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コウジマチサトルのダンジョン生活  作者: 森野熊三
第三話「コウジマチサトルは竜とは戦えない」
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2・後悔と逃避と叱咤と鼓舞と

具体的な描写はほぼほぼ有りませんが、主人公が災害について言及しています。

災害に対するストレスの許容値が低い方は、お気を付けください。

 歩けど歩けど、迷路のようなジャングル。

 それでも目的の光はだいぶ近付いてきたように感じる。


「壁が遠く感じる」


 暗さのせいで距離感がつかめないのもあるが、暗闇への不安が二人の足を臆病にさせ、速度を落とさせていた。


「……こんなに暗い状態のダンジョンって、初めて見ました」


 進みが一向に早くならないことを謝りつつルーが言う。


「シュガースケイルがいない状態のホールっていうのも、初めて見たんです」


「だろうな」


 見たことがあるのならもっと早く気が付いていただろう。

 話に聞くのと目にすることの違いは、サトルにはよくわかっていた。

 特に自分の身に降りかかる危険は、一度経験しておかないと対処できる、出来ないに大きな差が出る。


「すみません、ごめんなさい……本当は私が気が付くべきだったのに」


 本当に自罰的が過ぎる。自分の言葉選びが悪かったかと、サトルの方が申し訳なく思えてくるほどだ。

 こういう自罰的になってしまう手合いは面倒なだ。


「でも放っておけない俺も大概だ」


 足の止まったルーの手を掴み引く。


「いいよ、知識として教えてもらっていたから、俺はとっさに動けた」


 のろのろと歩みを再開するルー。


「ルーは実戦経験が少ないみたいだし、だったらその知識の使い方を知らなくても仕方ない」


「その言い方だと、何か実戦経験があるって言われてるみたいです」


「無いよ……実践なんて何もしてない」


 今度はサトルの足が止まる。

 実を言えば、サトルが何かから落ちるのは、今日が初めてではない。


「サトルさん?」


「災害に遭ったことある?」


 振り返らずにサトルは問う。


「どのような?」


「地震とか、水害とか……とてつもなく恐ろしいものが、人間の考えや血から何て悠々と超えて、なだれ込んでくるような……」


「有りません……というか、分かりません」


 困惑した返事に、サトルは小さく笑って足を動かす。


「俺はそういう災害の現場を見てる。見てきてる。それだけ」


 見てきただけ、助けてくれたのは他の人。

 見て、見て、見て、目に焼き付けて、考えるのではなくそれを真似した。

 動かなくては動けなくなってしまうから、考えることを放棄した。


「何も実践できてないし、誰も助けきれてない」


 あれは逃避だったなと今なら思う。

 逃げ癖が付いた気がする。

 旅行と称して、嫌なことから逃げる癖が付いた。

 考えることを諦めて、目の前にある事だけをやるようにした。

 立ち向かうのが怖くて、いやだいやだと目を背けた。


 すべてに、いざという時のために力を温存していると言い訳をして。


「そういうお仕事を?」


「どうだろうね」


 ルーが言葉を探すように黙り込む。


「紳士じゃない……」


 はっきり説明もせず、答えも与えず、ろくでもない質問をして、自分の心情を察してもらおうとして、意気地も無ければプライドもない態度をとってしまった。

 恥じ入る様にサトルはうつむく。


 サトルの頭上で、ギンちゃんがフォンフォンと怒ったように鳴いた。


「叱咤してくれてるみたいだ」


「してくれてるんだと思います」


 ありがとうの代わりに頭上に手を伸ばせば、ギンちゃんはフォーンと嬉しそうに高く鳴いた。


「それは、もっと頑張れ? でしょうか?」


 ギンちゃんの高い声は聞こえているのか、ルーが言う。


「もう頑張ってると思うんだけど。けどギンちゃんが言うなら仕方ない。君達のために頑張るよ」


 自分だけで動けないから、今しばらくは、自分を頼ってくれるこの子たちに頼りたかった。


 壁際に出るまでもう少しだ。

 木の根が張れないからか、壁際にはあまり大きな木が無く、板根の迷路ももう背が低く終わりが目前なのを感じさせた。


「ようやく……上の階に行ける道を探せそうだ」


「あるといいんですけど」


 ハッとしたようにルーは言う。


「降りられるのに登れないってのは、困るよなあ」


「ですね」


 安堵が勝れば口も軽くなる。ルーの声にも気力が戻ってきていた。


「それにしても……何でダンジョンは急に、中身を組み替えるようになったんだろうな。理由があるんだろうか? 周期的な物? それとも誰かこっそりダンジョンのルールを無視してる奴がいるとか?」


「ダンジョンのルールを無視している冒険者がいないか、それについてはガランガルダンジョン下町でも厳しく調べていたのですが、いまだに見つかっておらず、ここ数年続いていること、過去に事例の記録が無いことから、まだ理由は分かっていません」


 ここぞとばかりに説明をし、だから調査をする必要があるんですよと、得意げなルー。


 人間の町で調査をして分からないのなら、問題はダンジョンの方にあるのではないか、と考えているのだろう。だったら聞くべき相手は人間ではないのかもしれない。


「キンちゃんたちは知っている?」


 ダメもとのつもりでサトルが尋ねると、キンちゃんはフォンと鳴いて答えた。


「私ガイナクナリ、ダンジョンノ調和ハ崩レタ」


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