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コウジマチサトルのダンジョン生活  作者: 森野熊三
第十二話「コウジマチサトルは○○である」
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12・コウジマチサトルは○○である

 サトルはその前日、飲みつけない酒をしこたま飲んで、意識を失うように眠りについた。


 目が覚めてみると、ここ最近ではすっかり見慣れた天井で、あまり見ない形になっていた。


 クレソンやヒース、ワームウッド、バレリアン、更にはタイムやニゲラまで、男ばかり六人で積み上がり絡まる様に寝ていた。


「何の嫌がらせだよ……」


 おかげで寒くはないが、やたら重いしクレソンの肘はわき腹に突き刺さるし、ヒースは寝ぼけているのかサトルの腕を噛んでいるしで、目覚めは最悪だった。


 ただ胃は痛くないし、いつもある頭痛もない、二日酔いが無いのだけは嬉しいところ。


 場所を確認してみれば、そこはルーの家のリビングで、サトルたちは部屋の隅に、本当に積み重ねられていた。


 クレソンやヒースを押しのけて、なんとか身を起こしてみれば、壁に凭れ眠るセイボリー、マレイン、ルイボスの姿。

 オリーブ、カレンデュラ、アロエは三人でソファに凭れて眠っていた。


 その傍にモーさん……らしき妖精にたかられた塊があった。

 二十を超える妖精たちが、サトルの視線に気が付き、一斉にフォフォンフォフォンキュムキュムヒューンと鳴く。

 なかなかに賑やか……もとい、恐ろしく騒がしかった。


 ルー、アンジェリカ、モリーユの姿が見えない。

 彼女たちは確か酒を飲まずに宴会に参加していたはずだが。


 サトルは自分に何が会ったのかと、眠る前の記憶をたどる。

 タイムと同じように招待していたマーシュとバジリコが、翌日の仕事に差し障るからと、昨晩は夕食を食べた後、乾杯のための蜜酒だけ飲んで、酒宴が盛り上がる直前に帰ったのだった。


 サトルが二人に手土産を持たせ玄関まで送り届けた後、戻ってきたサトルをクレソンが捕まえ、無理やり酒を口に注いできたのだ。


 お陰様でサトルの新調したばかりのシャツは赤紫に染まっている。


 酒を飲むとつくづく良いことが無い。

 サトルは大きくため息を吐く。


 少し思い出す。

 その時酩酊状態になる直前、サトルがセイボリーとマレインに頼んだのだ。

 うっかり雑魚寝するのは構わないが、男女は別で頼むと。


 サトルのなけなしの男としての矜持を、二人は聞き入れてくれていたのだろう。

 結果、酒を飲んで潰れた人間を、その都度隅っこに重ねて、結果絡まって雑魚寝という、なかなか見ない格好になっていたようだ。


 もう少し頼み方あったよなと、サトルは大きくため息を吐く。

 その音を聞きつけたのか、パタパタと駆けてくる複数の足音。


 アンジェリカ、ルー、モリーユの順に、手に手に水の入った盥と布巾を持ってリビングへと入ってきた。


「あら起きたのね?」


「サトルさん凄い恰好になってますよ」


「……大丈夫?」


 なぜ三人だけは起きているのか、その盥は何なのか、これから何をするのか、色々思う所はあった。


「んー、まあ」


 サトルは周囲を見回し、辺りに飛び散る酒や料理の残骸を見て大きく肩を落とした。


「片付け大変そうだ」


「ですねえ」


 ルーもまた同じように肩を落としため息を吐く。


 昨晩はサトルが竜の巣から無事帰還を祝い、またサトルがダンジョンに潜るのに随行してくれたタイムたちを労うために、サトルとルー主催という名目で、ちょっとした宴会をしたのだが、まさかの酒宴、むしろ酒乱のどんちき騒ぎになるとは。

 思っていなかったとまではいかないが、昨晩はあまりにもひどかった。


 元々酒が入ると悪乗りするアロエとクレソンがいたこと、普段はこの時間店を任されているため、酒を飲まないタイムが羽目を外したこと、そして酒を飲んだことのなかったニゲラが好奇心いっぱいに酒を楽しみ思いの外酒豪だったことから、何故か酒宴は飲み比べに発展していった。


 サトルはタイム、オリーブ、クレソン、バレリアンの四人がかりでもニゲラを酔い潰せていないことまでは確認していたので、結局勝負はどうなったのか、後で聞こうとサトルは心に決めた。


 ちなみに料理はサトルとヒース、アンジェリカ、カレンデュラ、マレインで行った。

 そのほかは酒の買い出しと会場設営、それと招待客を呼びに行った。


「はあ、しばらく禁酒かな」


「それがいいと思います」


 散らかり放題のリビングの片づけを始めつつ、ルーがサトルの言葉に同意する。


 酒を適度に楽しむならともかく、流石にこの荒れようはあんまりだと、二人は床に散乱するあれこれを拾い集める。


 すると妖精たちがするりとやってきて、ルーとサトルの手にした残飯を、粘菌状になって包み込む。


「うわ……手伝ってくれてるのか? でもちょっとびっくりしたよ」


「キンちゃんたちありがとうございます」


 どうやら残飯の処理をしやすいように、ダンジョン石に変えてくれたらしいキンちゃんたち。


 新しく見つけた彼女たちには結局名前を付けなかった。

 数が多くなりすぎると言う事もあるが、そもそもサトルでさえそろそろ見分けがつかなくなってきていたのだ。


 サトルが妖精たちを見分けていたのは、別にダンジョンに召喚された勇者だからというわけではなく、単純に小動物を観察し見分ける能力が秀でているに過ぎなかった。

 なので、色の違いでキンちゃんたち、ギンちゃんたち、と呼ぶにとどまっている。

 その内見分けがつくように目印を付けるようにしたなら、また名前を付けるかもしれない。


 アンジェリカはモリーユと一緒に壁に飛び散った料理や酒を拭きとりながら、そんなに気に病まなくて良いわよと苦笑い。


「禁酒ねえさ……サトルがする意味があるのかしら? サトルのせいではないと思うけど」


「こいつらにも控えさせる。その為には率先して言い出しっぺがやるもんだろ」


 返された返事に、アンジェリカはくすくすと笑って軽口を返す。


「あら躾の基本ね。本当にサトルって」


「ママ禁止」


 言われる前に禁止され、アンジェリカは少し不服気。後ろでお兄ちゃん(仮)が少し眉をひそめているのは、どういった心境からだろうか。

 サトルの視線に気が付き、お兄ちゃん(仮)はひょこりと肩を竦めて見せる。


 そんな二人のやり取りに、ルーがだったらと口を挟む。


「サトルさんは律儀な紳士さんです」


 どうだと言わんばかりの宣言に、サトルは後ろ頭を掻きながら苦笑する。


「まあ、それならいいか」


 ママで紳士で勇者で臆病……。


 コウジマチサトルには、何とも肩書が多かった。


短い期間でしたが、ご愛読いただき誠にありがとうございました。

拙い文字書きではありますが、目標話数迄完走できたのは、読んでくださっている皆様のおかげでした。

麹町聡さんの物語はまだ終わっていないので、来年になりますが、良ければ次の話しをご期待ください。


※麹町聡さんが元の世界でどのようなお仕事をなさっていたのか、気になる方がもしいらっしゃるなら、ぜひ自己責任で「BCCST」を読んでみてください。

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