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コウジマチサトルのダンジョン生活  作者: 森野熊三
第三話「コウジマチサトルは竜とは戦えない」
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1・迷宮と牢獄

 天井を見れば自分たちがいる場所の相関はなんとなくわかった。

 光が滲むように漏れてきている場所がある。上部のフロアは全てのテカちゃんの仲間が逃げたわけではなかったので、今サトルたちがいる階層より明るかった。

 滲む光は、今サトルたちがいるフロアの端。すぐそばに壁があるのだろうことが分かった。壁沿いに進めば、上部へ上る通路や階段を見つけることが出来るかもしれない。


「歩ける?」


「問題なく」


 その気づかいに、むしろ靴を履いていないサトルの方が大丈夫ではないのではと、ルーは苦笑する。


 滲む光の真下を目指し、テカちゃんに先導してもらいながら二人は歩く。

 元気づけようとしてくれているのだろう、キンちゃんもギンちゃんもフォンフォンと優しい声で鳴いている。


「あんな風に動くんだな」


 それが何かを明確にはしなかったが、サトルの言葉にルーもすぐに同意を返す。


「私も見るのは初めてでした」


 人の話は聞いていたがと、ルーも声を低くし答える。

 自分の師の命を奪う結果となったダンジョンの組み変わり、それをまさか自分も体験すると思っていなかったのだろう、ルーはぶるりと身を震わせる。

 足が止まりそうになるルーの手を、サトルが掴んだ。


「ダンジョンは階層があるだよな?」


 今は動くのが先決。

 思考を続けることは問題ないが、それで足が止まってしまってはいけない。

 サトルはルーの足が止まらないように、嫌なことを思い出さない話題をふる。


「はい」


「ここは階層一つ下、ってことかな?」


「かもしれません」


 落下中の体感だけではどのように落ちてきたのかはわからない。だが、天井の光や状況から考えても、サトルたちが落ちたのは一階層分だけだと思われた。


「木の根が邪魔だな……」


 歩いていて気が付いたのだが、 薄暗い状態では、板根化した木の根のせいで、フロア全体が天然の迷路になっているようだった。


 行きたい場所は分かるのに、直線で進むことが出来ず、サトルは何度も足を止めてしまう。


「くそ……」


「壁沿いに出られれば、少しは……」


 ルーの励ましを信じて壁へと向かうが、いくらも行かないうちにまた木の根にぶつかる。


「地下迷宮とはよく言った物だ」


「地下迷宮?」


「ダンジョンの事、俺たちの国ではそう言うけど」


 サトルの呟きを拾い、ルーが不思議そうに首をかしげる。


「そうなのですか。確かにダンジョンは地下の作られた空間を指す言葉ですが、ここでは地下室、地下牢の意味で使われますよ」


「地下牢?」


 馴染みはないが意味は分かるその言葉に、今度はサトルが首をかしげる。

 牢と言うからには何かを閉じ込めているのかもしれないが、こんなジャングルに一体何を閉じ込めるというのだろうか。


 ダンジョンの説明については任せろと、ルーの目がきらりと輝く。


「はい、ダンジョンには必ず一匹、ないし数匹の、世界を亡ぼす獣が、世界を作った神によって、罪人として囚われている、という伝説から来た名前です」


 ダンジョン、獣、迷宮、牢、神様、といくつかの単語が頭の中で組み合わさり、サトルはそういう事かと思い当たる。


「そっか……そういやダンジョンにつきもののミノタウロスも」


 ギリシャ神話のダンジョンの代名詞、ミノスの地下迷宮に閉じ込められていた牛頭のモンスター、ミノタウロス。神様への供物を横領した愚かな王様のせいで産まれた哀れな化け物を閉じ込める場所が、まさしくダンジョン、地下迷宮だった。


 キンちゃんがフォーンと鳴いた。それは肯定か否定か、今一つはっきりしない鳴き声。

 ただダンジョンという言葉に翻訳してくれているのが、キンちゃんの力だとするのなら、キンちゃんはダンジョンを地下迷宮ではなく、地下牢として考えている可能性も有った。

 サトルはギンちゃんにも聞いてみようかと視線を向けると、ギンちゃんは言いたくないとばかりに、サトルの視界から逃げて頭上に。

 サトルの髪に潜り込んだ。


 仕方ないのでルーに話を振る。


「……ここにもそういう世界を亡ぼす獣が?」


「そう言われていますけど……伝説というよりも、ほとんどおとぎ話ですね。子供のしつけに使う、悪いことをすると攫いに来るモンスター的な」


 キンちゃんがまたもフォーンと鳴いた。今度は先ほどよりも強く。

 キンちゃんはルーに触れようと手を伸ばすが、それをサトルの髪から飛び出したギンちゃんが遮る。どうやら二匹の間で、ここが地下牢であることを人間に話すべきかどうか、判断に差があるらしい。


 キンちゃんの意見を汲むべきか、ギンちゃんの意見を汲むべきか、サトルは少し考え、話をごまかすことにした。


「ああ、いるいる、俺の国にも、なまはげとかいたし」


「なまはげ?」


 聞いた事の無い言葉に首をかしげるルー。


「ぐうたらしてると生皮剥がしに来る鬼」


「攫うより怖くないですか?」


「怖いけど、そういうもんなんだよ。人間を見張ってる、鬼でありながら神様だな」


 日本人の宗教観に、怠け者を許さない神様というのはけっこう多い。

 元来農耕民族なので、働かないと食べていけないからだろうとか、のちに入ってきた仏教の地獄という考え方自体が、怠け者を許さないからなども言われている。

 幸福や富をもたらす座敷童も、怠け者には手厳しい。


「そんな神様いやですよ!」


 サトルの説明にルーはショックを受けたように足を止める。

 いきなり皮をはぎに来るというのは確かに神様よりもモンスターっぽい。いやだと言われても仕方がないだろう。


 キンちゃんやギンちゃんは、なまはげの話を特に気にしてはいないようだが、テカちゃんは少しソワソワとサトルたちを振り返っては、話を聞きたそうにしている。

 たぶん自分は怠け者じゃないよと訴えてるのかもしれない。けなげな妖精だ。


「サトルさんの国の宗教って、おかしくないですか?」


「そうか?」


「そうですよ!」


「まあ……他所から見ればそんなもんか」


 力強く否定される。怠け者を罰しに来る神や精霊というのは割とどのような宗教にも見られる。一神教でも大罪とされるものの一つは「怠惰」だ。


 後で神や悪魔の概念を聞いて、認識をすり合わせておいた方がいいかもしれないと、サトルはルーに隠れてため息を吐く。

 他所の世界からやってきた存在が、=で悪魔に結び付く宗教感だったら、目も当てられない。


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