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コウジマチサトルのダンジョン生活  作者: 森野熊三
第十一話「コウジマチサトルの奮起」
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12・ガランガルダンジョン下町へ帰還

 真っ先にサトルはルーの家へと帰ったが、どうやらルーたちは留守だったらしく、どこの入り口も施錠をされていた。

 サトルは一応ニゲラが持っていた、元になった人間の遺品だというケープを纏っていたので、街中でも血まみれの姿を咎められることはなかったが、流石にいつまでもこの姿でいるわけにはいかないと、頼れる相手を思い浮かべる。


 やはりここはローゼルを頼るべきだろう。もしかしたらルーたちもそちらにいるのかもしれないと淡い期待を抱いて、サトルは互助会の会所へと向かった。もちろんニゲラも一緒だ。


 会所に行くと、受付のステビアが、まるで死人がよみがえったのを見たかのように驚き飛びあがった。

 その悲鳴を聞いて、慌てた様子でローゼルが奥から出てきた。どうやら受付の奥の事務所にいたらしい。


「ただいま戻りました」


「サトル君! 君……」


 ローゼルは今までにない取り乱し振りで、大きく目を見開き毛を逆立てていた。よほどサトルの帰還に驚いたのだろう。


 ローゼルの様子から、少なくともサトルが竜によって誘拐されたと言う事を聞いているのだと分かった。

 だがその報告をしただろうルーたちの姿はない。


「ルーたちは、いないんですか?」


 訊ねるサトルに、ローゼルは頷き確認する。


「ここに来たと言う事は、家には帰ったんだね? 彼は?」


「はい……彼についてはおいおい話します。俺の恩人です」


 ルーの家は留守で、すべての入り口が戸締りされていたことも伝えると、ローゼルはだろうねと、少し困ったような笑みを浮かべ、サトルの背後にピタリと寄り添うニゲラをいぶかしげに見つめる。

 ニゲラはニゲラで、サトルの腰にう腕を回し抱き着き、ローゼルを警戒する視線を向けている。

 サトルは色々注意したいと思ったが、それよりも話を先に勧める方が大事だと我慢する。


「彼女たちは陽が昇る前にダンジョンに潜った。君がいると思わしき場所に見当がついていたのでね、ダンジョン内からその場所へ通じるルートもある。だから全員で君の救助に向かったのさね」


 それはサトルにとって意外なことだった。

 ルーたちはてっきりサトルの居場所も分からず、まずは情報を集めることからすると思っていたのだ。

 しかし実際は陽が昇る前にダンジョンに潜ったという。それはつまり前日にはすでに、サトルのいた場所が明確に分かっていたという事だ。


「そんなに簡単に分かる物なんですか?」


「君の体に群がる妖精たちを、シーちゃんとやらが感知できたらしい」


 ローゼルの言葉に、サトルのみならず、妖精たちもしまったとばかりにフォフォーンと呻いた。


「……そういうことか」


 シーちゃんが一人だけいないと言うのは気が付いていた。

 シーちゃんはコミュニケーション能力が高いので、きっとルイボスたちと一緒にいると思っていたのだが、この様子からすると、最初から自分で残って、サトルの居場所を知らせるつもりだったのかもしれない。


 妖精たちがシーちゃん以外全員サトルについて来ていたのは、きっとニゲラが自分たちの作ったキメラだと気が付いていたからだろうとサトルは思っていた。

 シーちゃんもニゲラの事を分かっていたうえで、サトルの居場所をきちんと知らせておくべきだと考えたのかもしれない。


 しかしながら妖精たちの言動は、人が見て「たぶんそういう事だろう」程度しか分からないので、鳴き声以外の行動が見えているサトルですら、今だその真意を読み誤る。

 もしルーたちがシーちゃんの本当に伝えたいことを理解していたなかったとしたら、もしかしたらあまりよろしい事にはならないかもしれない。


 サトルはしまったなと口元を押さえ、漏れそうになる唸りを堪える。

 あの桜の咲いていた場所にサトルはいない。しかしサトルを探そうと捜索をしたら、十分行き着く程度の距離にコーンの巣がある。

 もし迂闊にも、サトルを探してルーたちがコーンの巣に侵入するようなことがあったらどうだろうか。


 コーンはサトルに対しては友好的ではあったが、ニゲラはコーンをして、人間が近づけば手ひどい目に合うと言っていた。

 もしコーンが虫を払うような感覚で、ルーたちを攻撃するようなことになったとしたら……。


 サトルは嫌な想像を振り払うことが出来ない。


「それと、君がいると目された場所が、よく調査に赴いていた場所だったのでね、そこまでのルートが確立されていた。行幸だったと思ったのだけど、こんなにあっさり帰ってきてしまうんでは、そうでもなかったかねえ」


 ははっと、笑い話のようにローゼルは言うが、サトルには全く笑えなかった。

 せめて場所が分からない、分かっても行くことに躊躇いがあるような場所だったら、こんなにもあっさり行き違いにならなかったことだろう。


 しかもローゼルが言うには、サトルがニゲラによって連れて行かれた桜の場所は、よく調査に赴いていた場所だという。

 ニゲラの正体と、あの場所の光景を知ってしまったサトルには、それがどういう理由か想像に難くなかった。


 サトルはニゲラの事をローゼルにだけは話そうと決意する。


「……あの、それについて話たいことが」


 だが、そんなサトルのお言葉を遮るように、どたどたと慌ただしい足音が階段を駆け下りてきた。

 見ればヒースとモリーユが、顔を真っ赤にし、尾を立て耳の毛を逆立てて、サトルに突進してくるところだった。


「サトル!」


「……良かった」


 二人はサトルを弾き飛ばさん勢いで飛び付いてきた。


「うぐ……ヒース、モリーユ……君達だけか?」


 二人の勢いに倒れそうになるサトルを、ニゲラがとっさに支える。

 互助会の会所に来る前に、いいと言うまで喋るなとサトルが言っていたので、ニゲラはできるだけ声を押さえていたが、流石にサトルを押し倒しそうになった二人には、喉の奥からグルっと獣の唸るような音を立ててしまう。


 サトルは慌ててヒースとモリーユに、自分は無事だと伝える。


「俺は無事だし、竜は俺たちにとって必ずしも敵じゃなかった。とても話の分かる相手だったんだ」


 竜を擁護するサトルに、以前竜と会話したいと聞いていたローゼルが、本当にできたのかと驚く。


「何だねサトル君、君やっぱり竜と話したのか!」


 サトルは頷き、ヒースたちを納得させるために、噛んで含めるように言い募る。


「ああ、とても気の良い奴だ。だから安心して欲しいと言うか、出来るなら彼らの住処を荒らさないで欲しい。無駄に荒すのは彼らにも迷惑だし、たぶん本気で怒らせて攻撃されたら人間なんて抵抗しようがない」


「随分と肩を持つ。そんなに良い輩だったのかい?」


 そんなにも竜は良い存在だったのかと問うローゼルに、サトルはもちろんだと深々とうなずく。


「当たり前だ。彼らには、ダンジョンの妖精を探す手伝いをしてもらった。今俺の傍にいる妖精は、二十人だ」


 サトルに群がる妖精たちは、ローゼルの目には光にしか見えない。しかし言われてみればその光の数がやけに多いことは分かった。

 ヒースやモリーユも、一気に倍以上に増えた妖精たちに驚く。


「そんなに? キンちゃんたちの仲間そんなにいたの?」


「ああ、竜のおかげで集めることが出来た。あと十人くらい竜が集めてくれるはずなんだ。だから、彼を傷つけたくない」


 本当はたまたま食べたモンスターの中にいた妖精を取り込んだだけということなど、詳しく説明すると面倒だったので、サトルは都合のいい情報だけを取り出して伝える。

 メリットになる情報さえ伝えれば、サトルが竜を擁護する理由としては十分だった。


 ローゼルはサトルの言葉を聞き、それならばわかったと頷く。


「成程、ならば我々が竜に敵意を向けるのは問題だ。サトル君、セイボリー達が結成した、君の救助隊の後を、追うかい?」


「それしかないでしょう」


 ルーたちにも竜にも被害を出さないようにするには、後を追ってサトルが無事だと教えるしかない。

 ヒースとモリーユも、だったらと手を上げる。


「だったら俺も連れて行って!」


「私も……お願い」


 まだ十代の子供らだが、ダンジョンについては知識のないサトルよりも頼もしい存在だ。サトルは頼んだとヒースの肩を叩く。


「ああ、俺だけじゃ絶対に踏破できないし、出来る限り手は多い方がいいと思う」


 火力はともかく、四方から攻撃されるようなことがあれば、サトルには手立てがない。

 セイボリーやオリーブのように、前衛で盾役をできるのは、今の所ニゲラだけだろう。


「よし、では私が人を集めよう、君達はすぐに出られるよう、準備をしておいてくれよ」


 サトルの不安を察したか、にいっと深く笑みを浮かべ、ローゼルが言った。


「嫌な笑みだ、貸しは高くつくとか、言いださないでださいよ」


 ため息を吐くサトルに、ローゼルはどうだかね、と嘯いた。


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