11・たぶん異世界人
ルーはこの日、朴念仁を拾った。
朴念仁とは、言葉少なく不愛想な人や、物事の道理が分からない人のことを言う。
そういう意味でその青年は間違いなく、ルーにとっての朴念仁だった。
「あんなにあからさまに触られるのを避けられるとは思わなかった……」
ルーははっきり言って自分の容姿に自信があった。
小柄かつ華奢な体つきでありながら、大きく膨らんだ柔らかな双丘。
異性のみならず同性からも庇護欲を掻き立てると言われる幼気な幼顔。
生きるための道具として、自分を使うことに抵抗はなかった。
だというのに、あの朴念仁はルーに興味を示す素振りすら見せなかった。
むしろルー自身ではなく、ルーの話す言葉に興味を持ってる風ではあったが、それ以上に、自分を召喚したという妖精に、とても強い興味を持っているようだった。
「興味というか、愛玩動物を見るような……」
愛玩動物というのなら、男性という存在は、女性に対してそういう感情を持つ物ではないだろうか。少なくとも自分の師はそう言っていた。ルーは呻く。
「やっぱり指突き付けて誰ですかはなかったですかね」
うっかり最初に怒鳴りつけてしまったのがマズかったのだろうか。
それとも隠し切れないダンジョンの妖精への好奇心、探求心のせいか。
とにかく、コウジマチサトルと名のる青年を、ルーは篭絡することが出来なかった。
「動物解体できなかったし、服装からしてもノーブルっぽかったし、一度失礼をしたら根に持ちそう」
食事の時までサトルは、ルーが話している間ほとんど目線も合わせず、触れようともせず、ルーからあえて接触を図って器用に避けていた。
ルーが少し肩を当ててやれと思って迫ってみても、まるで手慣れた様子でかわされた。
「まあ会話はかなり成立するし、どうやら仕事中毒者だったみたいですし、女性に免疫無いだけってこともあるかも……」
それは希望的観測だ。
希望的観測だが、それにすがるしかない。
ルーにとってサトルは師の残した研究を立証するための、何より大事な生き証人なのだから。
「とりあえず、サトルさんが戻ってくる前に済ませておきましょう。男は胃袋で掴めって、先生も言ってましたしね。今度は丁寧に作らなくちゃ」
ルーは最近めっきり増えてしまった独り言をつぶやきつつ、夕食の準備をする。少し多めに持ってきていた保存食があって助かった。
本当はこの祠を調べるため、もう数日泊まりこむつもりだったのだが、それよりももっと重要な物が手に入ったのだ、これを逃すつもりはない。
「だって、あの人絶対……異世界人だわ」
ルーの低く唸るような言葉に応えるように、祠の中から、フォーンと音が鳴った。