表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
コウジマチサトルのダンジョン生活  作者: 森野熊三
第十二話「コウジマチサトルは○○である」
150/162

1・俺と竜とダンジョン

「ところでサトル君、先程から気になっていたのだけど、その服は?」


 ローゼルに問われ、サトルは如何したものかと一瞬間を置く。

 ローゼルにニゲラの事を話そうとは決めたが、まさかヒースたちの前では話せない。

 少しだけ考え、嘘を吐くことにした。


「ああ、サンドリヨンっていうモンスターに襲われたんだ。俺がうっかり巣穴を覗き込んだせいで」


 言ってケープを取ったサトルに、ヒースとモリーユが悲鳴を上げる。


「サトルそれ大丈夫じゃないでしょ! どうして黙ってるんだよ!」


 ヒースが叫ぶのも仕方がないだろう。何せサトルの服はズタズタに裂け、乾ききった血に染まっているのだから。


「いや、大丈夫だって、怪我はキンちゃんたちが全部治してくれたし、それに、竜にこれを貰ったんだ」


 言ってサトルはコーンにもらったドラゴナイトアゲートの中から、比較的小さな物を取り出し見せた。


「だから、俺の体力も問題ないし、傷も何も残ってないんだ」


 問題はないと重ねて言うサトルに、ヒースはそれでも「痛いのは痛いはずじゃん」と、苦し気に顔をゆがめた。

 ヒースは泣きこそはしなかったが、どうやら心配をかけすぎたようだと、サトルは胃が痛む思いだった。


 怪我は問題ないということで、この話を終えようとしたサトルだったが、ローゼルはまだ納得がいかないと質問を変える。


「そのケープの話のつもりだったのだけどね」


 タチバナと懇意にしていたローゼルにとって、彼女の持ち物は見覚えがある物だったのだろう。サトルは嘘でも本当でもない言葉を選ぶ。


「木に白い花が群生して咲く場所があって、そこにあったからな、借りたんだ。さすがにこの格好じゃあまずいと思って。女性物なのは、大目に見てくれ、隠したかったんだよ」


 サトルは明確に言わなかったが、ローゼルは場所の事を聞くと驚いたように目を開き、すぐに納得する。どうやって手に入れたのか、そういうことを聞きたかったのだろうが、サトルはあえてケープの持ち主も、桜の咲く場所の事も知らないふりをした。


「……そうかい」


 知らないのなら聞きようがない。そう思ったのか、ローゼルは質問の手を止めた。


 それでは人を呼びに行ってくるからと、ローゼルが互助会の会所を出ていった。

 ヒースとモリーユも、一端家に帰って荷物を整えなくてはと言うので、サトルも一緒に帰ることにした。ルーの家の鍵は、モリーユが預かっていた。


 サトルは自分の部屋に戻り、着替えながらニゲラに提案をする。


「ニゲラ……お前の事、嘘の事情を話してもいいか?」


「それが必要だと、父さんが思うのなら」


 ニゲラはすぐに問題はないと答える。


「ああ、必要だ。悪いな、お前にも嘘を吐かせることになる」


 嘘くらい構わないというニゲラに、サトルは吐くべき嘘の内容を伝える。


「ニゲラは人間の事を理解してる竜だ、産まれた時期は不確か、俺の血を舐めたことで、ヒトの姿を取れるようになったと、ニゲラ自身は思っている。ニゲラに名前を付けたのはコーン、言葉を教えてくれたのも、だ。知識はいつの間にか少しずつ覚えていった。ニゲラ自身は、自分の事を竜としか思っていない。キンちゃんたちを母と呼ぶのは、産まれたばかりのニゲラに寄り添ってくれていたから。俺を父と呼ぶのは、血を貰ったことと、キンちゃんたちを視認できるから。君自身は、何故キンちゃんたちを視認できているのか理解はしていない、ということにしてほしい」


 サトルの話を整理し、ニゲラは確認する。


「それはつまり、キメラであることと、僕が生まれた時期を徹底的に隠すと言う事ですね?」


「ああ、話しが早いな、その通りだ……」


 どうしてそれをする必要があるのかも、説明をする。


「タチバナはまだ彼女の知り合いたちの中での存在が大きすぎる。だから、出来る限り、知られない方がいいと思う」


 ニゲラはそれにも確かにそうだと頷く。


「ケープの話をした時の彼女は、とても……激しく怒るような心音をしていたました」


  はじめてニゲラがサトルを見つけたあの日、ニゲラは遠く離れた場所のサトルの言葉を聞いていた。それほどの地獄耳のニゲラには目の前の人間の心音も聞こえていたのだろう。


 それに何より、ニゲラはローゼルの事をよく知っているはず。


「ニゲラはローゼルさんについて、覚えていることはあるか?」


 サトルの問いに、ニゲラは顔を俯かせ、困ったような声で答える。


「色々あります。でも、そういうことを人に話されるのは、きっと彼女は好まないから」


「まあそうか。分かった、詮索はしないよ」


 暴かれたくない秘密の詮索は紳士ではないしなと、サトルは苦笑する。


「ありがとうございます。所で父さん……」


「ん?」


「思ったんですけど、僕と父さんで僕の巣の所に飛んで行って、ルーたちが来るのを待っていた方が良かったんじゃないですか?」


 サトルはそれは自分も考えたんだと答える。


「うーん、それも思ったんだけどな……サクラの場所までのダンジョンの踏破ルートを聞くちょっと前に。けど、ダンジョンの中を通ってヤロウの山中に抜ける道に行くらしいし、もしかしたら俺たちがサンドリヨン倒した場所に通じてたりするんじゃないかと思って……」


 サンドリヨンを倒した場所は、以前にも崩落の跡があった。そしてサトルたちがいる時にも崩落し、更に言うなら、その周辺はルートを変えなくてはいけないほどの崩落がすでに起きているという。

 つまりあの場所は何時でも崩落の危機があると考えられる場所だ。


 シュガースケイルもおらず、キンちゃんたちの明かりが無ければ暗く勧めない道だった。そこから崩落して落ちた場所も、似たようなもので、それが余計にサトルを不安にさせていた。


 もしルーたちがサトルのいない状況で崩落に巻き込まれでもしたら、考えるだけでもぞっとしない話だ。その前に、ルーたちを引き返させなければならない。


「それは、お爺ちゃんが危険かもしれませんね」


 しかしニゲラはルーたちよりも、コーンの方が心配だと言う。


「コーンなら大丈夫だとは思うけど」


 コーンはどう見ても、ニゲラと違い自分に危害を加える者に容赦はしない。

 妖精を幾匹か吐き出し、多少なりとも体調も良くなっていた様子から、人間の冒険者に後れを取るとは思えなかった。


 ニゲラは答える。


「はい、ですから、お爺ちゃんのテリトリーに集団で入っていくと、危険です」


 どうやら危険というのは、コーンがルーたちを攻撃する危険がある、という事だったようだ。


 サトルは額を押さえ呻く。


「……事前に、コーンに話を通すことはできそうか?」


「話はできても、お爺ちゃんが人間に友好的なのは、本当に珍しいんです。だからお爺ちゃんがサトルと談笑している時、僕は気が気じゃありませんでした」


 確かにニゲラはコーンがサトルに友好的に名前を教えていた時も、ひどく不機嫌そうな様子だった。あれが不機嫌ではなく緊張していただけだと、サトルは全く気が付いていなかった。


 考えてみれば、竜は人を食うとオリーブもセイボリーも警戒し、サトルのように竜と話してみたいだなんて考えが、そもそもわかないくらいに竜を敵視していた。

 それは竜を嫌っているから、ではなく、竜という存在の理不尽さに怯えていたからだとしたら、ニゲラの言う通り、コーンはルーたちにとってとても危険な存在なのだろう。


「サクラの場所って呼ばれてる、ニゲラの巣のあるところまでは今行けるルートで最低でも三日か四日はかかるらしい。俺は今から急いでルーたちを追う。その間にコーンの説得をニゲラに頼みたい。サンちゃん連れて行ってくれ。彼女がいれば俺の居場所は分かるだろうから」


 戦力としてニゲラが脱するのは惜しかったが、それでもできる限りの安全を確保しなくてはとサトルは考える。

 シーちゃんがそうだったように、サンちゃんもきっとサトルの居場所が分かるはずだと、サトルはサンちゃんをニゲラに託す。

 サンちゃんは頑張りますとでも言うように、フォフォンと鳴いた。


 サトルの指示に、ニゲラは頷き、善は急げとばかりに窓へと駆け寄ると、その背に翼を広げた。


「分かりました、それでは、今からでも行ってきます」


「頼んだ、ニゲラ」


「はい! 父さん!」


 サトルに頼られ嬉しかったのだろう、ニゲラはすっかり日の登った空に、翼をはためかせ飛んで行った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ