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コウジマチサトルのダンジョン生活  作者: 森野熊三
第二話「コウジマチサトルダンジョンに落ちる」
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2・キンちゃんとモンスター

「どうかしたのでしょうか?」


 激しく鳴かれるとルーにも聞こえるからか、ルーは困惑したようにサトルを見る。


「分からないけど、何か俺に言いたいことがあるみたい」


 二匹の視線はモンスターの死骸とサトルを行ったり来たり。

 けれど二匹が何を伝えたいのか、言語にならない鳴き声ではらちが明かない。


 すると、キンちゃんが意を決したように、強く発光しモンスターの死骸へと飛び掛かった。


「キンちゃん!」


 いったい何をとサトルが続けるよりも先に、キンちゃんの光が膨れ上がり、モンスターを包み込んだ。


「あ! これです! この反応!」


 その光には見覚えがあるとルーが言う。


 光はほんの一瞬で、次の瞬間にはモンスターの上に広がる、キンちゃん色の粘土のような物体。

 粘土のような物体は、ぬるりとした動きでじわじわ広がって、それはまるで粘菌が有機物を分解し栄養として摂取する様によく似ていた。


「うわ……これ」


 スプラッタとは違うベクトルのグロだ。

 サトルは頬を引きつらせ、その粘菌モドキから視線を逸らす。

 とてもではないがサトルには直視できない物だった。


「すごい、こんな急激な変化始めて見ました」


 逆にルーは声を弾ませ喜々としてその様子を観察している。


「もうやだ、何この子メンタル強すぎ」


 ルーのメンタルが強いというよりも、サトルのメンタルがやや弱いだけなのだが、それは棚に上げて、サトルは怖い怖いとモンスターの死骸から背を向ける。


「あ、反応が無事終わりましたよ」


 ルーがわざわざ報告してくれる。


「有難う、でも見るのが怖いです」


「大丈夫ですよ、サルノコシカケみたいなものが生えてるだけなので」


 ルーに言われてサトルは振り返る。

 それまでモンスターの死骸があったそこには、確かにサルノコシカケをいびつに膨らませたような、木材とも石とも知れない赤味を帯びた灰褐色塊が出来上がっていた。

 水分がなくなったせいか、元のモンスターよりも一回り以上小さい。


「キンちゃんは……」


 サルノコシカケモドキの上に、ちょこんと座っていた。

 ファンシーだが、その直前の光景を思い出し、サトルはキンちゃんから思わず後退る。


 寂しげなフォーンが胸に刺さった。


 ルーは何のためらいもなく、サルノコシカケモドキに近づく。


「触るのか?」


 まさかとサトルが顔を青ざめさせれば、ルーは首を横に振る。


「いいえ……ですが、これは……やはりダンジョンと同じ材質」


 ダンジョン研究をしているルーが言うのだから間違いはないだろう。

 ダンジョンと同じ素材をモンスターから作り出すキンちゃん。ダンジョンはモンスターや人の死骸がダンジョンに取り込まれて作られると仮定しているルーの研究。


 あまり情報は多くないが、これらから連想されることがあった。


「という事は……キンちゃん、君って、このダンジョンを作った存在なのか?」


 サトルの言葉にルーが期待に満ちた目で振り返る。


 が、しかし、キンちゃん、ギンちゃんはフォフォフォフォフォーンと、激しい否定の様子。


「あ、違うって」


「違うんですか!」


 期待したのにと、ルーは肩を落とす。


「ギンちゃんも一緒に否定してるから、違うのは間違いないな」


 それも激しく否定だ。


 ルーはそれなら仕方が無いかとあっさりと納得する。


「そう簡単に答えは出る物でもないですしね。でも、ダンジョンで死んだモンスターや人間が、どういう理屈でダンジョンに取り込まれるのか、そこにダンジョンの意思が介在しているのか、少しだけ分かったかもしれません。これからいろいろ推論も立てられますし、キンちゃんたちがいればできる実験の幅も広がりますね」


 がっかりした様子から一転、とても希望に満ちたルーの声に、サトルはおやと首をかしげる。

 今さっきのキンちゃんの行動に、一体何があったというのか。

 キンちゃんたちを使っての実験とは何をするつもりなのだろうか。


 どういうことなのかとサトルが問うと、ルーは待っていましたと笑みを強くする。

 それは自分の考えを披露する機会を与えられた人間の、自信に満ち溢れた笑みだ。


 ルーはびしっと指を立て、特満面に語り始める。


「ふふふふ、実はですね、このダンジョンには意思があるのでは、という推論があるんです」



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