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第六話 三歳から始める魔術入門。挫折篇


 さて、三歳になった俺は文字が読み書きができるようになっただけでなく、足腰もしっかりし始め、そろそろ洞窟の外にも出れるようになった。

 よく考えたらスゲーな。俺、三歳の頃の記憶とかねーけど、この年齢で読み書きできるようになった覚えがない。

 転生者って、スキルとか関係なく、多分この時点ですでにチートなんじゃねーかな。

 


 と、言っても。



 と言ってもだ、結局は俺の身体は未だに三歳児である。

 三歳児ができる事には限りがある。


 何しろ、多少体は大きくなったとはいえ、所詮は生後三年しかたっていない身の上である。


 できることはせいぜいが、洞窟の外に出て周囲にある景色を見るか、その中で遊ぶだけである。


 まあ、一応は三年前と比べてそれなりに動くようになった身体ではあるので、無理をすれば山の麓にあるらしい人里まで行くことはできるだろうが、それはしない。


 というよりも、出来ない。


 赤ん坊の身体になって初めて、イヤ、この場合は改めて分かったと言うべきかな?

 大人の身体って、めっちゃデカい。前世の時の一番古い記憶で、五歳くらいの時に高校生くらいの従兄に肩車してもらったことがあるが、その感覚を二十数年ぶりに味わっているよ。

 はあ。本当に大人の身体ってあんなにでかいんだなー。子供の身体がとても小さいだけとも言えるが。


 ともかく、まずはこの体で出来ることをすぐに試すべきだろう。


 俺はそんな考えの元、魔術について研究を始める。



 ☆★☆★☆★☆★



 とりあえず、研究の末に分かったことが幾つかある。


 この世界には『闘技』、もしくはアーツと呼ばれる戦闘能力と、『異能』、もしくはスキルと呼ばれている戦闘能力の二つが存在している。


 このスキルってのは現状では詳細不明なので何とも言えないが、何でも、人が生まれながらにして取得している特殊能力で、戦闘のみならずに数多くの力があるらしい。

 とりあえず、先に書いた闘技とは別の固有能力ってのだけは分かった。


 此処については、オイオイ調べるので脇に置いておく。


 重要なのは『闘技アーツ』の方なので、まずそちらについて調べる。


 そもそも、『闘技アーツ』とは、『異能スキル』と違い後天的に取得することのできる技能全般の事を差し、本来は戦闘以外の技術をも含めた『芸事』をアーツと呼んでいた。

 しかし、この世界はどうもすさまじく物騒なようで、基本的には高い戦闘能力が尊ばれる風潮にあるために、戦闘能力の実を差して『アーツ』と呼ばれるようになった。

 ちなみに、アーツとかスキルって名称は、最近になって常世列島の遥か西に存在する白亜大陸と呼ばれる大陸由来の物だ。どうも近年になって常世列島は海外諸国との貿易を強化している傾向にあるらしく、所々西洋文化の影響を受けているらしい。そこらへんも日本の戦国時代に似ているな。


 さて。そのアーツだが、内容としては、大きく分けて三つの戦闘方法が存在している。


 魔術、武術、神聖術もしくは法術と呼ばれるものだ。


 そして、それぞれの技術に使われるエネルギーが別となっている。


 魔術には、魔力。

 武術には、闘気。

 法術には、精霊。


 魔術とは、読んで字のごとく魔力を使う闘技だ。

 その使用する魔力の量や、使われる技術によっては魔法や魔導という風に呼び方が変化するが、一般的には主に魔術という通称が使用されている。


 基本的には、銃火器の発達していないこの世界において、魔術は強力な遠距離攻撃方法として確立しており、大砲や鉄砲の様な扱いとしてこの世界に広く普及している。

 その為、基本的には魔術士は戦術兵器という扱いで戦場で重宝され、戦争においては魔術士の夥多で勝敗が決まるとは言ってもいいほどに重要な存在である。


 こうして、大砲ほどの強力な破壊力や攻撃力が存在している魔術だが、一方で魔術には大きく二つの弱点がある。


 第一に、技術の習得が難しい。

 これは魔術士の数の少なさにつながっている。

 そもそも魔術は、魔術其の物を始めとして、天文学や地理学などの膨大な量の知識が必要とされる上に、戦闘に使用するには戦闘に適した形にそれらの技術を組み合さなければいけない為、戦える人間は思いの外に少ない。

 これは戦闘において少なくない負担が魔術士に掛かることを意味しており、必然的に物量作戦に弱いという欠点にもつながっている。


 第二に、魔術には発動時間がかかる。

 魔術には大きく分けて、三種類の魔術が存在している。

 刻印魔術と詠唱魔術、そして召喚魔術だ。

 刻印魔術は、魔術的な力を持つ文字を書いたり、魔法陣を描くことで発動する。

 詠唱魔術は、呪文を詠唱することで発動する。

 詠唱魔術の問題点はシンプルだ。

 単純に呪文が長い。そのせいで術士の活躍に制限がかかってしまい、高火力ながらも機動力にかける結果につながってしまっている。

 一方、刻印魔術の場合、一見発動に時間は入らないように見える。

 しかし、刻印魔術の場合、魔術を発動した際に魔術を発動した物体が消滅する副作用が存在し、そのせいでおいそれと使用できない欠点が存在する。

 その上、厄介なことに技術的な制約から刻印魔術は大量に発動する事ができないらしく、刻印魔術の発動には慎重な態度が必要とされる。

 つまり、刻印魔術は発動に時間はかからないが、それまでの準備時間が長いという欠点が存在している。

 召喚魔術の場合はもっと時間がかかる。

 何故なら、召喚魔術とは詠唱魔術と刻印魔術を組み合わせた魔術になるからだ。

 そもそも召喚魔術とは、魔術を使用できる強大な存在を召喚し、魔術を使用する魔術である。

 召喚の為には魔法陣を描き、更には召喚の為に呪文を詠唱する必要がある。

 この様に、魔術とは、当たれば強いが、当てるのが難しいという欠点がある。


 つまり総評すると、この世界における魔術士とは、高火力と高い汎用性を持つ代わりに、稀少で持久力の無いのが魔術士の特性と言える。

 

 逆に言えば、これ等の弱点を克服しさえすれば、超強力な戦闘手段になりうるのが魔術士という事になる。


 次に、神聖術。もしくは法術と呼ばれる闘技。


 これは、精霊と呼ばれるエネルギーを駆使して使う技術だが、この精霊の扱いは魔力や闘気とはかなり趣が違う。

 

 そもそも、精霊とは何か。というと、自然界の中に存在する意思を持つエネルギーだ。


 とは言え、その意思はせいぜいが『餌があるから行く』、『障害物があるから行く』と言った、極めて原始的な物であり、どちらかというと微生物に近い。

 ただ、精霊はそんな状況から進化を行うことができるようになっているらしく、強力なエネルギーを帯びたり、時間経過によって成長した存在は、明確な自我や複雑な思考と感情を持つようになる。

 そうして、自律行動を行うようになったものを大精霊と言い、更にその中でも強い力を持つ者を精霊王と呼ぶ。


 神聖術とか法術とか呼ばれるものは、この精霊に気に入られた人間が精霊の力を駆使して魔術の様な能力を行う技術だ。

 そして、精霊に気に入られた者はこの派生として精霊のさらに上位存在する『神』に対して交信やその力の一部を行使することのできる『神降ろし』を行うことができる。

 しかし、精霊に選ばれた人間というのはごくまれなものである為に、この闘技を使える人間の数は少ない。


 ほかにも色々と細かいことはあるが、そもそも神聖術に対するこの洞窟内での蔵書量が少ないため、これ以上の事は分らない。


 これもまたオイオイだな。


 さて、最後に武術。


 これに関しては、蔵書が無いに等しいが、それでも辛うじて分かったことがある。


 それは、闘気と呼ばれるエネルギーを駆使して、超強力な戦闘能力を得る。


 数少ない本の中から推察するに、肉体強化の発動かなんかだと思う。


 まあ、とりあえずは基礎と必要知識は分った。

 後は何はともあれ闘技の習得だ。


 

 ☆★☆★☆★☆★



 さて、こうして三つの戦闘能力について調べた俺だが、この三つの中で何に焦点を置いて鍛えるのか。

 それは決まっている。

 

 まずは何と言っても魔術の訓練だ。


 自分が強く成る為なら、魔術でなくてもいいとは思うが、何しろ蔵書が山のようにあるからな。

 それに何より、やっぱり人間、使えると成ったら一度くらい魔術を使ってみたいものである。




 そんな軽いノリで始めた魔術の訓練だったが、俺は二時間で挫折した。



 洞窟の中に大量に存在する本によると、基本的に魔術とは詠唱によって発動するものとあるすので、とりあえず、俺の中に眠っている中二力を全開にして、考えられる限りの詠唱を行うのだが、幾ら念じても祈っても、やれ炎よ出ろ。等、色々なことを言ってを見ても、全然うまくいかない。


 生まれたての赤ん坊のころから、俺は両親二人に魔力が無いと言われていたが、実際の所、本当に魔力が存在しないのか?魔術が一切使えないのか?そう言う所は確かめたことがないから、分らねえ。




 ただ、何度も挑戦した結果分かったことは、俺には基礎的な魔術さえ使えないと言う事だ。




 どうしよう。ショックだ。やっぱり俺、この世界で生きていけないかもしれない。


 いやいやいや。落ち着け落ち着け。クールダウン。クールダウンだよ、俺。


 よく考えてみろ。この世に生まれたものは、全てに意味がある。そうだ。鳥の進化だ。


 鳥の中には空を飛べずに地面を走る物がいる。それは何故か?そうすることが生き残ることに必要だからだ。

 こっちの世界ではともかく、前世の地球では『空を飛ぶ』ということは、かなりのエネルギーを浪費することだ。

 身体も軽くなくては行けず、内部構造はかなりスカスカだ。骨はギリギリの耐久性まで絞られているために折れやすく、見た目の割には体重は無い。

 常日頃からギリギリの軽量化を目指している為に常に糞をしなければならず、それらの制限から解き放たれる為に地上に降りた者は多い。

 代表的な鳥が、ダチョウだ。


 ダチョウは翼を捨てることで巨体を手に入れた。それは何故か?地上で生きる方が大量の餌が手に入り、空を飛ぶよりもはるかにエネルギーの浪費を抑えて繁殖できるからだ。


 つまりは、俺もダチョウと同じだ。

 魔力以上の何らかの力を手に入れるために、生まれながらに魔力を捨てたのだ。


 そう。つまりは、俺は選ばれしもの。


 そうでも思わなきゃやってらんない。


 とんでもないドメスティック・ヴァイオレンスな家庭に生まれて、生まれてから今まで死にかけるばっかだったのに、才能なんかも損坐しませんとか。何だそりゃ?

 いくら何でも、転生してからの人生ハードモードすぎやしねえか?


 両親の種族がオーガドラゴンだぞ?リアルなモンスター・ペアレントじゃねーか。


 とりあえず、希望は捨てないでおこう。


 それに、見方を変えれば、これは本当の意味でチャンスでもある


 魔術師として優れた二人の間に生まれた俺が、魔術の才能が無い。ということは、二人の子供であるという疑いを逸らすことにもつながる。

 つまり、生まれながらに擬態できる要素がある。ということだ。


 いずれは二人と縁を切る気満々である俺からすれば、これは僥倖だ。


 そうとも。例え強がりだったとしても、この点だけは変わらない。それが俺のアイデンティティーさ。しぇけなベイベー。


 何か、無駄にテンション高くなって意味不明なことを言いだしたな。どうしたんだ俺。そんな魔術が使えないことがショックだったのか……?


 ……まあ、とり合えずはこの世界の魔術ってものを、より詳しく知る必要がある。

 もしかしたら調べていけば、百個に一個くらいは俺でも使える魔術があるかもしれないし、たとえ使えなかったとしても、魔術について深く知っていればその対処法も理解できる。

 所謂、ラノベ主人公的な、咄嗟の機転で戦って最強。的なことができる筈だ。


 それに使える使えないはともかくとして、どっちみち三歳児の身体しか持たない俺にできることは限られている。

 今はただ、手に入れられるだけの知識を、手に入れられるだけ手にすること。

 それだけでも、大きく俺の未来は変わるはずだ。




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