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コウジマチサトルのダンジョン生活  作者: 森野熊三
第二話「コウジマチサトルダンジョンに落ちる」
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7・キンちゃんとナニか

祠の中に入ってみると、そこは意外に快適な空間だった。


 外見は何の飾り気もない石の建物だったが、中は化粧石のような白く滑らかな石材で飾られていた。

 あまりにも飾り気のない白い壁は、不思議と現代的に見えた。

 何故か足下は飾り石の白い通路以外を、一面緑の草が覆っている。


 祠の奥には、いかにもと言った感じのかまぼこ型の通路、その奥に湾曲して地下へと降のびる階段。

 材質は平原で遠目に見た城壁と似たような、黄色味を帯びた白っぽい灰色の石。


 昔本で見たイタリア、ローマ近郊のカタコンベへの入り口を、もう少し広くしたような印象を受けた。


 ドーム型の屋根の四方に、空気を取り入れるための窓のような物があり、空気も思っていたような黴臭さはなく、むしろ瑞々しい春の芽生えの匂いすらした。


「明るい」


 何より驚いたのが、天井が真昼のように明るく輝いていたこと。


「ヒカリゴケのような物が生えてる?」


 天井を直視するとLEDライト以上にまぶしかったが、天井に生えた苔は四方の壁にも薄く生えてているようだったので、サトルはそちらの方を観察する。


「とは違うようです。この苔には太陽の光に似た性質があり、ほのかに熱を持ち、これがダンジョン内で植物が育つ理由だと考えられています」


 そう言ってルーは通路を降り、草をかき分け壁へと向かうと、ためらいなく光る苔に触れた。

 どうやら危険性はないらしいと、サトルも真似して通路から降りる。靴下越しに柔らかい草を踏む感触が、ちょっと気持ち良い。

 苔に触れてみると、確かにそれは熱を持っていた。

 

「温かい」


 というか、若干熱い。

 春先の冷える夕方の空気に、たまらず飛び込んだコンビニのホットドリンクを思い出す熱量。


「また中途半端な感じだな……でもこれが多いと、暑くなりそう」


 実際に祠の中は、外気よりもやや暖かく感じるくらいだ。


 さすがに異世界だなと、サトルは面白い物を見るように、じっくりと祠の中を観察する。

 さすがにこの辺りにはシュガースケイルはいないらしい。となると、奥の階段下にあるだろうダンジョン内に、目的の貝はいるのだろう。


「人生初めてのダンジョンが、甘い物探しって結構俺っぽいと思うんだ」


「そうなんですか?」


「美味しい物は人生の伴侶だよ」


 しみじみと語るサトルに、ルーは困ったように返す。


「本物の伴侶見つけた方がいいですよ」


 サトルはその言葉を聞かなかったことにして、もう一度苔を観察する。


 この苔があれば夜でも本が読めそうだなと考え、持って帰れるか試そうとサトルは苔に指を差し入れる。

 ブロック塀の上のギンゴケをむしり取る要領で掴んでみれば、思った通りあっさりと苔は剥がれた。しかし、とたんに苔は光を失う。


 代わりに、ふわりと苔から浮かび上がる者があった。


「あ……これ」


「ああ、その苔はダンジョンから持ち出そうとしても、剥がした途端ただの苔になってしまうんですよ」


 だから誰もわざわざ剥がして持ち帰ろうともしない、ダンジョンの外では役に立たないとルーは説明する。

 たった今苔から飛び出してきた存在は目に入っていないようだ。


「いや、そうじゃなくて、こいつ……なんかキンちゃんたちと違うのが」


 サトルは苔から飛び出してきた「(>v<)」の顔文字のような顔をした、たぶん妖精だろう存在を指さす。


 基本が頭部と体という雑なテルテル坊主なのはキンちゃんたちと同じだが、キンちゃんたちとは明らかに形状が違い、小さな角が三本に、体はそのまま苔がぶら下がっているように見える濃い緑。キンちゃんたちが薄く発光してるかどうかなのに対し、この妖精はけっこうはっきりと光っているのが分かった。


 サトルにだけ見えて自分に見えない何かがいるのかと、ルーの目が期待に輝く。


「もしかしてまた何か?」


 ルーに見えないのなら、やはりこれはキンちゃんたちの同類なのだろう。


「苔の中に、光を発する妖精みたいなのがいたってことか。これキンちゃんたちの仲間?」


 訊ねてみれば、フォーンと低く鳴くギンちゃん。

 たぶん否定なのだろう。


「違う?」


 キンちゃんの方にもう一度訪ねると、キンちゃんは一度聞いたことのある声で答えた。


「其レハ、我ラデハナク、彼ラデアル」


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