表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/41

第七話 三歳から始まる魔術入門。絶望篇

 

 魔術の訓練に挫折した俺だが、あれから未だに魔術の研究自体は続けていた。


 そこで新たに分ったことがある。


 それは、魔力の測定法と能力スキルの詳細だ。


 魔力の測定法は簡単だ。魔石と呼ばれる魔力を帯びた特殊な宝石を握りこむことだ。


 魔石は、中には魔獣や魔物の体内からとれる真珠や琥珀に似たタイプの物も存在するが、基本的には水晶の様な結晶が含まれた岩石で、鉱山やその周辺の川に流れ込んだ色付きの石の事を差す。

 

 そして魔石は魔力に反応して光る性質を持っており、人間が握りこむとその人間の持つ魔力量に応じて光の明るさや大きさが変わる。

 これを利用してその人間の持つ魔力の量を計るわけだ。


 そこで俺も早速、洞窟の中に飾られている魔石を見つけて精一杯それに触れてみたのだが、俺が握った魔石は光るどころか元の色を失い、黒く重いただの石になってしまった。


 この反応がどういうものなのか全く分からないが、少なくとも俺が通常の形で魔術を使うことが不可能な存在であることだけははっきりしたわけだ。


 ちなみに、魔石を意味の解らん黒い石に変えた俺は、魔術を使った母親に呪い殺されかけた。もう二度と、魔力を計ることはしない。


 次に、法術。


 法術について分かったことは、魔術とは幾つかの共通点を持つことだ。


 具体的には、精霊を使う以外はほぼ魔術と変わらないと言って差し支えない。


 より詳細に言うと、精霊に気に入られる方法自体は千差万別らしいが、多くの場合は修行僧のような生活を行うことで精霊の力を使えるようになるらしい。


 つまりは断食や滝行などの修行っぽい事をすると精霊に気に入られて法術を扱える様になるらしい。


 とは言え、どうも修行を行ったからと言って、誰もが平等に法術を扱える訳ではないらしく、精霊に気に入られるのは、やっぱり素質のある人間だけらしい。


 ただ、それを確認する方法がある。


 そこで再び登場するのが魔石である。


 魔石を握ると、魔力に応じて強い光を発するのは先に述べた通りだが、もう一つ魔石には精霊を呼び寄せる効果もあり、精霊に気に入られた人間は、魔石を通して大量の精霊を呼び寄せることができる。


 魔石に群がる精霊は色は様々ながら、綺麗な光を乱反射させた光の環を作るという。

 その輪が大きかったり、円の形が綺麗だったり、光が強かったりすれば、そいつは法術においては何らかの才能を持っていることの証拠となる。


 さて、此処で早速法術の才能を試す試験をする。


 方法は簡単だ。


 魔石を火や水の中に入れ、その火や水の中に魔力を注ぎ込む事で精霊が寄って来ると言う。

 魔術の才能を計るときの様に、直接魔石に魔力を注ぎ込むのと違って、間接的に魔石に魔力を注ぐことで精霊は人の前に姿を現すという。

 火の中に入れた場合は火の精霊が、水の中に入れた場合は水の精霊が寄って来るが、そうしてよって来た精霊の属性によって、どんな精霊を使った法術が得意かが分かるというものである。


 例外はいくつか存在するものの、基本的にはどんな属性であれ精霊が寄ってきた段階で、そいつには法術全般に対する適正が存在するということになる。


 そして、精霊は魔力の大きさに関係なく集まるものであり、魔力が無くても法術の達人になった例もあるという。


 そこで俺は、早速精霊に気に入られているのかどうかを試す為にタライの中に水を張り、その中に魔石を放り込んで魔力を注ぎ込見始めた


 するとあら不思議。


 水の中に入れた魔石は跡形もなく溶けてしまい、盥の中には色水だけが取り残される結果になった。


 どういうこっちゃ、こりゃ。俺が触れるとなんでもかんでも姿が変っちまうな。何だか賢者の石になった気分だ。どうせだったら黒い石とか色水じゃなくて、金にでも変わってくれれば文句はないのに、役立たずの色水とそこら辺の石に変化するとか、どんな無意味な錬金術だ。


 今の俺は神を呪いたい気分だが、今はそんなことをしている暇はない。

 魔術も法術も才能がない以上、活路を見出す為にも他の道を探さねばならない。できなければ死あるのみ。


 ちなみに、盥の中の水に魔石を溶かしてしまった俺は、父親に殴り殺されかけた。もう二度と精霊を計る事はしない。


 そして次に、能力スキルについてだ。


 これは、大きく分けて肉体強化系・魔力強化系・精霊強化系・特殊現象系の四つに分かれる。

 肉体強化系は、身体能力を高める能力。まあ、読んだまんまだな。主に筋力や脚力、持久力などを高める効果が多いらしい。


 魔力強化系は、魔術を発動した際にそれを補佐する能力。これは主に魔術の効果を増幅させる効果が多く、具体的に言えば火属性の魔術に対して、適性や耐性を高める能力を持てば、火属性の魔術の習得が簡単に成ったりする。要は、魔術限定のバフ・デバフ効果だと思えばいい。


 精霊強化系は、結果的な効果は魔力化強化系と同じものだが、今説明した二つの能力とは違い、上位の精霊を呼んだり、精霊の更に上に位置する存在である『神』との交信を行ったりする効果を持つことが多い。 つまり、魔力強化系とは違い、効果の発動までにワンクッションを挟む過程がある。


 そして、特殊現象系。これはもう簡単。上の四つの分類のどれにも当てはまらない能力を総称してこう呼ぶ。


 さて、ここまで能力の説明を果たしたのであるが、いよいよ魔力同様に能力を計ることにする。




 ここで三度目の登場、毎度ご存知魔石ちゃん。




 

 …………流石に此処まで来ると、この後どうなるのかの落ちも読めるが、それでもやらないわけにはいくまい。

 こちとら今後の将来かかってるんだ。


 さて、能力について図ることになったわけだが、その方法は少し法術の精霊を計る方法と似たものがある。


 まず第一に、和紙を用意する。そしてその和紙に対して魔力を籠める。


 次に、その和紙の上に魔石を置き、魔石の上から墨汁をぶっかける。


 こうすることで、魔石の持つ魔力と和紙に込められた魔術が反発しあい、その際に独特な波紋が目に見えない形で発生する。


 これを仮称『霊波』と呼ぶ。

 この『霊波』が発生した状態で墨汁をぶっかけると、大きく分けて四つのパターンの『霊波』によって、独特の紋様が和紙の中に浮かび上がることになる。


 このパターンによって能力の大まかな分類を見つけるわけだ。


 ちなみに、肉体強化系は円形の波紋、魔力強化系は三角形の波紋、精霊強化系は斑点、特殊効果系はその能力によってさまざまな紋様を浮かばせるために、判断が付きづらい。

 場合によっては、一度は別の系統の能力だと判断していたら、後で別の分類の能力だと判ったことや、その逆が起こることも多々あるらしい。


 さて、そんな説明はさておき、そろそろ本題。


 俺は早速和紙の中に魔力を籠め、その上に魔力を置いて墨汁をぶっかけようとしたのだが、その瞬間、どういう訳だか魔石が急に光り始め、突然爆発した。


 どうやら、俺の持つ特殊能力は、魔石を何かしらの姿に変える事らしい。という事には気づいたが、一体全体、それをどう言う形で利用すればいいのか、皆目見当がつかない。

 

 せめてもう少し法則性があれば、何かしらに利用できるだろうとは思うのだが……。ああああああ!! もどかしい!! 一体どうすりゃいいんだこの野郎! 生まれ来てから自分の才能には絶望するばかりだったが、この期に及んださらにそうなったぜ地区長!


 何だ地区長って! どこの自治会の長老だ! 俺は一体何を言っているんだこの野郎!


 …………自分で自分にツッコミを入れるのに疲れたぜ。取りあえず、能力に関しても俺の才能には余り期待しない方がいいというのは理解した。


 ちなみに、能力を確認する為に魔石を爆発させた俺は、父親と母親の二人に殺されかけた。もう二度と能力を確認する事はしない。


 とまあ、都合三度ほど死にかけたわけだが、ここで俺が漸く分ったことが三つある。

 俺には、魔力が無い事。俺を気にいる精霊などいない事。そしてついでに、スキルも無い事。


 恐ろしい話だでー。


 何しろ、この世界で生きていくために必要な力のほとんどすべてが使えない状態で、俺はこの世界を生きていかねばならないのだ。

 その上、親は粗暴な乱暴者なので、碌にまともな教えが乞えるとは思えない。

 家も山奥の洞窟に作られている為、そう簡単に人里のある場所までは出歩けず、誰かに教えを乞うことも助けを求めることもできない。

 一体全体どうしたらいいのか……。


 しかし、悩んでいる暇もない。何しろ、俺は今この瞬間ですら親に殺されてもおかしくない状況にいるのだからな。


 こうなると最後に残った武術を極めるだけ極めるしかないので、武術を極めようと思う。




 ☆★☆★☆★☆★




 さて、武術を極めることにした俺だが、此処で重大な問題が発生した。


 やってみて初めて分かったのだが、武術って難しい。


 そもそも何をしたらいいのか?それがさっぱりわからない。


 とりあえずは走り込みと木刀の素振りを続けようと思い、木刀代わりに洞窟の近くで拾ったなんかいい感じの棒をやったらめったらに振りまくっているが、どうにもピンとこない。


 ぶっちゃけ、剣の握り方しか俺にはわからん。


 せめて高校時代に受けた体育の柔道くらいまともに受けておけばよかったなと今になって思うが、それも後の祭りだ。

 まさか体育教師も、生まれ変わった後に役立つ授業になるとは思わなかったろうな。


 さて、どうしていいのか分からない以上、やったらめったらやる訓練を続けることしかできはしない。


 本当にこれでいいのか?それとも、本当はこれが悪いのか?。


 ああ、マジかよチクショウ。全然わかんねえ。誰か、誰か指導者よ出て来てくれ。頼む。


 兎に角、走り込みと素振りだけは続行だな。




☆★☆★☆★☆★




 走り込みと素振りを続けて三か月経った頃、俺の身体に変化が生じ始めた。


 まず第一に、体力が増した。


 三か月前までは出来なかった素振り百回が今では余裕で出来るようになり、走り込みの効果か体力も着実についてきている。

 それに、心なしか視力や聴力も生まれる前の頃、すなわち前世の人間だった時よりも心なしかよくなっている気がする。


 これが鬼に生まれたことに由来するのか、それとも単純にこの体だけが特別感覚が優れているのかはわからねえが。


 そして第二に、額に四本の角が生え始めた。


 ある日朝起きたら小さなでっぱりが額にでき、それが日に日に大きくなり、今では角と分かる程度には大きくなっている。


 とは言え、未だにまだ角といえるほどの大きさではないが。

 どちらかと言うと、なんか固くてとがったでっぱりでしかないが。


 そして、この角が大きくなることと並行して、どうも俺の体力も増しているらしい。


 角が生えたことと関係あるのかないのかは分らないが、何となく自分が本格的にこの世界になじみ始めた感じがあり、複雑な心境になる。

 俺は本当に鬼の子に生まれたんだなあ……。って感じだ。


 まあ、それはいい。どうでも。


 肝心なことは俺はどうすれば強くなれるのか。それだけである。


 武術はどこまで強くなったのかはわからねえし。そもそもこの訓練がきちんと的を射ているのかもわからねえ。

 

 せめて、自分がいまどれくらい強いのか確認がしたい。


 なんか、スライム的な手ごろな強さのやつがいねえかな。どうせ山奥に住んでいるんだから、そういうやつがいてもいいと思うんだが……。 


 そう思いつつ木刀を振っていると、ある日リスを見つけた。


 リスと言っても、額に赤い宝石を付けた黄金色の毛並みをした奴だ。


 見るからに高級そうな毛皮と宝石を持っているし、殺して毛皮なりなんなりを剥げば、いくらかの金にはなるかもしれないな。


 もしかしてあれが、カーバンクルってやつなのかな?

 ちょうどいい。俺の腕試しと小遣い稼ぎのためにと、とりあえず木刀を持って襲ってみた。


 めっちゃ強い。死ぬかと思った。


 リスかと思ったら、あいつらモモンガみたいなやつだった。齧歯類げっしるい違いだ。

 

 あいつ、空を滑空しながら額の宝石から旋風とか炎を起こして俺に投げつけるわ、宝石の付いた頭から突っ込んできて体当たりを決めるわとやりたい放題やった後、トドメに俺の頭にヘッドバット決めてきやがった。


 そうしてカーバンクルに逃げられた後、俺は痛みよりもショックの所為でその場でぶっ倒れたよ。


 まさか俺がリスよりも弱いとは…………。


 ただ、この感じだと俺の強さの位が大体わかったな。

 カーバンクルの強さがこの森の中でどの地位に来るのかは不明だ。これが強いのか弱いのか知らねえが、少なくとも鬼と龍の間に生まれた三歳児程度なら瞬殺できるほどの強さを持っていることが分かった。

 最低でも、このリスよりも強くなれば、毛皮を剥いだり宝石を抉り出して生活できるはずだ。


 それは、目標も見えず、ただひたすらに闇の中を手探りでさまよっているような俺にとっては、一条の光のような希望だ。

 

 少なくとも、あのカーバンクルを俺が狩れるように成れば俺の将来は、なんとか暮らせることができる程度の事は出来る筈だ。


 なんか、俺の将来がリスに掛かっているのは、あんまりいい気がしねえなあ……。


 まあいい。四の五の言っている暇はねえ。とにかくあのリスを狩る。


 それが俺の未来への第一歩なんだ。


 


☆★☆★☆★☆★




 俺がカーバンクルを見つけてからさらに二か月が経った。


 あれから、何度挑んでもカーバンクルには勝てない。


 遮二無二挑んでは見るものの、一向に俺の強さが上がっている気配はない。


 それどころか、時間が経てばたつほどに俺が弱くなっている気がする。


 最近、カーバンクル以外の動物を見かけるようになったが、そいつら全部がとんでもない化け物だと判って来たからな。


 普通にカーバンクルを餌にする角の生えた蛇だとか、その蛇を餌にする蛇の尻尾を持つ鶏だとか、更には猪の牙を持った虎だとか、やたらと強い鹿や猪だとか、もうわけわかんねえ。


 今俺がこうして生きているのは、奇跡に他ならない。


 成るほど、親父たちがこの山奥に住む理由が分ったよ。これだけ強い化け物しかいなければ、そりゃあ誰だって近づかねえわな。

 むしろ、魔力が無いのにこの場を生き抜けている俺の方がおかしいわ。


 そうして自分の幸運に感謝しつつも、自分の境遇を呪うという矛盾したことをしながら、俺は人知れず森の中で木刀を振り、森の中を駆け抜け、そしてカーバンクルを探してヘッドバットを決められる。


 こんな無限ループを延々と繰り広げていた。





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ