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コウジマチサトルのダンジョン生活  作者: 森野熊三
第二話「コウジマチサトルダンジョンに落ちる」
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11・崩落

 度胸が付いたというのなら、是非見せてもらおうとルーがなぜか得意満面に言った。


「それじゃあ、さっそくシュガースケイルを探しましょう」


「あ、その顔は自分の得意分野だからか。俺が見つけられないと思ってるな」


「ふふふふ、さてどうでしょう」


 元からそのつもりだったのだし、特に張り合うつもりはなかったが、ちょっと楽しくなってきてるらしいルーに当てられ、だったらその勝負受けて立とうと、サトルもやる気を出す。

 キンちゃんとギンちゃんもやはりやる気満々にフォーンと返事をし、テカちゃんも付き合うようにキュムーンと鳴いた。


 サトルは普通にカタツムリを探すようなつもりで、足元付近に視線を落とす。

 ルー以外の人間は知らない場所だけあって、誰も踏み入れた事の無いかのような、柔らかな腐葉土だ。

 地面が浅いのか、板根化した木の根が大きく張り出してるところも多く、中には人の背丈ほどもある根があり、視界はあまりよくない。


 行動自体は、靴下が濡れて気持ち悪いことと、腐葉土を踏むと妙に甘い匂いが立ち上る以外は、特に問題は無さそうだった。


「シュガースケイルって……どういう所にいる?」


 いざ探そうとしても、意外と見つからない物である。


「岩場の隙間とか、葉っぱの裏ですね。たまに普通に壁を這っていたりします」


 ルーは案外と簡単に教えてくれた。


「岩場があるんだ? 生息してる場所はまんまカタツムリっぽいな」


 陸上の貝ならば、乾燥を避けるために隠れた場所にいるだろうとは思っていたが、やはりあまりカタツムリと変わらないらしい。


「彼方に、ダンジョンに取り込まれても、無機物はダンジョン石にならないようで、そのままダンジョン内に取り残されてることも多いです。あと、同じ成分が生成されたような状態で、ダンジョン石の中に埋まってることもたまにありますね」


 ルーが示した岩場という場所は、確かに岩がごろごろと転がっていた。

 周辺がジャングルなのにその一角だけ石が詰みあがった様は、何かの遺跡のようにも見える。


「この中にも鉱物あるのかな?」


「あるとは思うのですが、流石にこれを一人で持ち帰って調べることが難しいんですよね……」


「なるほど、じゃあ……下手に色気は出さないで、シュガースケイルだけ探すか」


 カタツムリならばいる場所は分かる。

 感想を避けるために、光に直接当たらない木の裏や木の根元、腐葉土に潜っているかもしれない。


 探すついでに使える道具がないかも見る。おあつらえ向きの木の棒があった。

 野犬のようなモンスターと戦った時に使っていたのよりも短いが、太さは申し分のない棒だ。

 棒を使って腐葉土をかき分ける。掘っても掘っても腐葉土ばかり。どれだけ掘ってもきりがない。


 棒の先にこつんと硬い何かが当たったと思ったら、それはシュガースケイルではなく石だった。

 メノウのような模様が付いている石で、これくらいならば持ち帰れるかもと、サトルは拳に握りこめる程度のその石を拾い、ベストのポケットにしまった。


「にしても……いないな」


 探す場所が悪いのだろうか、シュガースケイルは全く姿を見せない。


「おかしいですね」


 ルーとしてもこのような状況は想定していなかったのか、首をかしげながら大きな葉を返して裏を見る。


「うーん……いつもだったらこのフロアには、捜すまでもなく」


 いつもと違うのなら何かがある。

 ある日鳥の鳴き声が全く聞こえなくなった瞬間をサトルは知っている。


 あの時のゾッとする程冷たい空気を思い出し、サトルは叫んだ。


「逃げよう!」


 そう決めた時には、サトルはもうルーの手を掴んでいた。

 女性として扱う以上、滅多なことでは接触をするまいとしていた相手の手を、相手を傷つけるかもしれないなんてことも気にせず、力任せに引っ張って走りだす。

 向かう先は階段。サトルはルーを引いて階段室へととびこんだ。

 数段を一気に駆け上がる。


 しかし、ダンジョンのはじまりは、フロアではなく階段の途中から。


「うわっ!」


 なお上ろうとした階段が、サトルの足を支えきれずにぼろりと崩れた。

 足裏にの感じるダンジョン石の感触が、腐木のような脆さになっていた。

 うっかり体重をかけ間違えると足もとが崩れて滑り落ちる。サトルは体を支えようと壁に縋りつく。


 腕が痛むほどの重みを感じ、サトルの手が滑た。握っていたルーの手が離れる。

 残った壁に縋りながら下を見れば、いつの間にか傾いだ床にルーが倒れていた。


「ルー!」


 声をかける間にも、床の傾斜はどんどんときつくなっていく。

 これが動かぬ壁ならばまだ何とかなったかもしれないが、床は小刻みに揺れながらどんどんと傾斜を増している。

 ルーとサトルの距離は二メートル程か。小刻みに揺れる傾斜のきつい床は、ルーが普通の人間の人間と変わらない握力ならば、一人で登れる状態ではない。


「サトルさん行って! 私なら大丈夫です!」


 ルーは自分を置いて逃げろとサトルに向かい叫ぶ。


 不意に視界が薄暗く陰った。見上げれば、天井を覆っていた輝きが、波が引くように消えていく。

 テカちゃんの仲間たちが逃げ出しているのだ。


 天井から延びるドームを支える柱に変化はない。どうやら床が崩れているのは、この階段付近だけらしい。


「女置いて逃げるとか、紳士じゃない!」


 サトルは縋る壁から手を離し、ルーの傍へと滑り降りる。


「テカちゃん! キンちゃんギンちゃん! 最大出力で光ってくれ! 俺の力ならどれだけでも持って行っていいから!」


 テカちゃんたちがサトルにしがみつき、輝きを増す。

 傾いだ床の向こうは、少しきつい傾斜ではあるが、崩れつつあるフロアの奥へと這い上がることが出来そうだった。


「奥に行くぞ!」


「はい!」


 階段に縋りつくことが出来ない以上、こうなったら安全な、まだ崩れていない床の上に避難をするしかない。

 しかし二人の思惑は裏切られる。


 二人を乗せた床が、溶けたスライスチーズのようにゆっくりと下にくぼみ始めたのだ。


「なん……」


 皆まで言い終えるよりも先に、薄くなった床に穴が開き、二人は空中へと放り出されていた。


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