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コウジマチサトルのダンジョン生活  作者: 森野熊三
第十二話「コウジマチサトルは○○である」
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2・彼らとダンジョンと彼女

 支度を済ませてサトルたちが待ち合わせの場所であるダンジョン前の広場に行くも、まだローゼルたちは来ておらず、しばらくサトルたちは待った。

 そろそろ昼も近いという頃、ようやくローゼルが助っ人を連れて現れた。


 人数は三人。それぞれ見覚えのある姿に、サトルはひどく驚いた。


「待たせたね」


「ええっと、バジリコさんは分かるけど、何でタイムとマーシュさんが?」


 朗らかに手を上げ挨拶をするローゼル。その後ろでひらひらと軽薄に手をフルタイムと、こわもての顔に苦笑を浮かべたマーシュとバジリコ。


「言ったろう? 人手だよ」


 ローゼルの紹介に、タイムはその通りとサトルの肩をバシバシ叩いて乱暴に挨拶をする。


「よ、あんたダンジョンの勇者様だったんだな、意外だったよ」


「俺は君が冒険者の真似事をするってことの方が意外なんだが」


 痛かったので叩き落とすようにタイムの手を払うサトル。

 サトルのそっけない態度に、タイムは「えー、もっと喜べよー」と子どものように拗ねて見せる。


「それにマーシュさんも」


 マーシュはひょこりと肩をすくめる。


「それはこっちも同じだ。あんたが一人ででもダンジョンに潜りかねないと聞いてね」


 どうやらローゼルは人の良いマーシュを、半分脅すような形で連れてきたらしい。

 年若く見えるサトルが、知らない町で苦労するのを気にかけ色々良くしてくれていたマーシュを、そんな理由で引っ張り出してきたのかと、サトルはローゼルを睨む。


「なあに、そんなに怒る事じゃないさね。なあ、タイム君」


 サトルの非難の目を避け、ローゼルはタイムに説明するよう促す。

 タイムは得意満面に応える。


「ああ、真似事じゃないさ、お前は知らないだろうけどな、ダンジョンの中でしか手に入らない食材ってのが結構あんだよ。それをわざわざ市で買うよりも、自分で採りに行った方が圧倒的に安く手に入るし、何より毎日市に並ぶわけじゃないって物は、自分で採りに行った方が早いんだわ」


 その説明に、サトルは思い当たる節があった。


 例えばホリーデイルはまさにその類だろう。

 ルーはデイルは栽培できるが、ホリーデイルはダンジョン内でしか採取できないと言っていた。

 しかしサトルはデイル以上にホリーデイルの使い勝手がいいと感じていたので、今後もホリーデイルを採取するためだけに、ダンジョンの初階層に潜っても良いなと感じていたほどだった。


「同じく、俺も手に入りにくい鉱石などをな、採りに行くことがあるんだ。お抱えの冒険者を持てるほどの工房でもなければ、よくある話だ」


 マーシュも自分がダンジョンに潜るのは珍しくないことだと続ける。


 考えてみれば、ダンジョンでは有機物だけをダンジョン石にした後、残ったい鉱石がある程度まとまった状態でダンジョン内に排出されている、とルーは語っていた。

 そのためダンジョンでは鉱石が取れやすく、ダンジョンの町では需要と相まって、何処も金属製品が安く手に入る。


 ならばその鉱石を誰が採ってくるのか。

 ファンタジーでたびたび見たのは、鍛冶を生業としているドワーフ達が、素材すらも自分たちで集めていた。


 更に言うなら、物品の流通が確立しているらしいこの世界で、何故ダンジョンの町でだけは物価が他の町と比較しにくいのか。

 個々人が物価に影響されない、採取を行っているからなのだろう。


 それらを一つ一つ考えれば、なるほど彼らが冒険者相当の実力を持って、ダンジョン内に潜っていたとしても不思議はなかった。


「伊達や酔興でこの町に住んでるわけじゃない。案外多いんだぜ? こういうの」


 むしろこの町にはダンジョンの恩恵にあずかるための人間が集まり、発展してきた場所。。一般市民に見える人たちでさえ、ダンジョンに潜る事は珍しくないと言う。


 それでも危険が全くないわけではないだろうに、よくこんな助っ人を引き受けてくれたものである。

 サトルの顔に不安げな様子がありありと浮かんでいたからだろう、マーシュが補足する。


「俺たちは互助会には所属していないが、個人的にここの冒険者たちとは付き合いがある。だからダンジョンに潜る際に随行することがある。今回は普段手を貸してもらっているお返しだ。恩を返すチャンスだから、俺たちが自分で選んで決めたことだ。君が心配する必要はない」


 心配をするなと言われて心配せずにいられるほど、サトルはまだダンジョンに良い思い出が無い。

 とりあえず二度崩落に巻き込まれ、一度は自分の意思で潜ったが、そのどれも大怪我をしたし、死にかけていた。


 それに彼らを巻き込むかもしれないと考えると、サトルの胃がじくりと痛みを訴えた。

 彼らは良い人だ。彼らを自分の勝手で巻き込むのははばかられる。けれど、助けはできるだけ欲しい状況。


「危険だぞ?」


 確認するサトルにタイムは平気だと笑う。


「そうでもないさ。セイボリーさんたちの後を追うんだろ? だったらモンスターはほとんど出やしねえ。人間が危険だと分かればしばらくは大人しいもんだぜ、モンスター。だから一回入ったら、出るときは同じ順路で帰るってのがもっぱら」


 セイボリー達の後を追いさえすれば問題はないとタイムは言い切る。

 その話が本当ならば、サトルの心配は軽減される。


 しかし、それでもまだ納得がいかなかった。


 サトルはもう一度恨めし気にローゼルを見やる。


 バジリコはまだいい。彼はルーに対して思う所のある人物であること、戦闘のプロであること、サトルとしても恩を売った覚えがあるので頼りやすい。

 だが、タイムとはまだそれほど親交はなく、マーシュに至ってはサトルが世話をかけてばかりだ。


「彼らである理由はなんだ?」


 彼らに頼るくらいなら、まだ冒険者を雇った方がいいと訴えるサトルに、ローゼルはにんまりと意地悪な笑みを浮かべる。


「この互助会に所属していないからさ。分かるだろ? 私にだってしがらみはあるんだよ」


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