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史上最強の龍鬼仙人-花咲・酒丸の異世界転生珍道中ー  作者: 九蓮 開花
第二章 酒丸の剣 超絶仕事人・休庵宗修篇
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第二章 第十話 史上最強のジジイとの対決。

 あけましておめでとうございます。 

 およそ三週間ぶりの更新です。今回の話は少し短めですが、まあこの話を書くためのリハビリだと思って、大目に見てください。


「――――――――――――――――――――――――まッ!待、待てえ」



 そう言った俺の声は、自分でも笑ってしまうほど掠れて震えていた。


 それでも、俺は涙目になって手にした木刀を握りしめながらお袋を庇うようにしてジジイの前に立つと、小さく震えながら木刀を構える。


 自分でも何してるのか分からなかったが、ただ、何故か一度構えた木刀を下げる気は露ほども起こらず、震えながらジジイに剣を向け続ける事しか出来なかった。


「何のつもりだ?小僧?」


 そんな俺に、ジジイは怪訝そうな目をして見下ろしてくるが、その眼には俺が取った行動に対する不信感こそ現れていたが、そこに子供を見る時特有の穏やかさのような物は何も感じられず、言い替えるなら、隙や油断の様なものは何一つとして無かった。




 そして、ジジイのその眼を見た瞬間、俺は背筋に氷柱と炎と電気同時に流された様な感覚が走った。




 別に何をされたわけでもない。ジジイの放つ緊張感と威圧感だけで身体の芯を貫くような苦痛が襲って来る。

 人間が死ぬときってのは、こんな感覚なのかもしれない。一回死んでるけど分からなかった。初めて知った。知りたくも無かった。


 身体ががたがたと震えている。歯の根が合わずに喧しい音を立てている。それに加えて心臓が脳に直接神経繋がっているようにうるさく鳴っている。

 視界はぼやけて良く見えない。涙で曇っているだけじゃない。焦点が合わずに輪郭が何重にも重なっているように見えている。

 ヤベえ、怖え。本物の恐怖ってのは、此処までの物なのかよ。


 気絶か失神でもしそうなほどに意識が明滅している。何もされていないはずなのに、足元が揺れて仕方がない。

 それでも俺は休庵のジジイの前に立ち塞がると、もはや構えも何もなく、ただ手にした木刀を握りしめることしかできなくなりながらも、その場に立ってジジイに向かって勝手に口が動いてしまう。


「お、俺の、俺の母ちゃん……に、て、て、手を、……手を出すな!俺、お、俺のとうちゃ、父ちゃんに手を出そうとしてんじゃねえ!」


 ああ、クソ!本当に、本当に何してるんだ俺!

 俺を今まで痛め付けて、殺しかけて、暴言を吐くしかできない様な最低な奴らだぞ?何で今更になって庇い立てしてんだ!

 頭では分かっているのに、体はそんな俺の理屈を無視して、ジジイの前から一切動かずにいる。


 チクショウ!何だよコレ!今世の人生最悪すぎるだろ!


 内心で罵りながらも、それでも俺は握りしめた木刀に持ちうる力を込めて、その柄を握りしめる。



「………………………ふむ」



 一方で、俺の前に立つジジイは暫く顎に手をやり興味深そうに俺を眺めていたが、手にした刀を軽く降ると、俺に向けてそのきっさきを向けた。



「……この剣の名は、一丈灯篭いちじょうどうろう。魔剣にして神剣、聖剣にして妖刀の異名を語る霊刀だ。俺の持つ三本の刀の中で、最も価値と力のある刀であり、同時に常世列島でも数えるほどしか存在しない『最上大業物このうえなきわざもの』の一振りでもある」


 ジジイがそう語ると共に、一丈灯篭と言う名の剣は不意に淡く黄金色の光を帯びて輝き出した。


「刀身の長さは三尺五寸。刃紋は直刃すぐはで飾り気は少ないが、地肌が八雲肌をしていて鉄そのものの美しさを感じることが出来る。

 その名の由来は、見ての通りに剣に力を込めれば黄金の剣気を発し、恰も一丈先からさえも目に付く灯篭の様に輝く様を、人々がそう称えたことからだそうだ。その剣気は時に不死者を斬り祓い、時に迷える魂を彼岸に導き、怨念に凝り固まった悪霊でさえも容易く成仏させるその神聖さ故に神剣とも崇められる。だがしかし、その代償として鞘に納めぬ限り際限なく使い手の生命力を吸い取る故に、並みの使い手であれば人を一人斬ると同時に命を落とす魔剣でもある。

 魔除けでありながら、魔そのものでもあるこの剣は、常世列島に二つと無い、まさしく『最上大業物このうえなきわざもの』の一振りに数え上げられるに相応しい名刀だ」


 滔々と自分の刀に纏わる蘊蓄うんちくについて語り始めるジジイの様子に、俺は呆気にとられてその様子を眺めることしかできずにいたが、そんな俺を見てジジイは一瞬だけ静かに笑った。


「突然何事か語り出し始めて、意味ワカンねぇって面だな。そこもこれから説明してやる」


 一度ジジイはそこで言葉を切ると、担ぐ様に手にした刀を肩に置いた。


「剣士には、様々な流儀がある。常に命を懸けて剣を振るう剣士は、いつ死んでもおかしくない生死の綱渡りをしている様な存在だからな。それ故に、戦いの際には死亡と生存の両方に備えて置く事が求められるものだ。

 剣の由来を語るのは、そのうちの一つだ。これは、命をかけた斬り合いで、殺された後にその刀を相手に譲る事を考慮してのことだ。

 そうして戦後、死んだ相手の刀を貰い、時に売って金子にしたり時に代わりの剣としてとって置いたりとするが、売る際には出来るだけ高く売る必要があるからな。その時に由来や所以を語れば刀の値段も釣り上がるので、剣士は命を懸けた立会いでは、刀の由来を語るんだ。

 ……小僧、貴様が其処を引かねえ限り、俺はこれから貴様と命を懸けて斬り合うつもりだ。刀の由来を語るのは、その覚悟の証だ。だから一度しか言わんぞ?」


 そう言ってジジイは言葉を切ると、今までに無く静かに俺の顔を見据えた。







「今すぐに其処をどけ。さも無くば、俺はお前を本気で殺す」









 ジジイの言葉と同時に、周囲の気温が十度上がって十度下がった。


 いや、実際にはそんな事など起こるはずが無いのだが、そうなってしまったと錯覚してしまうほど、ジジイの殺気だけで周囲の空気が変化した。

 肌を切り裂く様な熱と冷気が俺に襲いかかり、静電気が全身に走るような衝撃が俺に襲い掛かる。


 だが、そのことで逆に、俺自身の腹が据わった。


 多分、俺は死ぬ。ここで死ぬ。だがそう思うと同時に、全身の震えと視界の揺らぎが止んで、俺の中には静かな覚悟だけが煮えたぎり始める。


 そうか。そうだ。俺はここで死ぬ。そして、もう二度と生まれ変わることは無いだろう。実際の所は知らんが、少なくとも今の様に記憶を持って生まれ変わることは無いと思う。

 

 だからせめて、最後の最期の瞬間くらいは、全力で抗ってやる。


 何に対する覚悟なのか。何に対する戦いなのかさえもわからなかったが、それでも自然とそう思えた俺は、重く、熱い、鉄臭い息を深く吐き出し、手にした木刀に俺の全身の力を乗せる。


 そして、

 


「斬閃!!」



 そう絶叫すると同時に、俺の中に眠る闘気の全てを絞り出して木刀に纏わせると、目の前のジジイに向けて黒く波打つ波導を撃ちこんだ。






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