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熟練の操縦手

Sherman Fireflyを受領した4人は、ようやく戦闘に出るようです

Sherman Fireflyがいかに素晴らしい戦車かを広く知ってもらうために書いています

つまらない上時代・兵器考証も詰めが甘いですが予めご了承ください

次の朝、操縦手のエリックは早起きをして、

エンジンの暖機運転をするために格納庫へ向かった

吐息が白くなり、肌を刺すような寒さだった

寒いなぁ、と独り言を言いながら扉を開けると、

すでに車長のグレアムが作業に取り掛かっていた

「おはようございます、ずいぶんと早起きですなぁ」

エリックは工具を広げるグレアムに声をかける


「おはよう、出撃前はどうも眠れなくてね。

しかし私が言うのもなんだが、これは整備兵の仕事だろ?」

オイルの点検をしながらグレアムが言う


「私はもともと整備兵でしてね、その頃からの癖で、

自分でやらないと気が済まんのですよ」

バッテリー配線のチェックを終えたエリックが答える


と、そこに通信手のテリーが現れる

「おはようございます、無線機の整備がおわったら私も手伝いますよ」

彼も自分の扱う機械については自分で整備しないと気が済まないようだ

砲塔後部の格納箱を開けて無線機のチェックを始める


遅れて砲手のジョンも現れた

「おはよう、晩飯は一番最後に来た君のおごりだぞ?」

エリックが冗談めかして言い、みんなで笑いあった

しかし、とジョンが反論する

「一番最後に来たのは僕ではないですよ。

主砲と機銃の整備はもう済んでいるんです!

早く起きて戦車の整備をしてから、ランニングをするのが日課なもので」

この男、侮れない

「仕方ない、私が奢るとするよ」

諦めたようにテリーが言う


朝食まで時間があったので、地図を広げミーティングを行った

グレアムが味方車両や予測される敵の動きなどを説明する

「G6地点に敵が待ち伏せしている可能性が高い。

だからE2地点を通過した後からは周辺に注意すること。

今回の相手は4号戦車が中心だが、最近はティーガーやパンターもいるそうだ」

そして、こう付け加えた

「猛獣たちが相手になるかもしれない」

グレアムはアフリカ戦線を思い出した

できればそんな戦車は相手にしたくない


軽く朝食を済ませ、大隊長の訓示と中隊長の作戦説明を聞く

昨日からの変更はなく、出撃時刻を待つことになる

最終確認を済ませ、それぞれの車両に乗り込む

「このクルーで出撃するのは初めてだな

リラックスして、訓練と同じように動いてくれれば良い」

グレアムは大声で皆に言う

中隊長車から出撃命令が出る

「さあ、出撃だ!」


数時間後ー

グレアムは前方の村に敵戦車らしき車両を見つける

思った通り、待ち伏せをしているのか

エリックに停止を指示する

少し行き過ぎたので、岩のある場所まで後退する

ちょうど岩陰に車体を隠す形となった

ハッチから身を乗り出して双眼鏡を覗くと、4号戦車が2両停止しているのが見える

「1500m先、4号戦車が2両。打電しろ」

「敵戦車発見!F5地点に4号戦車が2両、周辺車両は要警戒」

通信手のテリーが打電し、即座に装填ができるように準備する

「後方の森まで後退して、そこから射撃するぞ」

グレアムの指示で森の中に入り、迷彩ネットで車体を覆う

「弾丸装填!」

テリーは砲弾を装填し、尾栓を閉じる

「砲塔がこちらを向いている左の目標から射撃しろ」

エリックの指示でジョンが照準器を覗く

落ち着いて車体側面の後部、エンジンルームあたりを狙い、引き金を引く

17ポンド砲はマズルから強烈な光を出し、

クルー達が聞いたことのないような発砲音で弾丸を送り出す

1発目は少し逸れ、一番装甲の厚い砲塔正面に着弾した

「駄目だ!第2射!」

撃った瞬間外れたことがわかったのか、

ジョンが悔しそうにテリーに再装填を伝える

「第2射は右の目標を狙え」

グレアムは構わず別の目標を狙うよう指示する

「了解、第2射は右の目標」

程なくして装填が終わる

「装填完了!」

「射撃!」

鋭い光と耳をつんざくような発砲音の後、車体が大きく揺れる

第2射は敵のエンジンルームあたりに命中したらしく、黒煙が上がる

しかし、少し遅かったようだ

こちらに砲塔が向いていた

敵が射撃を開始した


「左手の丘の方へ移動するぞ。急げ!」

グレアムの指示で迷彩ネットをたたみ、全速力で森を抜けて丘のふもとまで走る

「次弾装填完了!」

汗をかきながらテリーが叫ぶ

「建物の陰に4号戦車が2両!」

照準器を覗いていたジョンが報告する

「新目標から優先して射撃!」

森の方へ向けて射撃している最初の2両の戦車は無視して良いだろう、

というグレアムの考えだった


ジョンが狙いを定め、引き金を引く

何度聞いても聞きなれない発砲音だ

弾丸は少し逸れ、敵戦車の後方の土をえぐった

テリーが必死に弾丸を装填する

その間ジョンは、ハッチから身を乗り出して

周辺を見回す敵戦車兵に対して、同軸機銃を射撃する

敵の戦車兵は慌てて車内に戻った


敵戦車の砲塔がこちらを向いた

「気づかれた!装填急げ!」

ジョンが叫ぶ

射撃音がして、弾丸の不気味な飛翔音が聞こえた

自車後方に土煙が上がる

間一髪で当たらなかったものの、

砲弾があと数インチずれていたらどうなっていたかわからない

装填が終わり、ジョンの射撃した弾丸は敵戦車の車体前部に着弾した

弾薬に引火したらしく、爆音と閃光が確認できた


動ける残りの戦車2両は、こちらに射撃しつつ後退を始めた

今度の弾丸は明後日の方向へと飛んで行く

追撃をするために、グレアムが移動の指示を出す

エリックはギアを入れ、敵戦車の方向へ慎重に進んで行った


突然、2両の周りにいくつかの土煙があがる

増援の味方車両が到着し射撃を開始したのだ

2両はたちまち撃破され、燃え上がる


「この2両で作戦区域の敵戦車は最後だ。ご苦労だった、基地に帰投せよ」

中隊長車から無線が入り、テリーがそれを伝える

「じゃあ、帰るか。皆、今日はご苦労だった」

グレアムが帰路を指示する

皆で英国擲弾兵を歌いながら基地へと帰った


その夜クルーたちは、テリーのおごりの夕食と、豪華な食後のデザートを楽しんだ

中隊内で一番の成績である撃破1、大破1のスコアを挙げた彼らが表彰され、

賞品として食後のデザートがついてきたのだ

「いや、良かったですね!僕たち大活躍だ!」

ジョンは嬉しそうにスコーンを頬張っている

「どうせ私のおごりだ!じゃんじゃん食ってくれ!」

テリーはそう言いながらも嬉しそうだ

「じゃあ遠慮なく明日の分まで呑んで食うとするよ」

エリックは酒が入ったおかげで顔が真っ赤になっている


そんな中食堂の外では、

グレアムが一人で星を眺めながらちびちびと酒を飲んでいた

「どうした、そんな浮かない顔で」

気になった中隊長が声をかけてきた

グレアムは、少し考えた後答える

「私は、戦車長にむいていないのかもしれません

自分がその時ベストな判断ができているかわからないんです

今日も危なかった場面が何度もありました」


実はもともと、彼は後方支援の兵科を志望していた

通信や補給をはじめとする裏方の仕事だ

しかし、通信兵として配属されたのもつかの間、第二次世界大戦が勃発する

序盤は敵軍に押されに押され、もともと少なかった戦車兵はさらに少なくなった

そんな中グレアムはクルセーダーの砲手兼通信手として、アフリカへ配属される

通信技術は覚えているならあとは砲術訓練だけだ、との上層部の判断だった

しかしろくに砲術訓練もしないままアフリカに行き、熾烈な戦いを体験する

車両は撃破や故障で減って行き、乗員も戦死していった

補充が滞り、正規の戦車兵が少なくなっていく

そのうちグレアムは、

中隊の中でも最も戦車戦の経験が長い兵士の一人となっていた

そして、成り行きで戦車長となった

そしてその後何度も、戦車長として出撃を繰り返す

しかし、敵の潜水艦の活動を押さえ込んだ今は、

アフリカへの人員補充は問題なく行われた

正規の戦車兵と新品の戦車が前線に届いた

敵戦車の活動も穏やかになり、戦線は安定したのだ

そして、次に激戦が予想されるのはヨーロッパ戦線であった

本国から送られてまだ経験の浅いこの地域の部隊に、

新型戦車とともに「腕利き」の戦車兵が配属された


「本当は、腕利きでも何でもないんです。

アフリカで生き残れていたのは私が臆病者だっただけです」

中隊長は、時折吹く風に体を震わせながらも静かに話を聞いていたが、

少し難しい顔をして言った

「私が受け取った君の評価書類だけどね、そんなことは全く書いてなかったよ

前の部隊の君の上司は

『よく周囲が見え、戦術的分析に優れる。地味だが、的確な行動で部隊を支える』

と高く評価している。実際に今日の戦闘でもそうだったじゃないか

君が少し北側に逸れて行動していたのは、奇襲を警戒してのことだろう?」

中隊長が煙草に火をつけてくわえ、夜空を仰ぐ

寒くなってきたのか、立ち上がった

「戦場で生き残り続けた人を臆病者とは呼ばないよ、人はそ…を……と呼ぶんだ」

グレアムは手を振りながら歩いて行く中隊長の背中を、

何を言ったのか聞き返すことも出来ず見送った

風が強く、肌寒い夜だった

「ああ、この車かい?あのレースで優勝した、伝説の車だ。

ドライバーは結構歳食ってたけどあのハンドルさばきは常人のものじゃないね!

聞いたところじゃ戦争が終わって、WWⅠの後くらいから長いこといた軍から

今の職場に移ったって話だ。

そうそう、そのドライバー、技師として開発チームにも居たんだぜ?

自分の作った車に乗って優勝するってどんな感じなんだろうね」

ロンドン市内 パブ経営 モータースポーツファンの男性談

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