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コウジマチサトルのダンジョン生活  作者: 森野熊三
第二話「コウジマチサトルダンジョンに落ちる」
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6・キンちゃんとシュガースケイルの不思議

「面白いのは、普通の貝やカタツムリを、ダンジョン内で飼育しても糖で殻を作ることはないという事です。でもこのシュガースケイルだと、一回カルシウムの殻を作る様になっても、ダンジョンに戻すとまた糖で殻を作る様になります」


 つまり糖がどうしても必要というわけではないが、ダンジョン内では殻が糖になるという事。

 別にダンジョン内の植物に、特別糖が多いという事ではないのだろう。

 先ほどからサトルが食べているスープ、それに使われている、この周辺で採取したセロリのような香草は、普通に煮たセロリの味だ。


「ちなみに、このシュガースケイルの人工飼育は、ほんの数人で数時間だけダンジョン内にとどまってやる分には問題ないのですが、大人数、長時間でやると、ダンジョンに追い出されるそうです」


 だから生産はできるが、量産はできない。

 だからダンジョンの町だけの特産品なのだろう。


「シュガースケイルはダンジョンが変化をする際、その周囲から姿を消すと言われています。ですので、一部のダンジョン探索をされる、冒険者と名乗る方々の間では、シュガースケイルを見なくなったら、その場から全力で逃げろと言われています」


「そういうのって、鉱山でもよくある話だな。トカゲを見たらだったか、ノックをされたらだったか忘れたけど。でもさ、獲られれたらいなくならないか?」


 金になるならそれを獲る人間もいるはずだ。根こそぎ獲られれてしまったら、ダンジョンの変化の目安にならないのではとサトルが問えば、ルーは少しばかり嫌そうに首を振る。


「ダンジョンのワンフロア全てのシュガースケイルを捕獲するくらいだったら、もう少しレアリティや換金率の高い物を探しますよ、冒険者は。そのために冒険者なんて名乗って、ダンジョン探索してらっしゃるんですから」


 ルーは「欲張りなんですよ」と、恨めしそうにつぶやいて大きくため息を吐いた。

 冒険者という存在に、何かしら思うところがあるのかもしれない。


「なるほど、危険にあえて飛び込むのは、強欲だからと」


「ですです」


「けど、だったらなおさら不思議だな。何で変化するときにそこからいなくなるのか。シュガースケイルを見て基準にするってことは、人間には認識できない変化を感じ取れるのかな?」


「分かりません、分かりませんが、ダンジョンの変化に過敏ならば、何かしらダンジョンの性質関係があるはず」


 ダンジョンの変化に気が付く、という事は、ダンジョン内にいることを前提とした動物であることは間違いない。しかしダンジョン外でも生育でき、ダンジョンの中でのみわざわざ糖で殻を作る理由とは何だろうか。

 ルーも語っているうちに何か思い当たることがあったのか、並べた情報を反芻し、顔を険しくする。


「まるでキンちゃんたちの食事のためにあるようだ」


 サトルの呟きに、ルーも確かにと同意する。


 ダンジョンを変化させることのできる存在であるキンちゃん、そのキンちゃんが好んで捕食する貝、その貝はダンジョン内でのみ特別な素材で殻を作る。


「確かにあつらえたようにハマりますよね……ダンジョンには、ダンジョン内だけの食物連鎖のようなルールがあるのかも?」


 調べてみたいと言うルーに、もちろん協力するとサトルも乗り気だ。

 何よりキンちゃんたちの食事用に、自分でもシュガースケイルを獲っておきたいと思っていた。

 二人は、食事が終ったら一度、キンちゃんたちを連れて祠の中に入ってみることにした。


 二人の決定に、キンちゃんとギンちゃんは嬉しそうにフォンフォンと鳴いている。


「モンスターの腹割いてる時も思ったんだけど、もしかしてこの二匹って、物理的な攻撃力とか、物を動かす力ってないのかな」


 サトルの頭に乗ったり、ベチベチと叩いて来た時のギンちゃんも、まるで痛くなかった。

 二匹に質量が一切ないわけではないが、綿の入ったぬいぐるみ程度の重さしかない。


「かもしれませんね、先ほど手の甲に乗せた時も、少し暖かくて、わずかに押されるような感じがあるだけでした。祠の扉、自分で開けられないのかも」


 ルーの言葉を肯定するように、フォン! と強く鳴くキンちゃん。ギンちゃんは、そんなことはないんだからねと強がるように、フォフォフォンと小刻みに鳴いている。


「やっぱりこの二匹、性格違うなあ」


 この性格の違いに何かしら理由があるのか、それともただの個体差か。

 さすがにそこまでは調べる必要はないだろうかと、サトルは拗ねたギンちゃんを指先でつつきながら苦笑した。

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