3・キンちゃんと研究
ルーは語りたいことを語り終わると、一仕事したとでも言うように、額をぬぐう真似をする。
本当はもっと語りたいのだけど、これ以上は冗長になるのでとのこと。
すでに冗長だと言いたいところを、サトルはぐっと我慢する。
「というわけで、このダンジョンにはダンジョンを防衛する意思がある。その意思を遂行するための存在が、キンちゃんたちではないかと、私は考えたのです」
「なるほど」
サトルが頷くのに合わせて、キンちゃんもフォンフォンと頷いて見せる。ギンちゃんしらっとしているので、あまりルーの話を聞いていないのかもしれない。
確かに、キンちゃんたちならばサトルの感情に反応して対応を変えたり、思いやったり、時には叱ったりまでしてくれるので、人間がどんな目的でダンジョン内に侵入するかを観察することもできるだろう。
また、人間が所有している道具、放棄した道具、ただの死骸、観察のために置かれている死骸かどうかまで、キンちゃんたちはサトルとルーの反応を見て理解いしていたはずだ。
ダンジョンの意思と仮定している何かが、一個人の意思ではなく、こうしたキンちゃんたちのような無数の存在の意思だとしたら、人間がダンジョンに対して行うアプローチも変わるのかもしれない。
特にキンちゃんは人間にとても友好的だ。ギンちゃんもサトルに対してはとても親身になっている様子。
ダンジョンへとの意思疎通、もしそれが実現すれば、伝説のドラゴンを手名付けた青年と同じようなことが出来る世になるかもしれない。
ダンジョン研究が何のために有るのか、サトルもなんとなくわかってきた。
ダンジョンを利用するのが、バラバラの思惑を持った人間たちの、暗黙のルールと適当な情報交換によるものではなく、きちんとした情報と明文化されたルールによって行われれば、将来的に資源としてのダンジョンを枯渇させない、もしくは拒まれないように長く利用できるかもしれないという事か。
自然資源の有用な利用と、将来への維持は、やはりどこの世界でも問題になるようだ。
「まだ論証もはっきりしてませんし、立証するための実験も必要なので、あくまでも、今はただの思い付きですけど」
実験という事は、今目の前にあるダンジョン石のような物を、また作り出す必要があるのだろう。
それができるのはキンちゃんだとして、キンちゃんと意思疎通のできないルーは、サトルを頼らざるを得ない。
サトルには断る理由がないので、もちろん協力させてもらうと頷く。
「世話になる程度には、力を貸す。キンちゃんたちには俺からも頼んでみるよ。ダンジョンの維持は、キンちゃんたちも望んでることのようだし」
サトルの言葉に、任せておけとばかりにキンちゃん、ギンちゃんがフォフォーンと鳴いた。
その鳴き声にかぶさるように、ぐぎゅるうううっと鳴くサトルのお腹。
「また……お腹空くの早すぎません?」
「俺の国は飽食の国だったもんでね、一日三食食べないと元気が出ないんだ」
恥ずかしさをごまかすこともできず、サトルは言い訳だけを口にする。
「効率悪いですよ」
それじゃあ夕ご飯にしましょうかと、ルーは苦笑した。




