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コウジマチサトルのダンジョン生活  作者: 森野熊三
第十二話「コウジマチサトルは○○である」
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4・勇気というもの

動物に対する残酷描写があります。

苦手な方はお気を付けください。

 セイボリー達が先行した跡を探していくことは、思ったよりも難しかった。

 どうやら彼らは徹底してモンスターとの戦闘を避け、目的地への到着を優先しているらしい。


 そういうことが得意なのはオリーブたちのパーティーで、元々種としてオリーブ、カレンデュラ、アンジェリカの三人は物音に敏く、アロエは技術としての索敵を得意とし、斥候役を務めていた。

 またアンジェリカのモンスターテイマーやアロエの遠距離射撃も、敵との戦闘を回避するための技術特化をしているという。


 モリーユは近年オリーブのパーティーの火力強化のために、アロエが引きこんだ魔法使いなので、今回置いて行かれたのは確実に戦闘を避けた行進優先の計画のためだった。


 そのため後を追うサトルたちの目の前には、セイボリー達の気配には気が付きつつも、戦闘にならず逃してしまったので、警戒心だけを高めたモンスターたちが躍り出てくるようだった。


 平地に生え天に向かって直線に幹を伸ばす木々。日本では北海道などのごく一部でしか見ないような、冷涼な地域特有の高くまっすぐに伸びた、まばらな木々と膝丈もない低木の林。


 誰も手入れなどしないので、ところどころに寿命の尽きた巨大な朽ち木が横たわり、乗り越えるのが困難な、自然の迷路を形成していた。


 そんな迷路でも、獣はお構いなしに駆け抜けるらしい。

 倒木に挟まれた狭い通路の前後を、待ち伏せしていたらしいモンスターが塞ぐ。

 かと思えば、倒木の上、サトルたちの右手から飛び降りてくる一匹のモンスター。


 右手から来た巨大な一角の角を持つ狼のようなモンスター。

 見た目に反した機敏さで鉄球に鎖の付いた武器、モーニングスターをぶつけつつ、マーシュがぼやく。


「思ったよりも」


 的確に顎を砕き、地面に倒れたところを、更にタイムが肉叩きのような先端の大槌で、内臓を狙い叩き潰す。

 打ち合わせをせずに行動を起こしたにしては上々。


 二人が鈍器を使う理由は、単純に四足のモンスター戦では力で押す方が有利だからだ。

 刃物ではよほど技量が無ければ、硬い毛皮や皮膚に阻まれ、致命傷を与えるのが難しい。

 しかし鈍器であれば骨を砕き肉を潰しさえすれば、相手の攻撃手段を奪うことが出来る。


 これが甲殻や硬い外殻で覆われたモンスターだと、また対処が変わるという。


 特に獣系のモンスターには、技量が無い限りは物ではなく鈍器を使う方が、武器の強度や手入れのしやすさも相まって、推奨されている事らしい。


 想像していたファンタジーよりも、随分と生臭く暴力的だよなと、サトルは苦笑する。

 華麗な剣さばきでモンスターをバッタバッタと薙ぎ倒す、そんなことが出来るなんて、実際はそうそうないらしい。


 それを実現しているバジリコの方が、所謂レアキャラなのだ。


 タイムとマーシュが二人がかりで相手をしていた角の狼、それをバジリコは一人でさばいていた。


 飛び掛かってくる狼に対して、攻撃を避けるのではなく剣の切っ先を突きあげるように素早く振るい、狼が自重で剣に突き刺さるようにする。タイミングと本人の膂力、何より攻撃を受けると言う事への恐怖に打ち勝つ胆力が必要な一撃。


 狼に深々と刺さった剣を抜くために、刺さり切った瞬間狼を蹴り上げる。巨体がびくりと跳ねるが、抜けはしない。

 そのまま狼を押し倒すように前へと押し出し、仰向けに転がして、足をかけ剣を引き抜く。

 まだ狼は絶命していなかったが、顎から背骨に向かって深く剣が刺さっていたらしく、夥しい血を吐き出しながらもだえ苦しむ。

 あっという間に血と泥にまみれ、襤褸雑巾のようになった狼は、もうろくに動けないのか、びくびくと痙攣を繰りかえす。


「妙にモンスターが活性化しているな」


 群れを作るモンスターというのは、行動パターンが似通るのか、どうやら先に飛び出し的に引きは、斥候か先発隊だったらしい。

 正面にいた狼が、高く遠吠えをすると、それに応えるように、近くに遠くに、狼たちの声が響いた。


 その数十は軽く超えるほど。


「たぶんあれだなこりゃ、セイボリーさんたちかなり急いでここ通り過ぎってたんだろ」


 乾いた笑いを交えつつタイムは言う。ダンジョンに潜る前の自分の発言を覚えていたのだろう。

 甘い予想だったと、頬を引きつらせる。


 左右の倒木の上に、背後の狭い通路に、狼の姿が見える。

 もういつ飛び掛かられてもおかしくはない。

 サトル達が武器は使うが、それだけだと見て取ったのだろう。数で押せばどうにでもできると。


 しかしそれこそ甘い予想だ。

 タイムもセイボリーもバジリコも、戦闘の初動が早いので任せていたに過ぎない。


 サトルは周囲をよく見て、相手の位置を確認する。


「皆俺の傍に寄ってくれ、ちょっと危険なことをする」


 サトルの言葉に真っ先にヒースが動き、モリーユバジリコと続き、何をするのかわからないながらも、四人に合わせタイムとマーシュがサトルの傍に寄った。


「レオナルド! 包囲を広げてくれ、炎との壁を広げながら燃やせ! モリーユは次の手を」


 とたんサトルたちを取り囲むように、建物の二階か三階建てはありそうな大きな炎の壁が立ち上った。

 円形の壁はサトルの言葉通り、囂々と燃えながらその輪を外へ外へと広げていく。


 突然の炎に狼たちは慌てたのか、統率を乱したように退く者、倒木の上から滑り落ちる者、迎え撃つか悩む者と分かれた。


 しかし時間にして数秒もなく、狼たちが逃げに転じるよりも先に、モリーユが次の魔法を放った。


「赤の契約の元、モリーユが命じる、炎は咲いて裂いて弾け飛べ!」


 頭上で弾ける巨大な花火。その火の粉が意思を持ったように狼たちに降り注ぐ。

 火力こそそれほどある物ではないようだったが、その不意の攻撃は、狼たちを文字通り狼狽させるには十分だった。


 そこにサトルが追い打ちをかける。


「レオナルド、モリーユに力を貸せ」


 モリーユの放った火の粉が激しさを増し、狼たちがギャンギャンと悲鳴を上げる。

 命こそ奪うものではなかったが、完全に戦意が消失したらしく、狼たちは我先にと逃げるように駆け去っていった。


 焼け焦げたようなきな臭い空気を肺に吸い込み、大きく吐き出すサトルたち。

 もうすっかり狼の姿はない。


 タイムが感慨深く呟く。


「すげえな、勇者様の力」


「違うって、これはローゼルさんのおかげで契約出来た精霊の力……俺はむしろ非力だよ」


 そんなサトルの言葉をバジリコが否定する。


「非力、というわけではないと思うがな、あんたは使える力と本人の基礎能力の差が大きすぎる」


「いびつなのは理解してる」


 身に余る力のおかげで、バジリコたちを助けることが出来たが、サトル自身が危機に瀕したのはつい最近だ。


「顔色が良いな、あれから何をした?」


 バジリコも同じことを思い出したのだろう、今のサトルがやけに元気な様子から、以前とはは何か違うらしいと悟ったようだ。


「ドラゴナイトアゲートで、魔力の底上げ。竜にもらった」


 懐から小さ目なドラゴナイトアゲートを取り出し見せる。

 タイムはそんなものでと不思議そうだが、バジリコとマーシュはそれが魔力を補填するのにつかわれることもあると知っているのか、なるほどそれならば不思議はないと頷く。


「それはお前にだからか?」


「どうだろうな。ダンジョンの妖精に協力する奴と、ダンジョンの妖精と敵対する奴がいるらしいし、まあそれもあるのかも。さっきまで俺に付き添ってくれていた竜なんだが、今ここにいないのは、ルーたちが竜の巣の傍に行って、縄張りを荒らされたと思われないように、説明をしに行ってるからなんだ」


 ただこれだけは絶対だと言えると、サトルは断言する。


「人間と敵対したくないから、って理由で、俺と彼は共通してる」


 しかしバジリコはその言葉を信じるとして、真意がわからないことに不満があるらしい。


「竜は何を考えている?」


「それは不明。さっきも言ったけど、個々で考えてることなんて違う。俺に付き添ってくれていた竜は、俺の手助けをしたいらしい。もう一人出会った竜は、その竜の助けになるらなやぶさかではないし、俺の事も助ける気がある、って感じだった」


 結局サトルの話だけではらちが明かないのかと、大きく肩を落とすバジリコ。

 自警団としては、竜と争わずに済む方法があるのなら、それに越した事は無いと考えていたのだろう。


 そのためにサトルから話を聞ければと思っていたようだが、個々の考えが違うと言われてしまっては、それ以上追及する意味もなかった。

 何せバジリコは自警団の隊長職の一人。人間ですら同族同士で敵対することも、諍い合うこともあると言う事を、一番わかっている立場なのだ。


「竜と人間が話すなんて、お伽噺の世界だと思っていたんだがな」


 だから本当にありえると思わなかった。

 だから物語のように、何か劇的に世界を変えてくれるのではと期待をしてしまった。

 バジリコのため息には、そういった失望がありありと込められていた。


「けど勇者は本当にいたよなあ」


 おとぎ話は実現しないが、勇者は実在していたと、けらっと笑ってタイムが言う。

 サトルはその勇者という言葉が、妙に引っかかった。


「そうだな……けどなんで俺が勇者なんだろうか」


 サトルは自分の左手の九曜紋を見る。

 キンちゃんとギンちゃんが、左手に止まり、不思議そうにサトルを見上げる。


「俺はこんなにも臆病なのに」


 英雄でも、正義の味方でも、救世主でもなく勇者、ブレイバーと表現される理由が、サトルには全くわからない。


「その言葉を納得するのは、あんたが何をしているか知らない奴だけだと思うぞ」


「むしろ無謀レベルでサトルは勇気がありすぎるよ」


 バジリコとヒースの責めるような視線に、サトルは本当にそういうんじゃないんだがと、困ったように後ろ頭を掻く。


「そうか? 普通だろこれくらい。俺にあるのは勇気じゃなくて、焦燥感だよ」


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