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コウジマチサトルのダンジョン生活  作者: 森野熊三
第十二話「コウジマチサトルは○○である」
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10・ゆめうつつ

 真っ白な世界でサトルは目を覚ました。

 正確には、これは夢なのだろうが。


「ここは?」


 いつものようにウワバミやレオナルド、ベルナルドたちがいない。


 代わりに、以前夢で見た巻き毛の幼い少女がいた。


「君は?」


 にこりと微笑み答えを返さない少女。

 サトルはもしかしてと問う。


「キンちゃん?」


 少女は頷く。


「少し、集まったので……」


 まさか喋ってくれるとは思わず、サトルは瞠目する。

 キンちゃんは続ける。


「サトル、貴方は……元の世界に帰りたいですか?」


 問われればもちろんそうだと答えるが、その問いを発するキンちゃんの表情はひどく不安そうに見えた。


「できれば、けど、君の事を助けてから。それと、ルーたちが……一人でも生きて行けるようになったら」


 世界間で時間の流れに差がある事から、時間は多少かかっても大丈夫だと分かっている。


 さすがに一年二年というと長い気はするが、一ヶ月ほどでに十匹以上集めることが出来たので、そう悲観もしていなかった。

 残り半年ほどもすれば、すべてではないにしろ、ある程度はキンちゃんたちを集めることもできるのではないかと思っていた。


 それにルーが自分人で抱え込み、誰かを頼れないと言う状況も打破できるのではないかと考えていた。


「抱え込みすぎだと、思いませんか?」


 抱え込んでいる、という自覚はサトルにはない。


「俺より社長の方が抱え込んでるからなあ」


 身近にいる人物が悪いのかも、とサトルが言えば、キンちゃんはルーにそっくりなため息を吐いて見せる。


「貴方の話です……サトルさん」


 責めるような視線から顔を反らし、サトルはため息を吐く。


「はぐらかしてるわけじゃないんだ」


 自分にうまく向き合えていないだけ。


 あれも、これも大事で、でも自分にはそれを守れる力があると思えなくて、考えることを止めると足が止まる気がして、怖くて、逃げ続けて、誰かに必要とされたくて、英雄願望だけは一人前にあるくせに、やはりいざとなったら足がすくんで、でも何かをしなくてはと思うととっさに無茶をしてしまう……まとまらない感情を言葉に形成することが出来ない。


 結果、誰かに伝える言葉はいつもどこか芯の無い、あやふやなものになる。


 サトルはもう一度「はぐらかすわけじゃない」と繰り返す。


「元の世界には帰りたい。大切な人が、いるんだ。きっと今のままでは泣かせてしまう。でも……何もせずに帰って、この世界の誰かに失望されるのはもっと怖い」


 見限られてしまうのが怖かった。


「必要とされないことが……怖いんだ」


「私は、貴方を必要としています」


 失望などしていないと、キンちゃんは言ってサトルの背を抱く。


「ありがとう……キンちゃん……俺を、必要としてくれて、ありがとう」


 自分を頼ってくれる誰かがいるのなら、それに応えることが出来る。

 サトルは背中の小さなぬくもりを、心底有難く思った。


「役目は果たすよ、君のために、俺の存在意義のために」


 だから、まだこの世界にいる。

 元の世界に残してきた人たちのことは心配だが、彼女や彼らは自分よりもよっほど強いからと、サトルは信頼して口元に笑みを浮かべる。



 白い世界から急速に引き戻される現実。

 サトルは体が動かないのを感じていた。


 意識はある。酷く寒い。

 右手の方から熱を感じるので、誰かが火の傍に連れてきてくれているのだろうと思った。

 せめて視界が利けばいいのだが、身体があまりに重く、目も開かない。


 何度も何度も名前を呼ばれた気がして、サトルは聴覚にだけ意識を集中させてみる。


「生きてる生きてる、だからそんなに泣いちゃ駄目だって」


 どこかへらへらと軽いワームウッドの声。


「でも、サトルさんからだ冷たくて」


 泣いているのはルーだ。


「そりゃあんな氷水入ったらそうなるでしょ。まあ、おかげで流されず引っかかったんだけどねえ」


「落ち着きなさいなルー、キンちゃんたちがうるさくしていないと言う事は、生きていると言う事でしょう」


 ワームウッドに続いて、呆れたようにアンジェリカがルーに声をかける。

 ルーの事を常に心配している彼女がこの態度という事は、ルー本人には怪我も無ければ、体調を悪くしていると言う事もないのだろう。


「けど目を覚まさないんですよ!」


「それは魔法の使い過ぎなんじゃないかしら?」


「呼吸はしているし、心臓の音も、やや遅い位だしこれなら大丈夫だって」


 アンジェリカとワームウッドが交互にルーを説得する。本当は意識は戻っているのだが、あまりにも体が動かず、サトルは申し訳なく思った。


「とりあえず、連れかえろっか」


 いつまでもらちが明かないからと、ワームウッドは面倒くさそうに言う。

 サトルとしてもそうしてもらった方がありがたかった。


「じゃあどうやって人数配分するかだけど」


 どうやら帰るために合流した者達で編成を変えるらしい。


「先発はサトル連れていくとして」


 ワームウッドの言葉に、だったらと声を上げるオリーブ。

 どうやら近くにいたらしい。


「ならば私が担いで帰ろう」


「「え」」


 数人の声が唱和する。

 ワームウッドが笑いをこらえながら待ったをかける。


「姐さんそりゃ駄目だ、紳士さんは嫌がるんじゃない?」


「オリーブ、少しは彼の事も気にしてあげて」


 カレンデュラもいたようで、本気でサトルを憐れむように、オリーブにたいしやめなさいと諭す。


「むう……」


「俺が連れて行く。あんたは帰り道で先行してくれ。そうしたら後ろを付いて行く」


 代わりに名乗りを上げたのはバジリコ。

 サトルは心底ほっとする。

 さすがに女性に負われていくというのは、男として非常に、非常に由々しいことだと感じていた。


「ああ、バジリコ殿なら安心だ、分かった、承ろう」


 どうやらオリーブも納得してくれたらしく、サトルは安堵ともに再び意識を失った。


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