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第四話 三歳から始める座学入門。歴史・中世篇。

 

 さて、長くややこしい歴史を経て、常世列島には『オノゴロ国』と『高千穂国』の対立を経て『日高国』と『日向国』を加えた四カ国が建国され、それぞれが独自の文明を発展させることになった。


 だが、この国の歴史はさらにややこしい事情を経て四カ国の内の二ヶ国が統合されて、三国が鼎立した状態となるのだが、そこからさらにややこしいあれこれが加わり現代に繋がることになる。



 ★☆★☆★☆★☆



 前史の項のおさらいになるが、常世列島にできた四つの文明圏、高千穂国が築いた『翡翠ヒスイ文明』、オノゴロ国が築いた『骨牙こつが文明』、日高国が築いた『瑪瑙メノウ文明』、日向国が築いた『鉄火てっか文明』はその成立から、共通点と相違点を持っている。


 簡単に言うと、王を神の子とするのが、翡翠文明・骨牙文明・瑪瑙文明で、征服者が王政を敷いているのが鉄火文明。

 戦力を武器や武芸者などの武力に焦点を当てているのが、翡翠文明・骨牙文明・鉄火文明で、魔術を重点的に開発しているのが瑪瑙文明。

 金属器を使用して生活しているのが、翡翠文明・瑪瑙文明・鉄火文明で、石器を使用して生活器具にしているのが、骨牙文明。


 これらの特徴は、それぞれの文明の長所と短所を同時に、且つ端的に表すものであるが、特に王の項にそれは顕著に表れている。


 神の子孫が国を作ったのか、それとも成り上がり者の戦士が国を作ったのかという違いだ。


 つまり、神の子孫が創ったとされる高千穂国・オノゴロ国・日高国の三ヶ国は、宗教的な権威があったわけだが、日向国にはそれが無かった。


 些細に見えるが、このことは日向国の王家である豊田家にとっては重大な問題を孕んでいた。


 宗教的な権威を持つ他の三ヶ国と違い、豊田家は武力によって土地を支配しているという負い目から、常に謀反の危険にさらされていたのだ。

 実際、辺境とは言えオノゴロ国や高千穂国の影響下にあった地域を武力で支配している以上、征服や侵略は当たり前に行われており、豊田家に反感を持つ者は少なくなく、それを実行に移す者も又多かった。

 その為、豊田家は常に謀反の頻発する土地を支配することに、多大な労力を費やすことになった。


 一方で、戦力の項に目を移せば、他の三ヶ国が武力に重点を置いている中、日高国だけが魔術に比重を置いていることが分かる。


 これは軍事的な問題で常に日高国を悩ませていた。


 魔術士というものは、並みの兵士や剣士よりも遥かに強い、『生きた戦術兵器』とでも言うべき強力な戦力だが、その分、人材の育成と獲得に時間がかかり、多数の戦力を確保できない。という重大な欠点があった。

 一応、育成の時間を縮める事は出来なくは無いのだが、その場合、魔術士の質が低くなるという欠陥がある上に、どうしても教育に時間はかかってしまう割に剣士や兵士ほど即戦力にはならず、時間と資源を無駄にするだけ。という、百害あって一利なしな状況となった。 

 つまりは日高国は、建国当初から慢性的な人手不足に悩まされることになったのだった。


 こうして、豊葦原島中央部に誕生した二国は、建国当初から深刻な社会問題を抱え、常にその問題の解決のために奔走するようになる。


 そんな中、『五星大陸』から常世列島にある宗教が伝来する。


 それが、『空教くうきょう』である。


『空教』とは、前世日本でいうところの仏教に当たる宗教で、正直どういうものなのかはよく分からないが、簡単に言えば『精神統一して修行』みたいな感じの宗教っぽい。

 何か、ふわっとした説明過ぎてよくわかんねえが、まあ宗教ってそんなものだろう。


 さて、この『空教』が常世列島に伝来した際にいち早く反応したのが、日向国だった。


 この『空教』の思想や教義は、当時の常世列島には斬新な内容である精神修行や精神統一を図るものであり、この内容が、心身の鍛錬を至上とする『武芸者』達によく受けた。

 更には、調和や秩序を重んじる一方で、不信心者であったとしても、死ぬ前に祈ればどんな人間でも極楽に導いてくれるという寛容な教えは、一般民衆に広く受け入れられやすく、また、これは為政者たちにとってもとても都合の良い教えだった。


 先述の通り、日向国の豊田王家にとって、宗教的な権威の欠如は途轍もなく大きな問題であったが、この新しい宗教である『空教』は、豊田王家の問題点を補って余りあるものだった。


 秩序や調和を重んじる『空教』を国を挙げて信仰すれば、秩序や調和を乱す謀反行為に対して、神の教えに背くという大義名分を使用することができる。

 一方で、修行を教義の中に取り入れている以上、『大量の兵士』に『武術の修行』をつけることは何もおかしい事では無く、侵略行為や征服行為についても大義名分は立つ。

 豊田王家のこの目論みは大当たりし、『空教』の急速な普及とともに謀反人の数は急激に減少した。


 さて、こうして急速に広まり出した『空教』であるが、これに目を付けたのがもう一国存在した。


 それが、日高国である。


 当時、慢性的な人手不足に悩まされていた日高国は、それが魔術士に頼った軍編成にあることは理解していたが、魔術士以外の兵士を育成するには予算が足りず、魔術士以外の軍を作れば肝心の魔術士の軍が弱くなる。という、ジレンマに陥っていた。


 そんな中、急速に広まる『空教』の教えを見た当時の軍大臣は、日高国にも『空教』の教えを広めることで、民間の人間が自主的に武術を極めさせることで、国家予算を使わずにただで使える魔術士以外の軍勢を作り出そうとしたのだ。

 しかし、そんな目論見の元に広めた『空教』だったが、同じ修行をするなら魔術の修行をしたい。と、逆に大勢の人間が魔術士を志したことで、この計画はとん挫する。

 結果的にはこの目論みは外れたわけだが、これが思いもよらぬ結果を引き出すことになった。


 日高国の王である当時の天帝・桜国帝サクラクニテイが『空教』に帰依したのだ。


 これに対して、まさか周囲の貴族たちも、効果が無いとも信じるなとも言えず、当時の天帝の成すがままにしていたのだが、これがまさかの結果を呼び出すことになる。


 当時の日高国の王であった桜国帝は女帝であり、穏やかで優しい性格をしていたのだが、それ故にか、天然ボケの気があったようで『空教』に帰依した彼女は、当時の日向国の国王であった豊田とよた吉門よしかどに『空教』の教えの元、公式の場で同盟という形で二つの王家で二国を統治する提案を出したらしい。

 勿論、政略結婚ならばいざ知らず、同盟というだけでお互いの統治に口を挟むような真似は前代未聞であり、到底受け入れられるものではなかったが、あくまでも提案でしかない上に『空教』の教えを盾に取られてしまった以上、無下に突っぱねる訳もいかないので、冗談の類として始末するためにとても日高国が飲めない条件を突き付けて返す。という対応に出た。


 それは日高国が所有する三種の神器である『八尺瓊勾玉ヤサカニノマガタマ』と『八咫鏡ヤタノカガミ』と『天詔琴アメノノリゴト』の三点を日向国に差しだせば、それを了承するという返事だった。

 それは日高国の王室の支配の正当性を証明する『玉璽レガリア』であると同時に、強力な魔術や神聖術を行使することのできる兵器でもある為、当然、日高国の人間が頷くわけもない。

 冗談としては、多少ブラックユーモアが過ぎる様な気がするが、当時としてはそれくらいに彼女の言っていることが非常識であったのである。


 だから、この返答は、友好国の無礼に無礼で返すようなものだったのが、当の桜国帝はこれを了承する。


 日向国にしてみれば悪い話ではないが、日高国としてはたまったものではない。

 当然、家臣の大多数が女帝の判断に対して反対意見を出したものの、当時、高千穂国との関係が悪化し、強力な援軍を欲していた当時の日高国にとっても、政略結婚をせずに日向国からの援軍を派遣されることは日高国にとっても悪い物では無かったため、最終的には賛成せざるを得なかった。

 一方で、日向国としてみれば、約束を反故にされたところで何の損害も無いどころか、むしろ約束を破ることで『空教』の教義を否定することになる為に、引くに引けず、結局彼女の言う様に二国が併合されることになる。

 これ計算していっていたらヤバい奴だなー。


 それはさておき、こうして併合されることになった二国ではあるが、今まで敵対していた国が急に仲良くなりましょうと言っても、急に仲良くできる訳もなく、色々とすったもんだを繰り返した末に、日高国の皇室のみを王家として認め、日向国の王家は日高国に臣従する。その代わりに、政治機構は全て日向国の人間によって運営される。という条件の下で二国は統合されることになり、その証として、日高国の三種の神器を納める神社を豊田家が創ることになる。


 その後、鉄火文明の王であった豊田とよた吉門よしかどによって地上で最も美しい島と呼ばれた笠縫島に『笠縫神宮』が創建され、そこに『天照大御神』の神器を奉る形で神の力を瑪瑙文明と鉄火文明は共有する。

 それにより、日高国と日向国が統合され、日向国と日高国の丁度中心部に、新たな都となる『神田城』を建設し、新国家『日子国』が建国される。


 こうして、『空教』伝来によって常世列島には日高国と日向国の統合された『日子国』が建国されたが、この時に交わされた約定である、「日高国の皇室が王家として君臨する代わりに、武士が政権を握る」という一文。


 これが良くか悪くか、『文明の保存』に役立った。


 と言うのも、当初の予定ではどうも、公卿側はこの処分をあくまでも一時的な措置として飲み込み、ある程度時期が過ぎたら何やかんやと理由をつけて公卿側の人間だけで政治中枢を占める腹積もりだったらしい。

 というか、そうでも無きゃ普通こんな条件飲まんわな。面従腹背は何も政治だけの話しじゃないしな。

 まあ、それはともかく。


 結果的に公卿は政治の中枢からはじき出されることになったのだが、その後、彼等は政治の世界に戻らなかった。

 これは大きく分けて二つの理由が存在する。

 一つ目は、武士による政権運営が的確で、公卿側には政治の中枢に立ち入る隙が無かったこと。

 二つ目は、単純に政治を追い出された後の生活の方が楽だったこと。


 元々、公卿とは、魔術である『陰陽道』を始めとする学問の研究や、技術の開発を専門に行う学者集団である。

 そもそも政治や戦争の様な、力で白黒はっきりつける様な荒事は苦手だったのだ。

 しかし、公卿は政権運営から外された事により、逆に陰陽道やその他の多くの学問の研究・開発に集中することができる様になり、その為にも政治に関わる武士達とは少し距離を隔てることになったのだ。

 

 これが瑪瑙文明の継続に繋がった。


 中央の政治中枢から距離を置いた公卿たちは、瑪瑙文明に伝わる技術や知識、文化などを武士達に開示しつつも、新たに瑪瑙文明の中心地となる大都市『平穏京』を建設し、瑪瑙文明の本質を継続することになったのだ。


 こうして『空教』によって日子国は建国される一方で、一つの国の中に『瑪瑙文明』と『鉄火文明』の二つの文明が共存する形となり、その後、七千年の長きにわたって二つの文明は継続されることになる。


 一方で、日子国の建国に焦ったのが、他の二国である。


 強力な魔術を擁する日高国と強力な武力を有する日向国が統合されたことで、常世列島の中央部に突如として、強力な戦力と広大な国土を持つ国が出現したのだ。


 まともにやり合ってはとても勝ち目が無い。


 そこで、この二国も日子国と同じく『空教』を国教とすることで、秩序と調和を乱す侵略行為に対して、日子国の侵略の大義名分を奪うことにしたのだ。


 しかし、国の思惑とは別に、この『空教』は二国の文化や風土に、特にオノゴロ国の文化によく馴染んだ。


 高千穂国においては、元々、海外からの渡来人が創った国というお国柄、海外から伝来してきた宗教というだけでも、共感と強い好奇心を誘う教えであったが、特に心身の鍛錬に重点を置く修行の姿勢が、どこか血の気の多い人間が多い高千穂国の人間の心の琴線に触れ、熱狂的に受け入れられた。


 オノゴロ国に至っては、元々部族連合体から派生し、親族・家族間の結び付きが強く、血縁関係を重んじる風土から、信じる者は救われる。だが信じなくても、信じずに死んでも、祈りの言葉さえ捧げれば死後には必ず救ってくれる。という思想は、いざと言う時には身内を守ってくれる心強い味方となって、急速に国中に広まった。


 特に『空教』の秩序と調和を説き、自然との共存を重んじる教義は、石器を使用した文明と文化が根強く残る国であり、自然を強く大切にするオノゴロ国の人間に深く広く浸透し、その信仰ぶりは日子国を越えるほどに篤いものになっていた。


 秩序と調和を重んじるこの宗教は、常世列島の土着の信仰である『神道』とも混じり合い、そうして神を奉る神社と共に『空教』の教えを伝える寺は常世列島の各地に建立され、二つの宗教は深く常世列島全域で信仰されるようになっていく。

   







 

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