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コウジマチサトルのダンジョン生活  作者: 森野熊三
第十一話「コウジマチサトルの奮起」
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3・ぺインズストーリー

 サトルに見て欲しいとニゲラが連れてきたのは、桜の咲く場所から峰を登った先の、少し岩の多くなった場所だった。

 崖状になった岩場に大きな裂け目があり、ニゲラはさらにその奥へと進む。

 奥は岩盤が崩落しており、天井に大きな穴の開いたホールになっていた。


 昼の日の光が降り注ぐそこに、猫のように手足をしまい込み丸くなった竜がいた。

 鱗は艶やかな緑。椿の葉のような肉厚で滑らかな鱗に覆われている。

 とても綺麗だが、その巨躯だけで、竜がただただ綺麗、では済まない生物だというのが分かった。


 サトルたちは竜から十メートル以上離れ、ホールに直接入らない位置で姿を観察する。


 竜のサイズはニゲラよりも二回り以上大きく、ニゲラがタンクローリーならば、この竜はよくあるコンビニの店舗ほどのサイズに見えた。


「彼です」


「竜ですね」


「竜です」


 ニゲラ曰く、この竜の腹の中に、キンちゃんたちと同じダンジョンの妖精がに十匹ほど囚われているという。


「死んでいるのか?」


「生きています」


 よくよく見てくれとニゲラに促され、巨大な竜の体を観察すると、確かに呼吸に合わせて体が上下しているのが分かった。


「どうしてあんなにぐったりしているんだ? それにこの時間帯は食事に行くんじゃ?」


「竜は確かに人間から見ると大喰らいに見えるでしょう、でも体の割にはそんなにたくさん食べないので、毎日食事をというわけでもありません」


 だからこそ、あの平原の草は食べ尽くされるわけではないのだとニゲラは言う。

 確かに草食の動物は大喰らいが多く、象などが群れで襲ってきたら、人の集落にある草木など一日にと持たないと聞く。

 それが竜にまで適応されてしまったら、確かにあの平原の草などひとたまりもないだろう。


「ただ、あの人はここしばらく、ずっとあの様子なんです……そして、わずかに寝返りを打つごとに、腹部に母さんたちの光が見えます」


 さすがにタイミングよく寝返りを打つと言う事は無かったが、ニゲラからサトルへと乗り換えた妖精たちが、そろってフォンフォンと何かを訴えるように鳴いている。


「本当だ、キンちゃんたちも反応してる。飲み込んでるのか……だけど妖精は物質をすり抜けられるんじゃないのか?」


 それはモンスターに取り込まれていた妖精たちに関しても思ったことだったので、サトルはこの際にと話が通じるだろうニゲラに聞いてみる。


「竜の体を構成している魔力のせいで、普通の物質のように簡単にはすり抜けられません」


「俺の体はすり抜けるが」


「人間は目の大きなザルみたいなもので、竜ほどになれば、密度の濃い布の様な物です」


 魔力が妖精を捕らえるために必要なものだとしたら、それができない人間は、魔力が足りないと言う事だろうか。


「人間って、もしかして魔力が少ないのか」


 そう言えば、ニゲラは平原でためらうことなく魔法を連発していたが、マレインやモリーユは加減をしながら自分たちが使える魔法を選んでいるようだった。

 大きな魔法を使った後に、二人はそれぞれ肩を大きく上下させ、息が上がっていたので、魔法は相当疲弊する物だと思えた。


「はい。というよりも、魔力と呼ばれるものと、人間がダンジョンの悪素、と呼んでいる物の根本は同じ物です。密度の違いや、そこに混在する別種のエネルギーのせいで、人間にとっては全く別の物として捉えられるんですけど……ある種の魔力はあまり濃いと、人間には毒気になります。人間はたぶん、魔力への耐性が低いんです」


「別種のエネルギー?」


「竜はそれに名前を付けていませんでしたし、僕の元のになった竜も、ふんわりと認識していた程度なので、分かりません」


 それはサトルからしたら驚くべき情報だったが、反面納得もできる話だった。

 動物がモンスター化することや、モンスターの中に妖精が囚われる理由が、同じエネルギーによるものだと言う事だろう。

 しかしながらサトルはそういったモンスターやダンジョンの悪素について知っていることは少ない。


 専門的な話は専門家の役目だ。


「君をルーに会わせたい」


「僕も、ルーという女性に会ってみたいです」


 ニゲラの言葉に、サトルはぎょっとする。

 ルーたちに聞いたところ、シャムジャやラパンナには、男性、女性の名前の差があまりなく、ヒュムスには名前の末尾の音が性別に則していることが多いと言っていた。

 ルーはそれで言うならば、男性的な末尾の音となるのだが。


「女性って言ったっけ?」


 問えばニゲラは首を横に振り、懐から鶏の卵ほどの大きさの金属のコンパクト。よく見てみればロケットペンダントのように、身に着けるための革紐が通してあった。

 何故そんな大きさなのかとサトルは思ったが、ニゲラがロケットを開き中を見せたことで納得する。


「僕の元の人間が、大事にしていた物です」


「……そうか」


 ハイライトで輪郭を強調した水彩の、人物の集合画。サトルの知らない人間もいたが、うち三人はサトルの知っている人間だった。


「これはルーに絶対に見せるな、俺がいいと言うまで、絶対にだ」


「はい、僕もその方がいいと思います」


 ニゲラはすぐにロケットを懐にしまい込み、大事そうに胸に掌を当てた。

 これはサトルが簡単に指示を出していい物ではない。ニゲラ自身も元の人間の思考が分かるのか、あまり自分が話すべきではないと思っているようだ。


 サトルはこの世界の倫理観を知らない。しかし、もし死者に尊厳を認めているのなら、きっとニゲラは彼女たちに忌避される存在になるだろう。


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