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コウジマチサトルのダンジョン生活  作者: 森野熊三
第十話「コウジマチサトルの危機」
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11・……の追想

 バレリアンの言葉にカレンデュラは首を傾げる。


「竜の巣の縮小版? 聞いたことが無いわ」


 アンジェリカも同じように、それを知らないと怪訝な様子。


「そうね、竜の巣が羽冠岳以外にもあるだなんてそんな恐ろしい話、あるのかしら?」


 オリーブたちのパーティーはセイボリー達のパーティに比べて、かなり互助会からの仕事の斡旋を受けていいるため、活動の内容に差があった、それに気が付きクレソンは分からないのも無理はないかと苦笑する。


「あー、そっか、上層連チャンじゃねえと聞かないか」


 周囲の警戒にもどっていたアロエとモリーユも、輪の外から聞いたことなかったと声を上げるが、オリーブだけは耳にしたことがあると答えた。


「いや、あの嶺にはそういった場所が何箇所かあるとは聞いたことがある。巣と言うよりも、単体行動をする竜が、このんでい付く場所があるのだろう? しかし、小規模の竜の巣の場所へは、基本的にどこでも初階層から短距離でつながるルートが見つかっているとも」


 オリーブの言葉にルーは顔を明るくする。

 すでに初階層から迎えるルートがあるのなら、サトルを助けに行くのは容易なはずだ。


「それでは、そんなに危険はない場所なんですね?」


 だがそんなルーの期待の言葉をセイボリーが否定する。


「逆だな」


「どういう意味です?」


「初階層へ短距離で通じるルートを見つけられない場合、パーティーが全滅、もしくは壊滅し、辛うじて報告がある、ということだ」


「え……」


 セイボリーの言葉をクレソンが端的に言い換える。


「生き残れたらラッキー、運良く逃げられた奴だけが、場所を伝えてるんだよ」


 つまりそれ以外の竜の巣を見つけた冒険者は、生きて帰ってきてはいない、という事だと、険しい顔のクレソン。


「竜の巣は竜の老廃物やドラゴナイトアゲートとか、特殊な素材が採取できるからな、挑むやつらはそれなりに多いんだ……けどよ、そうそう簡単に行って帰ってこられるような場所なら、もっと話が広まってるだろ? 実力もねえのに行って帰ってこれない場所だから、基本的に竜の巣の場所の話ってのは、上に上る奴らの間でしかしないようにしてんだ。さすがに同業者がこっちが寄越した情報で死にました、ってんじゃ、寝覚めわりいだろ」


 緘口令というまではいかないが、話を聞かせる人間は選んでいるというクレソンに、オリーブは納得したと頷く。


「なるほど、私たちの方へと話が来ないわけが分かった」


「冒険者のくせに堅実すぎんだよ姐さんらは」


 オリーブたちのパーティーが、基本的に死なないことを前提とした仕事ばかりを受けていること、自分たちの身を一番大事にしていることは、傍から見ても分かる事だった。

 先ほども道中で話していた通りである。そして、それは冒険という言葉とは程遠い価値観であることも、傍から見てわかる物だった。

 オリーブはそんな自分のパーティーメンバーを確認し、それでも自分は冒険はできないなと苦笑する。


「命あっての物種だ。我々の間では、友の命は目先の利益よりも優先される……だからこそ、我々はサトル殿を助けたいのだが、クレソン、君はどうだ?」


 クレソンはふんと鼻を鳴らし、不機嫌そうに尾をくゆらせる。


 サトルを助ける。そのことに異存がある者はいなかった。

 たとえ救助に向かうべき場所が、危険をはらむ場所だったとしても、彼らはサトルを助けたいと思っていた。


 セイボリーが議論は済んだと、答えを出す。


「今日の夕刻を待って町へ戻る。ボスに話を通し、サトルの捜索、救助の許可を貰う。異存のある者は?」


 セイボリーの問いに、いるわけがないとマレインが苦く笑う。


「これは僕らの失態でもあるからね、むしろここで彼を助けなければ、僕らは恥を上塗りするだけさ」



 それから夕刻を待って、宣言通り彼らは町へ戻った。

 危険は変わらずある場所なので、足取りは慎重だったが、出来る限り早く町へ戻り、互助会の会所へと向かった。

 朝出て行ったばかりのセイボリー達が、ただならぬ様子で戻ってきたのを見て、受付のステビアはすぐにローゼルへの面会を取り付けた。


 ローゼルは相も変わらず執務室に詰めていた。その机の上には、どうやら教会関係者から届いたらしい手紙。そのほかにも商工会の印が入った書類も見えた。この周辺地域の自治を担う組合や、自警団の大隊長印の入った手紙なども、乱雑に手紙箱に放り込んであるのが分かった。


 サトルに関しての問い合わせ、もしくは詰問状だろう。それともサトルを囲い込もうとしているローゼルたちに対する脅しかもしれない。

 何にせよ、それらの紙を見るローゼルの目付きから、穏当な物ではないのだと分かった。


「どうしたと言うのか、君達は明後日帰ってくる予定だったのでは?」


 手元の書類をまとめて手紙箱に放り込み、ローゼルが疲れたような低い声で問う。

 よほど忙しいのか、肌に艶はなく、目元にも濃い隈が出来ていた。


 この状態のローゼルにこれ以上の心的負担を強いるのはと、言い淀むセイボリー達。

 しかし、その中から一歩進み出て、ルイボスが要件を口にした。


「サトルが竜に攫われました」


「それはまた……」


 言いかけ、言葉を失い、ローゼルは机に肘をついて組んだ手に額を落とす。

 深々とため息をつき、自分を落ち着けるように、口の中でぶつぶつと何かを唱える。

 しばらくして顔を上げると、ローゼルは座った目付きでルイボスに問う。


「攫われたから、それで終わりというわけではあるまいね?」


 ルイボスは自分の肩に乗せていたシーちゃんを、ローゼルの机の上に下ろした。


「彼が、というよりも、彼が今連れているであろう七匹のダンジョンの妖精の位置は分かります」


「八匹と報告を受けているが」


「この子だけは残ってくれましたのでね」


 机の上に置かれたシーちゃんは、任せろとばかりにフォフォンと鳴く。


 ローゼルは思考するように目を閉じ、少しして立ち上がる。


「それで位置が分かると? 地図を用意しよう」


 以前にサトルに見せていた町の地図とは違う、複数の地図を書類棚から引っ張り出し、作業用の広い机の上に適当に広げる。

 一番上にダンジョンの階層を記した、アリの巣の断面図のような地図を広げる。


「それで、どのあたりだい?」


 普段の饒舌な様子はなく、淡々と事を受け入れ必要な情報を得ようと動くローゼルに、あまりにも冷静過ぎやしないかと不審に思い、ルーは何か事前に知っていたことがあったのではないかと、なじる様にローゼルに尋ねた。


「あの、何故そうも簡単に事態を受け入れているのですか?」


 ローゼルは数度瞬きすると、口元に小さい笑みを浮かべる。


「……サトル君は以前私に話したのだよ、もしかしたら、竜とも話せるかもしれないとね」


「それは聞いていません!」


「可能性の話というか、お伽噺の話だったからねえ」


 苦笑いのような、何か笑いをこらえるようなローゼルの言い方に、一体何が会ったのかといぶかしむルー。

 しかしアロエが思わず溢した言葉に合点がいった。


「あ、そっかダンジョンの所有者の話!」


「勇者……ですか」


 英雄願望はあるが、どうあがいても自分は勇者なんて柄じゃないと言い張るサトルが、自らを勇者に重ねて語るというのは、きっとジレンマや恥ずかしさがあった事だろう。

 ローゼルはその通りだと、笑いをこらえるように頷いていた。


「そうさね。何故わざわざ竜がダンジョンの所有者を宣言するために、元々この町にいた人間ではなく、何処かから召喚した人間を使ったのか? 考えたことはあるかい?」


 サトルが自らを重ねたであろう話では、ダンジョンによって召喚された青年が、竜の元迄赴き、竜を連れて帰ってくると言う話だった。

 しかし一般的な竜が人語を解したという事例自体は存在せず、その話はあくまでも誇張か、もしくはダンジョンに召喚された勇者だからこそできた事、あるいは、人語を解することのできる特殊な個体がいるのだろうと言われていた。


「サトルとタチバナは同じ世界の人間だと言うが、私の知るタチバナの使う言語は、この国の物とは音も形もルールも違う、全く別系統の言語。それを相互に理解できるようにする力がダンジョンによる召喚者には有るらしいと、サトル君と話してて確信してね。動物の言葉などは理解できるか? とサトル君に聞いたことがあるのだが、サトル君は精霊や妖精がせいぜい。言語を使っていない相手との意思疎通は難しいかもしれないとね。ただ、精霊や妖精と言葉を交わせるだけでも相当なのだがねえ」


 ダンジョンによって召喚された人間ならば、知らないはずの言語を理解することが出来るかもしれない。

 それが竜に適応されているとしたら、そうサトルやローゼルは考えたのだろう。


「竜は、言語を使うのでしょうか? サトルさんは、竜と会話をしているように見えました」


 ローゼルの考えを肯定するように、ルーはい自分が見たことを伝える。ローゼルはやはりねと、上機嫌に耳を揺らす。


「サトル君もね、竜が自分に話しかけたそうにしている気がしたと言っていたよ。ただ、それが思い違いだったら自意識過剰で恥ずかしいから、君に言うつもりはなかったようだがね」


「そんな理由なんですか?」


 ローゼルの言葉にルーは少し呆れる。別にルーはサトルが多少自意識過剰であっても問題はないと思っていた。

 サトルの力は本人が理解していないだけで、一般的な人間にはまねできないけた外れに高性能な能力なのだ。


「サトルさんって本当に馬鹿です」


 呆れのため息を吐くルーに、ローゼルは穏やかに問いかける。


「そんな馬鹿を、君は助けたいのだろう?」


 もちろんだと頷くルー。

 では、具体的に助けるための手立てを打とうと、ローゼルは広げた地図を指さした。


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