。


「諦めるには早い、頑張れ俺」


 最近すっかりご無沙汰だったお一人様娯楽もたまにはいい物だ。

 いっそ笑い出したい気分になりながら、サトルはさらにルーから距離を開けようと立ち上がる。


 しかし、そんなサトルの頭上を越えて、ディンゴモドキに肉薄する者がいた。

 フォーンと勇ましく鳴く声。


「ギンちゃん!」


 小さな妖精の姿にサトルは思わず叫ぶ。

 サトルの声を聞いてか、ギンちゃんがわずかにサトルを振り返り微笑んだ。ギンちゃんはそのままディンゴモドキの背中に張り付く。

 サトルは「さよなら、天さん」という幻聴が聞いた気がした。


「そんな自爆攻撃とか駄目だろ!」


 しかし爆発は起きず、代わりに何とも言えない異臭が立ち上る。


「グギャアアアアアア!」


 いったい何が起きたのか、ディンゴモドキが突然もんどりうって地面を転がる。

 よくわからなかったが、ギンちゃんが何かをしたのだという直感に従い、サトルは手にしていた折れた棒を突き出した。


「でやあああああ!」


 のたうち回るディンゴモドキは、腰の入っていない突き程度ではどうにもならず、あっさり折れた棒は弾き飛ばされてしまう。

 それどころか、その動きでディンゴモドキはすぐにサトルの居場所が分かってしまったようで、激しくグルグルと唸りながら、サトルに向かって前足を叩きつけてきた。


「っ……」


 距離を取ろうと飛びのくが、もうディンゴモドキは体勢を立て直しつつある。

 左右は低いとはいえ板根の壁と大きな南国の植物が邪魔して通れない。逃げることのできる場所は、先ほど距離を開けたばかりのルーのいる木の方向。


「くそ、くそ……何かないか、何か……」


 ルーの木の傍まで駆け戻るしかない。それは仕方ないとしても、何か他に使える道具は無いかとサトルは視線を巡らせる。


「テカちゃん、光を上から、今よりちょっと強めに。周囲を見たい」


 テカちゃんがサトルの言葉に答え、高い位置から広範囲を照らす。


 ディンゴモドキの背には、どうやらまだギンちゃんが張り付いているらしい。

 しかも気のせいでなければ、ギンちゃんが張り付いている場所からその周辺の毛が……。


「毛が……剥げてる」


 何となく、サトルは言って後悔する。

 ここ最近ちょっと髪が細くなったとか、伸びにくくなったとか感じてはいたが、抜けるまでは至っていないので、そんなに気にしていなかったと思ったのだが、口にしたとたんなぜかどっと心に浸みた。


「いや今はそれどころじゃなくて……」


 よくよく見れば毛が剥げているというよりも、皮膚が爛れて、体毛事剥がれかけているように見える。

 直視して後悔するが、それでも必要な情報が得られた。


 サトルはルーのいる木の下に走り込み、ディンゴモドキを誘うように声を上げる。


「デカブツ! こっちだ! ルー、火の用意をしててくれ」


 ついでにルーへの指示をしながら、ディンゴモドキとの距離を測る。


「え、でも」


「いいから、俺を信じてほしい」


「わ、分かりました」


 グルグルという唸りから、すっかり怒りの方向に変わったディンゴモドキの咆哮。

 それでもすぐには飛び掛かってくる事は無い。一度は木の棒で引っ掛けられ、二度目は交わされ、流石に学習しているらしい。

 ならばもっと距離を取るだけど、サトルはディンゴモドキから見て、ルーのいる木の陰に隠れるようにしながら、更に逃げた。


 ディンゴモドキがサトルを追いかけようと距離を詰め、木の枝の影に入った。


「ルー! 出来るならあいつの毛皮か傷口に火をかけてくれ! すぐに! ギンちゃんはそいつから離れて!」


 返事はすぐに行動で返される。

 樹上からルーの声が朗々と響く。


「赤の力よ我との約束を示せ!」


 ルーがすぐに使える火は拳大くらいの火種を生むことだけ。しかしその火種は魔法を使って起こしただけあって、可燃物に付着すると、ただの火種よりもしっかりと燃え移り、しかも火の持ちがいい。

 指向性を持たせて打ち出す、という芸当はできないので、攻撃には使えないとルーは言っていたが。

 ディンゴモドキの背にルーの産みだした火種が落ちる。


「ギギャアア! グガ、ガア!」


 皮膚を剥がされた場所に直接火種が落ちてきたのだ、その激痛たるや想像に難くない。

 痛みに悲鳴を上げるように叫びのたうつ。皮脂の絡んだ体毛に燃え移り簡単には消えない火種を、地面を転がり消し止めようとするディンゴモドキ。

 その姿を見ていることが出来ず、サトルはたまらず目を逸らした。

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