表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
史上最強の龍鬼仙人-花咲・酒丸の異世界転生珍道中ー  作者: 九蓮 開花
第二章 酒丸の剣 超絶仕事人・休庵宗修篇
30/41

第二章 第六話 史上最強のジジイ、襲撃


 休庵のジジイをわが家の手前まで案内した俺は、一先ず家から少し離れた場所でジジイに隠れているように言うと、家の中の様子を窺う為に静かに近づいた。

 家の中から煙が上がっていないことは確認しているが、それでもできる限り静かに玄関へと近づく。

 家から煙が上がっていないのは、あくまでも意識のある状態の二人がいないというだけで、別に二人が家にいないわけじゃない。一度、煙が上がっていないことに油断して、不用意に音を立てて扉を開けて昼寝していた親父を叩き起こしてしまい、そのまま右眼が一時的に見えなくなるまで殴られたことがあった。

 それ以降、家に入る時には家の中身を確認することを怠らないようにしている。


 ジジイに俺の家に上げるとは言ったが、それでも俺の両親に合わせるとは言ってねえ。取りあえず、家の中に完全にあの二人がいないことを確認したら家に上げるが、二人の内のどちらかが居れば、今日の所は適当なところにジジイを隠して、改めて家に入れよう。一応、家を追い出されたように隠れ家の二つ三つは見つけてあるから、そこに居れればジジイでも一日分の雨露くらいなら凌げるだろ。


 そう心に決めつつ、玄関戸に隙間を作る様に静かに開けた俺は、そこから酒臭い匂いが漂ってきたことで親父か御袋のどちらかが昼寝していることを知り、ますます息をひそめて隙間からそっと家の中の様子を盗み見る。


 あー……。やべえな、今日はどっちも家で昼寝してやがる。

 俺は囲炉裏の傍で瓢箪や徳利を散らかして、意外にも静かな寝息を立てて寝ている二人の姿を見て深く静かに溜息をつくと、そこから音を立てないように足音を殺しつつそっとその場を離れた。 

 家から静かに離れた俺は、言う通りに姿を隠していたジジイの傍に近寄ると、肩を竦めて首を振る。


「……ジジイ。ダメだ。今日はどっちも家にいるから、上がるのはやめてくれ」


 とりあえず、明日の朝には必ず一度は外に出る筈だから、今日の所は適当な場所にジジイを隠そう。

 だが、そんな俺の思惑とは裏腹に、俺の言葉を聞いたジジイは不敵に笑って顎を撫でただけだった。 


「なるほどなるほど。良いことを聞いた。小僧、ちょいと下がっとれ」


 ジジイはそう言うと、俺を下がらせて洞窟の戸口の前に進み出て、大きく息を吸った。

 そして。


「やあやあ!!我こそは天下に名を轟かす、剛僧のほまれにあずかる休庵宗修なり。此処に無双の豪傑ありと聞き、いざ力比べをせんと欲す!!もしも此処にいるのが真に豪傑たる武士もののふであるのなら、我が前に出て果し合いに応じるものなり!!」


 途端に、周囲にやまびこが起こるほどの大声を出して、訳の分からない名乗りを上げた。


「はああああっ!!??何してんだジジイテメエえええ」


 俺はジジイの突然の暴挙に目を剥いてその胸倉に掴みかかるが、ジジイはそんな俺の様子を無視して笑っ何一つ変わることのない快活な笑いを上げた。


「うははははは。これだけデカい声を出しゃ、どんなに耳が遠かろうと、寝坊助だろうと流石に起き上がって来るだろう!!ま、小僧は少しの間俺の後ろに下がって様子でも見てりゃあええやん?」


「何で最後だけいきなり関西弁になってんだよ!!とにかく、今からでも遅くねえから逃げるぞ!!」


「関西弁?こいつは都言葉と言ってだな、日子の上方で使われている言葉であり—————」


「いいから逃げるぞ!!講釈は後で聞いてやるよ!!」


 この期に及んでまだ飄然とふざけた態度を崩さないジジイを連れ出そうと、俺はその手に飛びついて引っ張っるが、どう言う理屈か俺の力ではジジイをその場から動かす事は出来ずに、只ジジイの手元を引っ張る事しかできない。それでも、その場を離れようと必死にジジイに怒鳴り声を上げてここから連れ出そうとするが、どう言う訳か俺の力ではジジイをその場から一歩も動かす事が出来ない。


 そんな俺の大声に何かとんでもない事が起こっている事を嗅ぎつけたのだろう。

 今まで森の中に隠れていたワン太・ニャン太・リュー太の三匹が飛び出てくると、休庵のジジイを取り囲んで吠え声を上げるが、そんな状況でも休庵のジジイは底意地の悪い笑みを浮かべて俺らを眺めるばかりだった。


「おいおい、何してんだよ小僧。そんなに俺のこと好きなのか?まあまあ、後で遊んでやるから今はジジイの言う通りにして居ろって。別に悪いことは起こさねえよ」


 休庵のジジイは焦る俺を眺めながらそんなことを言うが、俺としては気が気でない。

 つーかふざけてる状況じゃねえんだって!!マジでヤベえんだって!!あの二人には、冗談の様な高尚な文化も慈悲とか言う崇高な思想も持ち合わせていないんだよ!!


 俺はもう、この状況に完全にパニックになってカラカラと笑うジジイを動かそうと躍起になるが、そうこうしている間に、無情にも玄関の引き戸を無造作に開ける音がした。



「……喧しいんな…………どういうつもりだぁぁあ………………」



 陰鬱に低く押し殺した様な声で洞窟の暗闇から出てくる親父の姿は、俺には地獄の獄卒の様に見えた。





☆☆☆☆☆




 いい気持ちで酒をかっ喰らっていた俺が目を覚ましたのは、外から聞こえてきた大声が原因だった。


 目を覚ますと、汎人族では只の暗闇に見えるばかりの部屋の中に、玄関の戸口から差し込む僅かばかりの光が見えるが、俺とあのガキを生んだ女は種族柄夜目が利くので、完全な暗闇も多少の時間があれば多少瞬きをするだけで部屋の中は薄暗いだけの部屋になる。


「……ウルセェな。頭いてえ…………」


 そうして目を覚ましてすぐに感じたのは、二日酔いによるものか寝すぎによるものか、頭の奥底に走る鈍い痛みだった。

 そんな痛みを抱えていると、どうやら、俺が鬼族の女に産ませガキが外で騒いでいるらしい。


「…………う……ッ……ン、うあ」


 俺が回らない頭でぼんやりとそんなことを考えていると、囲炉裏を挟んだ隣で寝ていた鬼族の女……あー、名前は何って言ったかな?元々、生意気な心をへし折る為にとりあえず凌辱しただけの関係なので、お互い名前を呼ぶ事さえ珍しかったが、最近では名前を呼ぶことさえも無いので、今ではもう女としか呼びかけられない。

 ま、今更になって名前を覚えるつもりも無いから、どうでもいいか。ともかく、今まで寝ていた鬼族の女は唸り声を上げながら目を覚まし、囲炉裏の側に起き上がろうとしている姿が見えた。

 どうやら、外の騒ぎにやられてこいつも目を覚ましたらしい。ツーことは、やっぱり俺を起こしたのもあのガキか。 


 俺は腹の底から湧き上がるいらだちと同時に起き上がる。

 あのガキ、一回殴れば何も言わずに従うとか思ってたんだが、予想以上にバカなガキらしい。今日は角が折れる位殴って分からせてやるか。丁度良かった。あのガキに生えている鬼の角が鬱陶しいと思っていたし、へし折ろう。

 あのガキの騒ぎ声を聞きつけて、あのガキが森の中で拾って来た真神や窮奇も騒ぎ始めた声が聞こえるが、その騒ぎも又俺の苛立ちを増々高めてしまう。

 その内飽きてどっかに捨てるかと思っていたが、ついでに殺しておくか。これ以上ウルセエのは勘弁だ。


「魔獣と、後あのガキを殺して来る」


「あっそ」


 俺の言葉に、女は不機嫌そうにこめかみを抑えながらそれだけ言うと、玄関に置いてある水瓶の中に柄杓を突っ込んで、咽喉を鳴らしながら水を啜る。

 は。呆れた女だ。自分が腹を痛めて産んだガキを殺す事と言われて、そこまで興味も無くいられるものかよ。

 ま、それを俺が言っても滑稽なだけだが。


 俺は水を啜る女を尻目に家の外に出ると、起き上がりの所為で上手く咽喉が動かず、図らずも深くドスが効いた様な声が出る。


「……喧しいんな…………どういうつもりだぁぁあ………………」


 するとそこには、女に産ませたガキと魔獣の他に、薄汚い袈裟を着込んだ坊主が錫杖を片手に仁王立ちになってニヤニヤしながら突っ立っており、その坊主にしがみつくようにガキがとりつき、魔獣が吠え立てている。

 魔獣に吠え立てられている坊主は、薄汚い恰好以外にも目を引く特徴として、その背には長大な刀を一本背負い腰元には二本の刀を佩刀していた。おそらく剛僧なのだろうが、一体どうしてそんな奴があのガキと一緒に居るのやら。

 まあいい。どうせここまで来た奴らは殺すからな。覚える意味もねえ。


「なんだテメえ?ガキが。え?ついに坊主に頼るまでになかったか。落ちぶれたもんだなあ。よくもまあ、その様で俺の前に出れてもんだなあ?いい加減、その根性を叩き壊してやるよ」


 俺のいら立ちを込めた言葉に答えたのは、ガキではなかった。


「おいおい。随分とまあ、ご挨拶な真似をしてくれるじゃねえか。戦いを挑んだ相手を無視して自分の子供の方が大事かよ?まあ、それならそれで構わんが、それにしちゃかける言葉にはもう少しばかり労りってものを込めることはできないのかね?」


 呆れるというよりも、小ばかにしたように俺に向けてそう言ったその坊主は、俺が鬼の女に産ませたガキを庇うようにその前に進み出て俺の前に立つ。

 ガキのせいでイラ立っていた俺の神経は、そんな坊主の態度で益々苛立ちを増していく。ツーか、もしかしてあれか?俺を起こした大声ってのは、この坊主が出したものなのか?

 

「うるせえな。わざわざお山に登ってまで躾の仕方に説教するほど、坊主ってのは暇人の集まりなのかよ。つか、まさかとは思うが、さっき家の外で大騒ぎして俺を叩き起こしたのってのは、もしかしててめえか?」


「おうともよ。どうよこの俺様が作った名文句?あの口上を並びたてられて俺の挑戦をはねのけた者はいないんだぜ?よっぽど、俺の文句には戦いに駆り立てる力ってものが――」


「いや、大声出されて鬱陶しいだけだろう。つーか、マジであんまに調子に乗ってんじゃねえよ。同じ死ぬでも楽な方が良いだろ?」


 俺は絡み方の鬱陶しい坊主を相手に、殺気を隠すこともなく凄みを利かせるが、坊主の方はまるで涼しい顔をしてからからと笑い声をあげた。


「フハハハハ。初手としては悪くない。ここまで凄みのある気配をさせているのは双頭に珍しいからな。俺が戦う相手としては悪くない」


「あ?」


 完全に俺のことを下に見たその発言に、俺のイラ立ちの矛先は完全に坊主の方に向く。


「……言ってくれるじゃねえか?その言葉の代償は高くつくぞ?」


「何の話をしてるかわからないけど、戸口の前でグダグダと言い合いされると鬱陶しいんだけど?一体、ガキを殺すとか言っておきながらどれだけ時間をかけてんのよ?」


 そうこうしているうちに、俺がガキを産ませた鬼の女も家の中から出て来ると、気だるげに髪をかき上げながら俺の隣に立つ。

 すると、その姿を見た坊主は顎を撫でながら考え込むようなそぶりを見せると、俺たちに向けて指を一本向けて自信満々に言う。


「なるほどな。そうか、そう言えばもう一人いるんだったな。ならこれはちょうどいい」






「二人がかりで俺にかかってきな。俺がてめえら二人をまとめて倒してやるよ」






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ